162.兄が見ている世界 —引越し準備13—
まり姉が、
『家電を買った時は、あっくんに任せっきりだったから、あっくんの部屋はあっくんの好きにしていいよ。でも私の部屋とリビング、それからキッチン用品やバス用品、タオルなんかは私が決めるからね!』
と宣言した。
わたしには、
「家の中は私が決めるから、あっくんは口を出さなくていいよー」
という副音声が聞こえた気がした。
兄は笑顔で、
『俺は自分の部屋を好きにできればそれでいいよ。』
そう答えた後、
『ただ先に、この前決めたベッドやマットレス、タンスや収納、テーブル、ソファーを買おうか。』
と提案した。
ありさも、自分の家をどうするのか想像しているのだろう。
とても楽しそうだ。
まずは計画通り、ベッドやマットレス、タンスや収納、ソファー、リビング用のテーブルと椅子、各部屋用の小さなテーブルを購入し、搬入手続きも済ませた。
その時、兄が思い出したように、
『あ、優待の割引券あります。』
と言って店員さんへ差し出した。
店員さんは慣れた様子で、
『10%割引いたしますね。』
と手続きを進める。
もう、まり姉もありさも大きく驚かない。
ありさだけが嬉しそうに、
『あっくん、ありがとー。少しでも安くなるの助かるよー。』
とお礼を言った。
すると兄は続けて、
『あと、じいちゃんと俺が十年くらい粛々と貯めたギフトカードがあるので、これも使います。』
そう言ってJ〇〇ギフトカードの束を取り出した。
まり姉は即座に、
『私、もうこのネタでは笑わないから!』
と平常心を保っている。
わたしも、これくらいなら出てくるだろうと思っていたので驚かなかった。
ありさだけが目を輝かせる。
『あっくん、すごーい!』
『うちにも何枚かあるけど、こんな束になってるの見たことないよー!』
兄はその反応が嬉しかったのか、思わず笑顔になる。
『ありちゃんだけだよ。こんな可愛い反応してくれるの。』
そう言いながら一瞬だけまり姉を見た。
『あんな擦れた反応するようになっちゃ駄目だよー。』
そして、ありさの頭を軽く撫でる。
ありさは得意げに、
『ふふーん。』
と鼻を鳴らし、
『はーい。』
と返事をした後、まり姉をちらりと見た。
まり姉は頬を膨らませる。
『ありちゃんもあっくんも、何なのその言い方はー!』
兄は笑いながら、
『ありちゃんには素直な気持ちを忘れてほしくないなって思っただけだよ。』
と答えた。
まり姉は軽くため息をつく。
『はいはい。』
『じゃあ次は、調理器具、食器、カトラリー、タオル、バス用品、カーテン、ラグを買いに行くよー。』
その言葉を聞いた瞬間、
ありさの表情がぱっと明るくなった。
『あっくん! 行くよー!!』
ありさは兄の手を握ると、そのまま引きずるように売り場へ向かう。
まり姉は購入リストを確認しながら、必要な物を次々とカートへ入れていく。
ありさは、
『早くー! カーテンとかラグ見に行きたいよー!』
と言いながらも、ちゃんとまり姉のメモ通りの商品を自分のカゴへ入れていた。
その後、ありさお待ちかねの時間がやってきた。
部屋を彩るカーテンやラグ、小物類を選び始める。
兄は、あらかじめ決めていた遮光カーテンとラグを淡々とカートへ入れた。
まり姉は落ち着いた色合い――くすみカラーと呼ばれるような色を中心に選んでいる。
大人の女性らしい、落ち着ける空間を作ろうとしている印象だ。
一方のありさは違う。
ピンクを中心としたパステルカラー。
フリルやリボン。
可愛さ全開。
そんな部屋を目指しているように見えた。
正直、わたしはありさの部屋では落ち着ける自信がない。
だが、まり姉も兄も微笑みながら見守っている。
兄が、
『ありちゃんらしい部屋が完成しそうだね。』
と声を掛ける。
ありさは振り返った。
その両腕には、モンローちゃんと同じくらいの大きさの抱き枕が二つ抱えられている。
一つは、興味津々な時のありさみたいに、ぱっちりと目を輝かせた柴犬の抱き枕。
もう一つは、伏せたまま目だけを開き、じっと周囲を観察しているキツネの抱き枕。
ありさは満面の笑みを浮かべた。
『モンローちゃんにも3人必要だからね!』
そう言うと、二つの抱き枕を迷いなく買い物カゴへ入れた。
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