表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
187/232

185.現状確認①

じいちゃんと兄とわたしは、母屋の居間へ向かった。


部屋へ入ると、兄が座布団を準備し、じいちゃんとわたしへ座るよう促す。


わたしは兄へ、

『じいちゃんが上座なのは分かるけど……わたしはここでいいの?』

と尋ねた。


兄は、

『ご当主様と次期当主様ですので。』

とだけ答え、静かに周囲へ目を向けた。


すると、分家の方々がこちらを見守っていることに気付く。


兄は座布団を使わず、そのまま下座へ正座した。


わたしは、

「これが、この家でのわたしの立ち位置なんだ。」

と改めて理解した。


この待遇を受ける者には、それだけ大きな義務がある。

そして、その義務を怠ったからこそ、自分は今回の事故という責めを負った。


かなり高い授業料だったな… 怖くて痛くて、今でもトラウマだからな。

そう思い、わたしは小さくため息をついた。


すると、じいちゃんが穏やかな笑顔で口を開く。

『亜衣、何を知りたいんだ?』


わたしは姿勢を正し、

『はい。じいちゃんが当主。わたしが次期当主。

あっくんが仮の次期当主。そう聞きました。

それぞれの義務と恩恵を教えてください。』

とお願いした。


じいちゃんはゆっくり頷く。

『当主の義務は、朝夕のお務め。

この地域から三日以上離れないこと。

そして、期待を裏切らぬよう、常に自分が行える最善を尽くし続けることだ。』


一呼吸置いて続ける。

『恩恵は、

分家の者達が全力で尽くしてくれること。

何をしてもらうかは、自分が何を望むか次第だ。』


そして、

『次期当主と仮の次期当主の義務は知っているな?

篤志の中で見たんだろう?』

と聞いた。


わたしは頷く。

『はい。

朝夕のお務め。

ただし、この地域を離れている間は不要。

そして、期待を裏切らないよう、自分が行える最善を尽くし続けることです。』


じいちゃんは満足そうに頷いた。

『うむ。ただし、当主と次期当主では背負う期待の重さがまるで違う。』


そう笑ってから、

『では恩恵は?』

と問い掛ける。


わたしは、

『お付きの方が二名付きます。』

と答えた。


じいちゃんは少し首を傾げる。

『それだけか?』


詳しくは知らない。


わたしは兄を見る。


しかし兄は、ぷいっと横を向き、目を合わせようとしない。

『あっくん!』


と呼ぶと、兄は観念したように口を開いた。

『はい。

分家の方々から直接、または鳥や動物、虫などを通じて、災いが近付いている際には知らせていただけます。』


じいちゃんは、

『聞いていなかったか?』

と尋ねる。


わたしは正直に、

『……聞いていました。』

と答えた。


すると、じいちゃんは今度は兄へ視線を向けた。

『篤志。もう一つあるな。何だ?』


兄は静かに頭を下げ、

『はい。

分家の方々や、この地域に所縁のある方々と良好な関係を築くことができれば、自身だけでなく周囲の方々まで守っていただける場合があります。』

と答えた。


わたしは、

『所縁のある方々?』

と首を傾げる。


兄は軽く深呼吸すると、柔らかく微笑み、

『亜衣様は、まだお付きの方を決められておりません。

まずは、お付きの方から様々な方をご紹介いただき、交流を深められるのがよろしいかと存じます。』

と丁寧に答えた。


「亜衣様?」

誰が、どの口で言ってるの?

心の中でそうツッコミを入れる。

でも、この場で聞かれていなかったら、兄は絶対に答えなかっただろう。


そう確信した。


わたしはさらに聞こうとして、

『あっく……』

と言い掛けた、その瞬間。


兄は深々と頭を下げ、

『申し訳ありません。

私としたことが、お茶を準備しておりませんでした。』


そう言って、さっさと居間を出て台所へ向かってしまった。


……絶対わざとだ。


準備を忘れたんじゃない。

面倒になったら、この場を離れるための口実だ。


どうせ次は、

「お茶菓子を忘れていました。」

とか言い出すに決まってる。

最近の兄の行動を見ていれば、それくらい分かる。


すると、じいちゃんが静かに笑った。

『わしが答える。聞きなさい。』


そう言われたわたしは、

『あ……いや……。』

と反射的に口にしてしまった。


その瞬間だった。

分家の方々が、一斉に鋭い視線をわたしへ向ける。

その空気だけで理解した。

この家では、

当主からの申し出を否定すること。

断ること。

それは、絶対にしてはいけないことなのだと。

ご意見 ご感想 よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ