165.兄が見ている世界 —引越し準備16—
次の日のお昼、兄はありさを迎えに行った。
ありさは助手席へ座りながら、
『今日もよろしくねー。』
と笑顔で言う。
兄は車を発進させようとした時、
『ありちゃん、今日は免許証持ってきた?』
『もしかしたら試乗させてもらえるかもしれないから、持ってきてないなら取りに行ってもいいと思うよ。』
と声を掛けた。
ありさは目を丸くする。
『え? そうなの? 少し待ってて!』
そう言うと慌てて家へ戻り、免許証を持ってきた。
兄は免許証の写真を見ると、
『この写真欲しいなー。』
と呟く。
ありさは頬を膨らませ、免許証をバッグへしまいながら、
『あっくん! あんまり女の子をからかったらダメだからね!』
と抗議した。
兄はありさの両頬へ手を添え、ぷしゅーっと空気を抜く。
そして、
『まりちゃんの所へ行こうか!』
と言い、
『おー!』
ありさが元気よく返事をする。
その後、まり姉を迎えに行った。
また助手席争奪戦が始まりそうになったため、兄は先に釘を刺す。
『騒いだら2人とも後部座席ね。』
すると2人は大人しくじゃんけんを始めた。
結果はまり姉の敗北。
まり姉が後部座席へ座り、車はト〇タのカーディーラーへ向かった。
信号待ちの最中。
まり姉が不満そうに、
『あー、何で私じゃんけん弱いのー?』
とぼやく。
ありさが、
『それはねー。』
と言いかけた瞬間。
兄は左手の人差し指を立て、ありさの鼻先から口元へそっと当てた。
『ありちゃん、言わない約束でしょ。』
兄がそう言うと、
ありさは首を縦に振る。
『はーい。』
まり姉は怪しそうな顔になる。
『ありちゃん、あっくん、何を2人で話してるのかな?』
兄は笑いながら答えた。
『ありちゃんの免許証の写真が可愛いって話だよ。』
ありさは衝撃を受けた顔になり、運転の邪魔にならない程度に兄をポカポカ叩き始める。
まり姉も身を乗り出した。
『ありちゃん、見せて!』
ありさは、
『う……。』
と小さく唸りながら免許証を差し出す。
写真を見たまり姉は、
『ありちゃん、かわいー。』
『合格した安心感で油断してる感じが出てていいね。』
と笑った。
兄も続ける。
『ほらね。自信持っていいんだよ。』
ありさは少し照れながらも、
『うん。』
と笑顔を見せた。
そんなやり取りをしているうちに、車はト〇タのカーディーラーへ到着した。
営業担当が駐車場まで案内してくれたため、車を停めて店内へ入る。
案内された席に座り、軽く挨拶を交わした。
営業担当が説明する。
『昨日お電話でお伺いした通り、ア〇ア、ヤ〇〇クロス、カロ〇〇クロスの3台をご試乗いただけるよう手配いたしました。』
兄は笑顔になった。
『ありがとうございます。』
そう言って丁寧に頭を下げる。
営業担当は早速試乗車へ案内した。
兄は、
『今回試乗したいのは、彼女と私になります。』
と伝え、ありさを紹介する。
まずはア〇アから試乗することになった。
ありさが運転席。
営業担当が助手席。
まり姉と兄が後部座席へ座る。
兄個人の感想としては、特に欠点らしい欠点は見つけられなかった。
自動車学校で乗っていた車とも大きな差を感じない。
荷物を置くスペースも十分ある。
ただ、3人で出掛けるとなると少し狭いかもしれない。
そんな印象だった。
一方で、兄が祖父から借りている軽貨物車の方が荷物は載る。
そこだけは明確な違いだと思った。
ありさが運転した感想は、
静か。
それが一番だった。
ストレス無く走る車という印象が強い。
戻りはありさと交代して兄が運転する。
さっきまでマニュアル車を運転していた影響だろう。
左足が暇をしている。
若干、左手もだ。
続いてヤ〇〇クロスを試乗した。
ありさは車を見るなり、
『なんか内装オシャレかも!』
と嬉しそうな声を上げる。
たまたま準備されていた試乗車の仕様かもしれない。
だが確かに、内装はア〇アより良く見えた。
荷物スペースもしっかり確保されている。
最後はカロ〇〇クロス。
内装の色合いはヤ〇〇クロスの方がありさ好みのようだった。
しかし後部座席へ座ると、まり姉とありさの反応が変わる。
2人とも、こちらの方が気に入ったように見えた。
座席はリクライニング可能。
後部座席用のエアコン吹き出し口も付いている。
そして、ありさのお気に入りポイントはUSB充電ポートだった。
SUVということもあり、天井高も十分。
荷物スペースも広い。
2人には特に不満は無かったようだ。
兄はまり姉とありさの反応を見た後、
営業担当へ声を掛けた。
『この試乗車グレードの見積りと、他グレードの見積りもお願いできますか?』
営業担当は笑顔で頷いた。
『かしこまりました。』
と返事をした。
ご意見 ご感想 よろしくお願いします。




