168.兄が見ている世界 —デート①—
その後しばらくは、まり姉、ありさ、兄の3人で出掛けることはなく、兄は少しずつ引っ越しの準備を始めていた。
そして12月24日。
そう、まり姉と兄のデートの日である。
じいちゃんの車を借り、午前9時頃に兄はまり姉を迎えに行く。
まり姉のデートコーデは、チャコールグレーに白い袖のスタジャン。その内側からはベージュのカーディガンが覗いている。
下はグレーのロングスカートにブーツ。
全体的には、普段のまり姉の服装に防寒用のスタジャンを一枚足したようなコーディネートだ。
どこへ連れて行ってくれるのか分からないから、動きにくい格好をするわけにもいかない。
かといって、おしゃれをしないわけにもいかない。
悩んだ結果、いつもの格好に近い感じになったのだろう。
と、わたしは思った。
兄はまり姉を見るなり笑顔を浮かべた。
『まりちゃん、おはよ。久しぶりだったけど元気してた? このスタジャン似合ってるじゃん!』
『あっくん、おはよー。だってどこに行くか教えてくれないから、下手な格好できないでしょ!』
そう返したあと、
『でも、ありがと!』
と笑顔になり、車へ乗り込んだあと兄の頬へキスをした。
兄は少し考えてから、
『今日は距離的に、水族館とイルミネーションがメインになりそうかなー』
と答える。
まり姉は少し想像したあと、
『あっくんと一緒なら楽しいからいいよ! 早速行こうか!』
と嬉しそうだ。
兄は車を走らせた。
運転中の話題は自動車学校のこと。
まり姉が仮免に合格し、路上教習が始まったこと。
今年中には卒業検定を受け、タイミング次第では年明けに免許試験場へ行く予定であること。
教習中や自動車学校内で起こった出来事を、二人は笑いながら話していた。
途中、パン屋でパンを買い、喫食スペースで二人で食べる。
まり姉は出来立てのクロワッサンをサクッ、サクッと頬張りながら、
『このクロワッサン、バターの香りもしっかりしてて美味しー』
と満面の笑みだ。
その横で兄は、胡桃とレーズンの入ったパンを食べながらブラックコーヒーを飲んでいる。
その後も車を走らせる。
今度はかまぼこ工場の直売所へ立ち寄り、地元で獲れた魚から作られたチーズ入りのかまぼこを二人で食べていた。
『やっぱり出来立ては違うねー。このホクホクした感じも、ぷりぷりでモッチリした感じも、出来立てだからこそだよねー』
まり姉は満足そうだ。
その後は甘いものが欲しくなったらしく、直売所のアイスクリームを購入。
暖房の効いた車内でおしゃべりをしながら食べている。
さらに次は昼食。
二人は蕎麦屋へ向かった。
まり姉は、
『ただのかけそばだと思ったら、全然違うね。蕎麦の香りもしっかりしてるし、噛んだ時の食感もいつもと違う。出汁にも蕎麦の風味が溶け込んでて美味しー』
と感動している。
まり姉は本当に美味しそうにモリモリ食べていた。
女の子が笑顔で美味しそうに食べている姿を見ていると、幸せな気持ちになるというのも何となく分かる気がする。
お昼過ぎになり、ようやく水族館の駐車場へ到着した。
わたしは、
地元からだと流石に遠いなー。
ただでさえ遠いのに、何で兄はわざわざ色んな所に寄ったんだろう。
そう思ったが、冷静に考えると単なるトイレ休憩だ。
わたしは、まり姉にしっかり躾けられているなーと感心した。
駐車場から水族館へ向かう道中、クリスマスだからかデコレーションされた木々が立ち並んでいる。
夜に見たら綺麗だろうなーと思った。
二人は手を繋ぎながらおしゃべりをし、水族館までの10分ほどの道のりをゆっくり歩いていく。
まり姉は元気そのものだが、兄は息切れしていて少し辛そうだ。
わたしは、
どんだけ体力ないのか。
とため息をついた。
まり姉は呆れているのかと思ったが、かなり心配しているようだ。
しかし兄は笑顔で返す。
その様子を見て、まり姉は心配そうにため息をついた。
水族館へ到着すると、サンタクロースの格好をしたペンギンたちがたくさんいた。
さらに、水族館のスタッフもサンタクロース姿でボンベを背負い、水槽の中で餌を与えている。
今のシーズンしか見られない光景に、まり姉の目はキラキラしていた。
本当に楽しそうだなー。
わたしも行ってみたい。
そう思った。
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