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177.兄が見ている世界 —デート10—

まり姉の必死の形相を見た兄は、

慌ててトイレがありそうな場所を探すが、コンビニすら近くにない……。


兄は、近くに空港があることを思い出す。


『もう少ししたら着くから。』

と兄は、まり姉の手を一瞬握った後、しっかりハンドルを握る。


まり姉から、「きゅううっ…」と腸が内側から雑巾を絞られるような音が聞こえたかと思うと『っ……あ……』と歯を食いしばる隙間から、熱い吐息と一緒に小さな声が漏れ、『うう……』と小さく呻き声も聞こえてきた。


空港が見えてきて、兄はチラッとまり姉を見ると、

深く呼吸するとお腹が動いて痛むためか、『はぁはぁ』と浅い息を繰り返している。


兄は、

『まりちゃん、俺は駐車場に車を停めたら向かうから、先に行ってて!』

と声を掛ける。


まり姉は、軽く頷き車を降りると振動を与えないようにゆっくりだが確実に歩いてトイレへ向かう。


兄は、まり姉が車から降りた事を確認すると、駐車場へ向かい車を停めた。


兄は、まり姉が置き忘れたバッグを手に取り、車を降りた後、まり姉が入った空港の出入り口から一番近くのトイレを探し向かう。


兄がトイレ近くで、まり姉を待っていると、まり姉のバッグからスマホの着信音が聞こえてきた。


スマホの画面を見ると、ゆりからだ。


一瞬躊躇したが、電話が何度も掛かってきていたため、兄は電話に出た。


ゆりが

『あー! おねーちゃん?

電話なかなか出てくれないんだから。』


兄が『ゆりちゃん、久しぶり今、まりちゃんだけどトイレに行ってて、バッグを預かってるんだよね。

戻ってきたらかけ直すように言うね。』と早口で伝え、そのまま電話を切ろうとする。


ゆりが、『お姉ちゃん、また食べ過ぎたんですか?』と少し怒った声で言う。


兄は、肯定も否定もせず

『んーどうだろ… 急にお腹が痛くなったみたいで…』と答えをはぐらかすが、


ゆりは、『アホ姉の状態なら、食べ過ぎてる動画を撮らせたんじゃ無いですか?

私に送ってください。私とお母さんで、しっかり注意します。』


兄は困ったように笑いながら、

『いやぁ……。』と返すと、


ゆりが、

『取引しませんか?

篤志さんの知らないお姉ちゃんの恥ずかしい話を教えますし、写真も送ります。

それに篤志さんにとっても悪い話では無いはずです。義理とはいえこれから妹や母になる人物へ恩が売れる訳ですし。』


兄の心が揺らいでいると思ったゆりは、

『わかりました。

絶対に篤志さんにとって、悪い結果にならないように取り計らうとお約束しましょう。

もし遵守出来なければ、私が責任を持って埋め合わせをします。私が持っている篤志さんが望むものをお渡ししましょう。』


兄は、

『わかった。

口頭だけでなく文章でも、その内容を送って貰えたら安心できるんだけどな……。』


と言うと、ゆりは嬉しそうな声で、

『さすが、私のお義理兄さんになる方ですね。

メッセージアプリの文章でも法的な拘束力はあることをご存知とは。

それでは、早速その文章とお姉ちゃんの恥ずかしい話と写真を送りますね。』とゆりはそう告げ、


兄は、

『ゆりちゃんへメッセージアプリで送るね。』

とゆりの言葉に屈服した。


スゲー、ゆり! わたしより、兄との交渉上手じゃん。

てか、まり姉をアホ姉って…

まり姉ネタでの交渉は、ゆりの方が圧倒的に有利だからなー 勝てる訳ないんだけど、なんか凄かった。



数分後、ゆりからメッセージが来て、


まり姉が、姉妹同士でラブレターを書く練習をしたのか、その手紙の写真とスキャンデータ。


真面目で綺麗なまり姉が、ジャージ姿でだらし無くお尻を掻きながらタブレットを見て爆笑してる写真。


初めての化粧で失敗し、顔面殴られたようになった写真。


まり姉がノートいっぱいに書いたのであろう。ポエム集のスキャンデータ。


入浴中に熱唱しているまり姉の歌声が入った動画。


が送られてきた。

兄は、即座にスマホへ保存し、まり姉がハンバーガーを食べている動画をゆりへ送った。


わたしは、その内容を見て驚愕した。

ゆりもしかして、わたしの黒歴史みたいなのも全部どっかに溜め込んで保管してたりしないよね?

ゆりとの友達付き合いは十分注意した方がいいんじゃないかと考えさせられた。

本人は笑顔でも、油断すると何を握られているか分からない。

そんなことを考えてしまったためだ。


そうこうしていると、


体内の泥水が、一滴残らず澄んだ清水に総入れ替えされたかのような表情をしたまり姉がトイレから出てきた。


兄が、まり姉の手を握り

『間に合ったんだよね?良かった。』と聞くと。


綺麗な笑顔で、『うん。迷惑かけて、ごめんね。』と、アホ姉からまり姉に戻っていた。

まり姉が、

『ここ空港だよね? 修学旅行以来だよ。

お母さんやゆりにお土産を買って無かったからここで買って帰ろうよ!』と綺麗な笑顔で、呑気に話してる。


わたしは、とんでもない取り引きが、まり姉の知らない所で行われていることを知っているので、あまり感情は揺れ動かなかった。

ご意見 ご感想 よろしくお願いします。

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