170.兄が見ている世界 —デート③—
花火自体は10分程度で終了し、まり姉と兄は借りているホテルの部屋へ戻った。
兄は、
『まりちゃん、お風呂行こうか!』
と入浴へ誘った。
まり姉は、
『ホテルの建物から出て5分くらいのところだったよね?
それぞれ入って、待合室で待つ感じでいいのかな?』
と確認する。
兄は笑いながら、
『そのつもりだけど、家族風呂に入れないか聞いてみて、昔みたいに一緒に入る?』
と冗談交じりに提案した。
すると、まり姉は少し真面目な顔になり、
『介助が必要なら、それでもいいよ。』
と返した。
兄は驚いたように、
『具合が悪かったこと、気づいてたの?』
と尋ねる。
まり姉は呆れたように笑った。
『幼稚園の頃から一緒なのに、何言ってるの。』
そう言ってから、
『ハグした時とか、私が知ってる以上に痩せててビックリしたんだから。』
と少し怒ったような表情を見せた。
わたしは、兄の体調が悪かった事に気づいていなかったので驚いた。
あの回数の休憩も、トイレ目的ではなく、兄自身が休憩を取りたかったのだと思い至る。
まり姉は軽くため息をついた。
『一気に体調悪化が来たみたいだね。』
そして、
『仮の次期当主は、自分の意思で解除できる分、負担が大き過ぎない?』
と心配そうに尋ねた。
兄は苦笑しながら答える。
『俺もビックリしたよ!
まさか、お腹空いてるのに、ご飯を飲み込むのが焼けた石を飲み込むかのように苦痛だとは思わなかった。
決められた期間までは、この対応待って欲しかったところだけど、自ら進んで血判押させるようにするのに必死過ぎだよ。』
まり姉は複雑そうな顔をした。
『亜衣ちゃんが自ら進んでなるとは思わなかったけどね。
自由に、自分が好きなように生きていきたい子だと思ってたから意外だった。
もし亜衣ちゃんがなってなかったら、苦痛に耐えられず血判押してたでしょ?』
兄は少し考えてから答えた。
『後3ヶ月なら期間内だから頑張って耐えられるけど、誰もならないのであれば、根負けして押してたかもね。
もしかしたら、あいちゃんの退院次第ではもっと早く終わるかもしれないし。
リハビリも始まってて、1月の中旬から下旬には退院って聞いてるよ。』
わたしの知らない情報をまり姉は知っているし、兄は兄で、わたしが知らなくても良さそうな情報は勝手に端折るし。
するか、攻撃されるか。
だからするしかないんだけどさー。
もうちょっと、わたしに配慮してよね!!
と、わたしは心の中で叫んだ。
まり姉は話題を変えるように、
『てかさー、ありちゃん、しばらく見ない間に丸々してたけど、まきちゃんみたいに泊めたの?』
と尋ねた。
兄は、
『陽子ちゃん泊めた時に、一緒にね。』
と笑いながら答える。
すると、
『その陽子ちゃん、私知らないんだけど!』
とまり姉が抗議した。
兄が自動車学校の話をすると、まり姉は完全には納得していない様子だったが、一応は納得したようだった。
その後、
『まきちゃんも陽子ちゃんも、もちろんありちゃんも、あの家に泊まったら食欲が異常に増進するって教えとかないとダメだよ。
女の子なんだし、気にしてる場合もあるからね。』
と兄へ釘を刺した。
兄は困ったように笑う。
『いやいや、教えられないでしょ!
確定じゃない次期当主は、飢餓で亡くなった分家の方達の気持ちを理解させる為、なってから16年後に餓死させられるとか。
外泊しに来た人は、その期間、食べたくても食べられなかった気持ちが乗り移って、食欲が爆発的に増えるとか。』
わたしは、そんな事も知らない。
本当にコイツは……
と、わたしは怒りを込み上がらせた。
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