159.兄が見ている世界 —引越し準備10—
銀行からの帰り道、兄はありさへ尋ねた。
『そう言えば、ありちゃん。結局、食器は買わずに親から譲ってもらうのかな?』
ありさは顔をしかめる。
『できれば買いたい。お兄ちゃん達ですら受け取らなかったものだし……。』
兄は少し昔を思い出したように笑った。
『初めて会った頃のありちゃんって、今よりずっとボーイッシュだったよね。』
まり姉も思い出したように笑う。
『あー、懐かしい!
プールの前に着替えた時、下着まで男の子用だったからびっくりしたんだからね。』
ありさは苦笑いを浮かべた。
『だって、上二人がお兄ちゃんだから、お下がりが男の子の物しかなかったんだもん。
新しいのを買ってもらえたの、小学校中学年くらいになってからだし……。』
兄は大きく頷く。
『あの頃から印象が一気に変わったよね!』
まり姉も同意した。
『本当だよ。
ボーイッシュな女の子から、かわいい女の子に変身したもんね。』
ありさは遠い目をした。
『流石の親も、小学三年生くらいの女の子にブリーフは無いって気付いてくれたのかもね……。』
そして小さな声で付け加える。
『本当は、もう嫌だーって泣きついたんだけど……。』
しかし、その声はしっかり二人に届いていた。
兄とまり姉は顔を見合わせる。
『やっぱりそうだったんだー。』
兄はしみじみと呟いた。
『ありちゃんの泣き落としの技術って、その頃に磨かれたのかー。』
そして少し考え、
『モンローちゃんの時も、返してきなさいって言ってたら使われそうだったし……。』
ありさは笑顔になる。
『本当にありがとー。
毎晩モンローちゃんを抱きしめながら寝てるよ。』
すると、まり姉が首を傾げた。
『そういえば、なんであの抱き枕の名前がモンローちゃんなの?』
ありさは待ってましたと言わんばかりにスマホを取り出した。
まり姉の写真とモンローちゃんの写真を並べて見せる。
『ほら!
まりちゃんが怒った後、許してくれた時の「もう!」って口元とそっくりなの!』
さらに熱弁する。
『私とあっくんを震え上がらせた後に見せる、あの”もう仕方ないなぁ”って顔!
あれに似てるの!』
まり姉は呆れたように、
『あんたたちは……。』
と言いかけたが、すぐに優しい表情になった。
『本当にもう。』
兄はそんな様子を見ながら話題を変える。
『まりちゃんが免許を取ったら、レンタカーを借りて三人で大阪と京都へ行きたいんだけど、どうかな?』
ありさの目が輝いた。
『いいよ!
三人で運転を交代しながら移動するのかな?
小学生の頃、三人で冒険したの思い出すよー。』
兄とまり姉は顔を見合わせて笑った。
『あー、あったね。』
『ありちゃん、犬に吠えられてびっくりしてたもんね。』
ありさは慌てる。
『違うー!
なんでそっちの方向に話を持っていくの!?』
そして話題を変えようとする。
『それより、大阪と京都って中学校の修学旅行以来じゃない?』
兄とまり姉は揃って頷いた。
『そうだね。』
まり姉は当時を思い出しながら話し始める。
『金閣寺から出発して清水寺へ向かう班が五つ。
銀閣寺から出発して清水寺へ向かう班が五つあったんだよね。』
『ありちゃん、金閣寺を見たいからって、率先してくじを引いたのに銀閣寺スタートの班を引いちゃったんだよねー。』
ありさは肩を落とした。
『くじ運が無かったんだって……。』
兄は笑う。
『でも、それぞれの班が好きなルートで清水寺へ向かうのは楽しかったよ。
その時も、まりちゃんとありちゃんとの三人だったし。』
まり姉とありさも懐かしそうに笑った。
『楽しかったよね。』
まり姉は微笑みながら言う。
『次は金閣寺から清水寺を目指して、観光しながら向かおうね。』
兄とありさは揃って返事をした。
『うん。』
すると、まり姉が何かを思い出したように笑う。
『そう言えば、その時ありちゃん、お菓子を食べ過ぎた上に、移動中も色んなアイスを食べてお腹壊したよね。』
ありさは顔を引きつらせた。
『う……。
その時も何とかなったんだし!
いい思い出だよ。』
まり姉は楽しそうに笑った。
『三人で旅行かー。
私も楽しみにしてるね。』
その後、まり姉とありさをそれぞれ家まで送り届け、兄も帰宅した。
翌日。
兄は再びありさを迎えに行き、その後、自動車学校でまり姉を乗せる。
車を走らせながら兄は言った。
『家具家電さえ買えれば、ようやく先が見えてくるね。』
『学校の卒業式が三月一日。
アパートの引き渡しが三月二日。』
『水道、電気、住所変更、それから部屋の掃除を三月五日までに終わらせる。』
『三月六日に家具家電を搬入してもらって、その日から住み始める。
この予定で問題ないかな?』
まり姉とありさは顔を見合わせて頷いた。
『問題ないよ。』
そうして車は家電量販店へ到着する。
三人は店内へと入っていった。
ご意見 ご感想 よろしくお願いします。




