172.兄が見ている世界 —デート⑤—
まり姉と兄は、ホテルの借りている部屋に戻った後、
荷物を軽くまとめ、歯を磨き、睡眠前の身支度を終わらせた。
まり姉はベッドを見ながら、
『あっくんは律儀だよねー。
ちゃんとベッドもツインだし。』
そう言うと、ニィッと笑い、
『私はダブルなのかなーとか思ってたんだけどねー。』
と続けた。
兄は、
『まりちゃんのお父さんとも約束したからね。
高校卒業するまでは、そういう事はしないって。』
と答える。
まり姉は、
『約束があるのは分かってるけどさ…本当にダメ?ちゃんと避妊しても?』
と尋ねた。
兄は既に片方のベッドへ横になっていた。
『勿論。約束は約束だからね!』
と迷いなく答える。
まり姉は軽くため息をつき、
『同じベッドで話するのは?』
と甘えた声を出した。
わたしはドキッとした。
まり姉ってこんな声出すの?
イタズラして怒られたり、追いかけられた記憶が強すぎて、ギャップが凄い。
てか、兄はこの誘惑に耐えられるの?
もしかして、もしかしちゃうの?
兄の記憶見せてもらってるけど、そこまで見せてくれるの?
と、わたしのテンションは上がってきた。
兄は首を傾げる。
『話するだけならいいでしょ。』
まり姉は、
『じゃあ、失礼して。』
と言って兄のベッドへ入り、そのまま兄にキスをした。
頬とかじゃなく口に……。
軽いものじゃない。
結構しっかりとしたやつだ……。
まり姉は少し得意げに、
『どう?
少しは、大人っぽくなったでしょ!
中学生の頃、保健の教科書の内容を二人で確認した時と比べて。』
と笑う。
兄も微笑みながら、
『本当にそう思うよ。
ただ、ずっと変わらないのは、一緒にいると心から安心できる事と、ずっと一緒にいて欲しいという気持ち。』
と答えた。
まり姉は満面の笑みになる。
『私も一緒!』
そして、
『死ぬほど恥ずかしかったけど、あっくんの事を異性として意識し始めたのって、その一件があった頃なんだけどさ。
当の本人は教科書と見比べながら、
「あー、なるほど」
とか、
「これってどこにあるの?」
とか言ってて、
私、異性として見られてないのかなって少し落ち込んだんだから!』
と頬を膨らませた。
兄は懐かしそうに笑う。
『俺は、まりちゃんと初めて会った頃から、
自分の思った事はしっかり口にできるところとか、
自分の行動が間違っていないと自信がある時は絶対に意見を曲げない、その意志の強さにずっと憧れてたな。
異性として意識し始めたのは、まりちゃんと同じ時期だね。
あの経験があったからだと思う。』
まり姉はクスッと笑った。
『私が初めて生理が来た時の事は覚えてる?』
兄も笑いながら答える。
『覚えてるよ!
まりちゃん、体全体がだるかったから、
ずっと腰のマッサージをしたり、毛布で体を温めて、カイロをお腹や腰に当てたり。
それで、ずーっと腰をさすっててって言われて、何時間かそうしてた記憶がある。』
まり姉は少し嬉しそうに頷く。
『今でも、私が生理だって気づいた時、マッサージしたり、さすったりしてくれるよね。
やっぱその影響……だよね?』
兄は素直に頷いた。
『そうだね。』
まり姉は満足そうに笑う。
『それは、これからもしてね!
でも他の人にしちゃダメだから。
もう私と結婚を前提に付き合い始めてるんだし。』
兄は苦笑した。
『まりちゃんの嫌がる事はしないから安心してね。』
まり姉は首を傾げる。
『はい、は?』
兄は少し意地悪そうに笑った。
『将来子どもが生まれて、その子に対しては?』
まり姉は少し考え込む。
『私達の子どもだったらありだけど……
でも、お父さんからって考えたら、気づいても気づかないふりをして、リラックスできる環境を心掛けるべきかな?
温かい食べ物や飲み物を出したり、貧血にならないように肉や赤身の魚を中心にした食事を摂らせたりとか。』
兄は笑った。
『はいはい。
一緒に生活し始めたら家事もするようにしますよ。
鉄分の多い食事と温かい飲み物ね。
了解。』
まり姉は満足そうに頷く。
『うん。よろしく。』
その時、兄が大きなあくびをした。
まり姉は少し遠慮がちに尋ねる。
『そのまま一緒に寝ていい?』
兄は優しく頷いた。
『うん。』
まり姉は嬉しそうに兄へくっつき、
『おやすみ、あっくん。』
『おやすみ、まりちゃん。』
こうして、まり姉と兄は同じベッドで眠りについた。
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