174.兄が見ている世界 —デート⑦—
まり姉は、満足そうな表情でお腹をさすっている。
兄も、その様子を見て自然と笑顔になっていた。
この二人、本当に結婚して大丈夫なのか?
……いや、二人ともこんなに幸せそうなんだから問題ないのか。
わたしは深く考えないことにした。
幸せの形は人それぞれって言うしね。
兄はまり姉へ手を差し出した。
『まりちゃん、そろそろ行こうか。』
まり姉は気だるそうに笑う。
『歩かなくていいなら、まだまだ食べられるんだけどなー。』
そして、
『家だと、お母さんやゆりに色々言われるから、あんまり食べられないけど、二人っきりなら心置きなく食べられていいね。』
と嬉しそうに笑った。
『どっこらしょ!』
と掛け声をかけながら立ち上がる。
わたしは、こんなまり姉の姿見たくない。
まり姉は、わたしにとって姉みたいな存在で、
いつも真面目で、
曲がったことが嫌いで、
頭が良くて……
うん。
これは兄の前だけで見せる、本当のまり姉ってことにしておこう。
ありさは三人でいると安心してIQが下がるけど、
まり姉は兄と二人になるとIQが下がるの?
他にも発動条件があるの?
それより十八歳の女の子が、
『どっこらしょ!』
って……
はあ……
もういいや。
と、わたしは思考を放棄した。
まり姉と兄はホテルの部屋へ戻ると荷物をまとめ、チェックアウトを済ませた。
車へ向かう途中、まり姉が兄を見上げる。
『ねー、あっくん。
せっかくここまで来たんだから、一緒にハンバーガー食べに行かない?
距離的に、このお店ならお昼頃に着くよ。』
わたしは思わずツッコむ。
まだ食べるの?
まり姉だって人間なんだから、食べた分は出すんだよね?
それでこの体型を維持してるなら、ちゃんと溜め込まずに出してるんだよね?
……と、ふと疑問が湧いた。
兄は笑って頷く。
『せっかくだから行こうか!』
ホテルを後にすると、そのまま車はハンバーガー屋へ向かって走り出した。
助手席でスマホを見ていたまり姉が、目を輝かせる。
『今から行くお店、四十秒くらいで八百グラムくらいあるハンバーガーを食べたら無料になるみたい!
私、チャレンジしてみていい?』
兄は即答した。
『いいよ。
俺は何にしようかな。
あんまり量が多くないやつがあればいいな。
残したくないし……。』
おいおい。
男女逆転した?
しばらくすると、まり姉が急に慌て始めた。
『私、う〇こ!
そこのコンビニ寄って!
ついでに飲み物も買おうよ!
私、カフェオレがいい!』
『了解ー!』
兄は笑いながらコンビニへ車を停めた。
まり姉ー!
やめてよー!
もう次に会った時、どんな顔して会えばいいのかわからないよ……
コンビニへ着くと、まり姉は一直線にトイレへ向かう。
兄は飲み物売り場で、
どのカフェオレにするか、
どのブラックコーヒーにするか、
さらにペットボトルにするか、コンビニコーヒーにするか悩んでいた。
ペットボトルかコンビニコーヒーかって迷うよねー。
一昔前なら、
「キャップ閉めたらこぼれないし、ペットボトル一択!」
って思ってたけど、
今は同じ土俵どころか、お店によっては迷うことなくコンビニコーヒーを選んでる気さえする。
ただ、兄の悩み方は少し特殊だった。
値段では決めない。
店員さんや、お店の様子をじーっと見てから選ぶのだ。
その間に、まり姉はトイレを済ませ、スッキリした表情で戻ってきた。
わたしは驚く。
まり姉のお腹がぺったんこになってる!?
全部出したのか?
しかも雰囲気まで、いつものまり姉に戻っている。
何だったんだ?
と、わたしはますます分からなくなった。
『お待たせー。
まだ選んでたの?』
まり姉が不思議そうに尋ねる。
兄は棚を見ながら答えた。
『いや、今ペットボトルにしようと思ったところ。』
『じゃあ、私これがいい!』
まり姉はペットボトルのカフェオレを手に取る。
兄もブラックコーヒーを選び、そのまま会計を済ませた。
車へ戻ると、再び目的地へ向かって走り始める。
まり姉は少し照れくさそうに笑った。
『さっきの私の姿、あっくん以外には見せられないなー。』
兄も笑う。
『食べ過ぎた時に発動するレアまりちゃんねー。
あれはあれで、俺は好きだけどなー。』
まり姉は照れ笑いを浮かべる。
『お母さんとゆりからは、結婚するまでは禁止!って言われてたんだけどね。』
わたしは驚いた。
まり姉って、食べ過ぎるとあんな感じになるんだ。
子どもの頃から一緒にいたのに、知らなかった。
食べ過ぎると消化にエネルギーを使うって言うけど……
あれは別人だから!
そう、一人でツッコミを入れるのだった。
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