166.兄が見ている世界 —引越し準備17—
営業の人が、カロ〇〇クロスの見積りを3パターン作成し、持ってきてくれた。
まり姉、ありさ、兄の3人で内容を確認する。
ワンランク下のグレードが370万円。
試乗車と同じグレードが400万円。
さらに同グレードの4WD仕様が425万円だった。
わたしは、
「あー、これ聞いたことある!」
と思った。
3つの価格帯を提示することで、真ん中の商品へ誘導する営業手法だ。
だが―
ありさは、
『370万円のでいいんじゃない?』
と言い、
まり姉は、
『試乗車と同じのにするなら400万円のでしょ!』
と主張する。
一方の兄は、
『425万円の方は、もう少しお値引きできませんか?』
と営業の人へ尋ねていた。
わたしは思う。
この3人、本当に仲良いの?
全員違う選択をしてるんだけど?
営業の人は困ったような顔をしながら、
『既に値引き後のお見積りをお出ししておりますので……。』
と答えた。
しかし兄は引かない。
『もしこの内容で400万円まで下げていただけるなら、今日この場で即決します。』
『なので、お願いします。』
というか、いきなり25万円の値引きを要求し始めた。
営業の人は悩んだ表情になり、
『確認してまいります。』
と言って奥へ消えていった。
まり姉が即座に反応する。
『あっくん!困ってたよ!!』
ありさはのんびりと、
『これで値引きしてくれるならいいよねー。』
と答える。
相変わらず意見がバラバラだなー。
と、わたしは思った。
しばらくして営業の人が戻ってくる。
『申し訳ありませんが、410万円までのお値引きが限界です。』
兄は笑顔になった。
『ありがとうございます。』
そうお礼を言った後、
『これ以上のお値引きが難しいのであれば、オプション追加や装備のグレードアップは可能でしょうか?』
と続けた。
わたしは思わず心の中で叫ぶ。
え?
まだ続くの?
というか、こいつにそんな事を言うなよ!
遠慮をどこかに置いてきたような男だぞ!
営業の人は少し考え、
『内容次第では……。』
と返した。
兄はすかさず、
『ナビの画面をワンサイズ大きくしていただきたいのと、ドラレコが前方のみなので後方にも付けていただきたいです。』
とお願いする。
営業の人は再び奥へ向かった。
そして今度は比較的早く戻ってきた。
『OKでした。これで契約していただけますよね!』
少し食い気味だった。
わたしは、
おぉ、凄いじゃん。
と思った。
だが次の瞬間、兄の言葉に驚愕する。
兄は満面の笑みを浮かべ、
『ありがとうございます。』
と言った後、
『じゃあ、前後ドラレコが付くので、キャンペーンの10万円値引きも対象になりますよね?』
と続けた。
まり姉も、流石のありさもドン引きした顔になる。
営業の人は顔を引きつらせながら、
『これが本当に最後ですよ。』
『これが通ったら、必ず契約していただけますか?』
と確認する。
兄は爽やかな笑顔で、
『はい!』
と答えた。
営業の人は再び奥へ向かう。
数分後、正式な見積書を持って戻ってきた。
兄は内容を確認し、納得した上でサインを行う。
印鑑証明などの必要書類は後日持参するよう説明を受けた。
すると兄は思い出したように、
『そういえば、TO〇〇TA Walletの残高4万5千円分を使いたいです。』
と申し出た。
手付金を支払い、
まり姉、ありさ、兄の3人は店を後にしようとする。
その時だった。
営業の人が苦笑いしながら、
『本来なら契約成立時には店長もご挨拶に伺うのですが……今回は出て来たくないようなので……。』
と漏らした。
兄は気にした様子もなく、
『私は気にしないので構いませんよ。』
と笑顔で返した。
わたしは首を傾げる。
普段は嫌味にすぐ気付くのに、今回はスルーなのか?
それとも本当に気付いていないのか?
そして3人は、じいちゃんから借りている車へ向かった。
ちなみにありさは、
営業の人との話が終わった瞬間に早歩きで車へ向かい、まり姉より先に助手席を確保していた。
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