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167.兄が見ている世界 —引越し準備18—

車の購入手続きが終わり、まり姉、ありさ、兄の3人は帰宅していた。


後部座席のまり姉が不満そうに口を開く。

『私、行きも後部座席だったんだけどー。』


すると助手席のありさが、

『早い者勝ちだもんねー。』

と笑顔で応戦した。


そんなやり取りを聞きながら、兄は車を走らせる。


兄が、

『ようやく引っ越し前までにやることが、あらかた片付いたね。』

と漏らすと、


まり姉はため息混じりに肩をすくめた。

『私はまだ仮免と本免を取らなきゃいけないし、服とか荷物もまとめないといけないんだけどね。』

『引っ越し後の手続きも色々あるから、まだまだ大変だよ!』


ありさもぐったりした様子で続く。

『あっくんは車も決まってひと段落って感じだろうけど、私はこれから車探ししてローン生活スタートだよー。』


兄は小さく笑った。

『ありちゃんがどんな車を買うのか楽しみだよね。』


まり姉も頷く。

『確かに楽しみ。どんな車を買うんだろうね。』


ありさは少し考え込む。

『たぶん中古車、良くて新古車の軽自動車かなー。』

『予算も少ないし……。』


すると、まり姉が興味深そうに尋ねた。

『ありちゃんが車を買う時に、絶対に外せないポイントってあるの?』


ありさは勢いよく手を挙げる。

『絶対オートマ車!』

『免許取った後に初めて運転したけど、オートマ車の楽さは凄いよ!』

『発明した人、天才だから!』


そして身振り手振りを交えながら熱弁する。


『信号待ちや一時停止のたびに一速からやり直さなくていいし!』

『坂道発進も神!』

『なんとかアシスト機能で、ブレーキ離しても後ろに下がらないんだよ!?』

『私、何のためにあんなに練習したんだろーって思ったもん。』


自動車学校での日々を思い出しているようだった。


兄は苦笑する。

『確かにねー。』

『ありちゃんが初めてサイドブレーキを使わずに坂道発進した時を思い出すよ。』


ありさは顔を真っ赤にした。

『あー!! もう忘れてよ!!』

『まりちゃんもあっくんも、私の黒歴史知りすぎだから!!』


すると、まり姉が楽しそうに笑う。

『思い出に楽しさを追加して、とっても楽しい思い出にしてくれるのがありちゃんじゃん!』


兄も頷いた。

『本当だよ。』

『小学校一年生の頃、引き出しにセミの抜け殻を大量に入れてたし。』


『泥団子も机の中に入ってたねー。』

まり姉が追撃する。


兄も負けじと続けた。

『牛乳早飲み競争してる時に、くしゃみして鼻から吹き出したり。』


『あったあった!』

まり姉は笑いを堪えながら続ける。

『スカート買ってもらったのが嬉しすぎて、自分でスカートめくってパンツ見せてたこともあったよねー。』


ありさは悲鳴を上げた。

『わーーーっ!!!』

『やめてーーー!!!』

『これ以上言わないでーーー!!!』

兄とまり姉は笑いが止まらない。


兄はありさを見ながら笑った。

『ありちゃん、本当に可愛くなったよ。』

『傘を武器にして勝負を挑まれたのも、一度や二度じゃなかったもんねー。』


まり姉も思い出したように口を開く。

『急にオシャレに目覚めて、よく分からないまま化粧したら閣下みたいになってたこともあったよね。』


『その時の写真あるかも。』

そう言いながらスマホを探し始めた。


ありさは全力で抗議する。

『だーかーらー!!』

『まりちゃんもあっくんも、もうやめてーーー!!!』


そんな風に、

3人の楽しい思い出――いや、ありさの黒歴史発掘大会を続けているうちに、ありさの家へ到着した。


ありさのHPは既にゼロらしい。

ぐったりしている。


兄は笑顔を向けた。

『これからも3人仲良く、一緒にいようね!』


ありさは即答する。

『当たり前じゃん!』

そして続けた。

『それと、その言い方ずるいし!』

『まりちゃんもあっくんも、私の黒歴史覚えすぎだから!』

『本人ですら忘れてたのに!!』


まり姉は優しく声を掛ける。

『ありちゃん、これから車選びや引っ越し準備で忙しくなると思うけど、無理しないようにね。』


ありさは笑顔で頷いた。

『うん!』

そうして、ありさは家へ帰っていった。


その後。

車内には兄とまり姉だけが残る。


兄は少し照れながら切り出した。

『12月24日。』

『夏祭り、一緒に行けなかったから、その日は二人で出掛けようね。』


まり姉は嬉しそうに笑う。

『やっとかー。』

『もう忘れられてるのかと思ったよ。』

そして、

『最高の思い出を作ってくれるようにしてよね!』

と期待たっぷりの視線を向けた。


兄は苦笑する。

『善処します。』


しばらくして、まり姉の家へ到着した。

まり姉は車を降りる前に、

『今日も運転ありがと。お疲れ様!』

と労いの言葉を掛ける。


そして兄へ軽くキスをした。


まり姉はそのまま車を降りる。

兄は少し照れた表情のまま、自宅へ向かって車を走らせた。

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