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182.わたしの入院生活13

1月も中旬に差しかかった頃。


わたしはリハビリを終え、病室のベッドへ横になった。


長い寝たきり生活の影響で落ちていた筋力や体力も、少しずつ戻ってきているように感じる。


まだまだ火傷した左腕から左胸にかけては、動かし方によって皮膚が突っ張る感覚はあるものの、可動域はかなり改善してきた。


最初の頃は関節がガチガチで、思うように動かせないどころか、下手に動かすと皮膚が裂けてしまったこともあった。


それを思えば、本当に良くなったものだ。


今では二日に一度のお風呂にも自分で入れるようになり、髪も一人で洗える。


今日はリハビリでしっかり体を動かして軽く汗もかいた。


だから、お風呂が今の一番の楽しみになっていた。


お風呂の時間まで病室でのんびり過ごしていると、


「コンコン」

扉をノックする音が聞こえた。


お風呂にはまだ少し早いけど……と思いながら、

『はい!』

と返事をする。


扉が開き、四十代後半くらいの女性が笑顔で入ってきた。

『亜衣ちゃん、こんにちは。久しぶりだけど覚えてるかな?』


続けて女性は丁寧に頭を下げる。


『お祖父様と篤志さんの資産管理のお手伝いをさせていただいている、〇〇銀行の〇林です。』


あー、来るって言ってたなぁ……。

本当に来るとは思ってなかったから、ちょっとびっくりした。


わたしも笑顔で頭を下げる。

『〇林さん、こんにちは。祖父とあっくんが、いつもお世話になっています。』


〇林さんは心配そうな表情になり、

『大怪我をしたって聞いて、もっと早くお見舞いに来たかったんだけど、面会できる状態じゃないって聞いていたから、本当に心配してたのよ。』


そう言うと、優しく微笑みながら続けた。


『そろそろ退院って聞いたけど、何か心配事はない? 私でよければ相談に乗るよ。』


わたしは少し考えてから答えた。

『やっぱり学校のことですかね。長期間入院したせいで、周りのみんなと学年がズレちゃいますし……。』


〇林さんはゆっくり頷く。

『確かに、みんなと同じ学年じゃなくなるのは寂しいよね。置いて行かれるような気持ちになるし、不安にもなると思う。』


わたしも頷いた。

『はい。今まで同級生だった子たちと、これからどう接していいのか分からなくて……。新しく同級生になる子たちとも、うまくやっていけるのか不安なんです。』


〇林さんは真剣な表情でわたしの話を最後まで聞き、

『うん、その気持ちはよく分かるよ。』

と優しく答えてくれた。


……この人、ちゃんと話を聞いてくれる人なんだ。

そう思った瞬間、警戒していたはずなのに、ついつい口が滑ってしまった。

『あとは家のことも心配です。

あっくんが就職を機に家を出ますし、これからは、わたしが家のことを継ぐ立場になるので、そのことも不安で……。』


その瞬間だった。

〇林さんの口元が、一瞬だけニィッと動いたように見えた。

でも、それは本当に一瞬で、すぐに穏やかな笑顔へ戻る。


〇林さんはわたしの手をそっと握り、

『学校のこと、人間関係、それに家のことまで……。

亜衣ちゃん、本当に偉いわ。』


そう言ってから続けた。

『私にできることなら、何でも手伝うから、いつでも声をかけてね。

まず学校のことだけど……

亜衣ちゃん、〇〇高校だったわよね?』


わたしが頷くと、

〇林さんは少し嬉しそうな顔になった。

『実はね、来年度、亜衣ちゃんと同級生になる一年生の中に、うちの息子と娘がいるの。

もし同じクラスになったら、仲良くするように伝えておくから安心してね。』


わたしは慌てて首を横に振る。

『さすがに、それは申し訳ないです。

それに、退院してもしばらくは運動制限もありますし、火傷の痕もまだまだ残ってますから……。』


〇林さんは優しく笑った。

『大丈夫。

その程度のことで亜衣ちゃんを避けるような子達じゃないから。

そんな愚かで傲慢な子どもに育てた覚えはないもの。』


笑っている。

笑っているのに……


何だろう。

少しだけ怖い。


〇林さんは、そのまま話を続けた。

『それから、ご実家のことも心配しなくて大丈夫。

私たちが、しっかりサポートするから安心してね。


お祖父様が相続されたときも、〇〇銀行で紹介した税理士さんや行政書士さんが手続きをお手伝いしたのよ。

亜衣ちゃんの代になったときも、きっと力になれると思うわ。』


そして思い出したように微笑み、

『そうそう。

結構前の話になるけど、私も亜衣ちゃんと同じ高校の卒業生なの。

だから、先輩だと思って、遠慮なく頼ってくれたら嬉しいな。』


そう優しく語りかけてくれた。


優しく話を聞いてくれているだけだと思っていた。


でも気付けば、学校のことも、家のことも、自分から自然と話してしまっている。


何かを聞き出された感覚はない。


それなのに、大事なことを、いつの間にか話してしまっていた。


……あっくん。

わたし、この人に勝てる気がしない。

心の底から、そう思った。

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