155.兄が見ている世界 —引越し準備⑥—
まり姉とありさは、その反応を見て、
『この後、車も買うんだよね?』
と確認した。
兄は少し驚いたように、
『勿論だよ。流石に徒歩通勤は無理だから買うつもり。』
と答える。
ありさが、
『ねー、あっくん。いくら貯金あるの?』
と尋ねた。
まり姉も興味津々だ。
勿論、わたしも!
兄は二人を見ながら、
『まりちゃんとありちゃんが教えてくれたら教えるよ。』
と笑った。
まり姉は諦めたように横を向き、
ありさは、
『うっ……。』
と黙り込む。
わたし、六十万円!
六十万円だから教えて!
と、わたしは心の中で叫んだ。
だが勿論、まり姉とありさが教えていない以上、答えが返ってくることはない。
兄は二人へ向き直り、
『明日、アパート代を振り込んで、家具家電を買うためのお金を下ろしに行こうか!』
と声を掛けた。
まり姉は、
『うん。』
と頷く。
ありさは名残惜しそうに、
『はーい。』
と返事をした。
兄は続けて、
『明後日は家具家電を買いに行こう。』
と予定を確認する。
そして、
『あ……。』
と何かを思い出したようにスマホを取り出した。
『少し電話するね。』
と断りを入れ、どこかへ電話を掛ける。
兄は、
『明日、来店したいのですが……。
え? 明日は午後から外回り?
はい、分かりました。』
と話し、電話を切った。
通話を終えると、
『じゃあ、明日の午後、まりちゃんを自動車学校に迎えに行くね。』
と笑顔を見せる。
ありさが、
『さっきの電話、何だったの?』
と尋ねた。
兄は、
『銀行に行くことがあったら、事前に電話して欲しいって言ってた人がいてね。
その連絡をしただけだよ。』
と説明する。
ありさは不思議そうに、
『その人、午後からいないんじゃないの?』
と首を傾げた。
兄は、
『電話して欲しいって言われてるだけだから大丈夫だよ。』
と気にした様子もなく答えた。
まり姉とありさは顔を見合わせて首を傾げたが、よく分からなかったのか、そのまま考えるのをやめた。
兄はありさへ、
『ありちゃん。
そういえば、何にいくら掛かるか、ちゃんと親に話しておくんだよ。
もしかしたら、ありちゃんの家で準備してくれている物もあるかもしれないから。』
と伝える。
ありさは少し期待したような表情になり、
『うん!』
と元気よく返事をした。
その日は、そのまま解散となった。
翌日の昼。
兄はじいちゃんの車でありさを迎えに行き、その後、自動車学校へまり姉を迎えに向かった。
どちらが後部座席に座るかで、まり姉とありさが一悶着あったが、
ありさが車の鍵を閉めて助手席を死守した。
まり姉は不満そうに後部座席へ乗り込む。
兄は、
『まりちゃん、自動車学校お疲れ様。
実技教習は順調?』
と声を掛けた。
まり姉は、
『ありがと。
明後日には仮免の試験だって言われたよ。
ありちゃんもあっくんも一発合格してるから、変なプレッシャーがあるんだよねー。』
と苦笑する。
兄は、
『まりちゃんなら、落ち着いて受ければ大丈夫だから気にしなくていいよ。』
と励ました。
その後、兄はありさへ視線を向ける。
『今日、お金を振り込みに行くことや、明日家具家電を買いに行くことは伝えた?』
と確認した。
ありさは露骨に嫌そうな顔になり、
『言ったよー。
ただ、家具家電の金額をもう少し抑えられないのかって言われちゃった。
ちゃんと必要なサイズで、必要な機能に絞った物だし、値引きもあまり出来ないって店員さんから言われたって説明したら、渋々了承したって感じだった。』
と報告する。
兄は、
『ありちゃんの家で何か準備してた物とかは無かったの?』
と尋ねた。
ありさは肩を落としながら、
『何年前の?って言うような食器とかはあったけど、それくらいだったよ。』
と答えた。
そんな話をしているうちに銀行へ到着する。
三人は車を降りて銀行へ入った。
ありさはそのままATMへ向かった。
しかし兄は窓口の案内札を取り、順番を待っている。
ありさは不思議そうに、
『あっくん、振り込みならATMの方が手数料安いみたいだよ?』
と声を掛けた。
兄は、
『定期預金だから、一回解約しないといけないんだよね。』
と説明する。
ありさは既に振り込みを終えており、
『これで大丈夫なんだよね?』
とまり姉に明細を見せていた。
二人は何度も内容を確認している。
しばらくして兄の順番になり、兄は窓口へ向かった。
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