149.兄が見ている世界 —新居探し②—
不動産屋さんが、
『最初の物件で決まっているようですが、最後の物件の内見はどうされますか?』
と、まり姉、ありさ、兄へ問いかけた。
ありさと兄が、一瞬嫌な顔になった。
まり姉が、
『5件、内見するんですよね?
次が3件目なんじゃないですか?』
と不動産屋さんへ尋ねる。
不動産屋さんは、
『はい。1件目と2件目は、最初の建築中の物件の1階と2階です。
3件目と4件目は、現在の物件の1階と2階になります。
5件目は、ここから車で5分ほど離れた場所にある一軒家です。』
と説明した。
まり姉は、
『つまり、ありちゃんも、私とあっくんも同じ物件を選んでたって事?』
と確認した。
ありさと兄は目を合わせて頷くと、深呼吸をした。
兄が、
『ありちゃん、すごい偶然だね。そんな事あるんだねー。』
と言う。
ありさも、
『ホントだね。これこそまさに運命なんじゃない?』
と、棒読みで芝居を始めた。
すると、まり姉が、
『ありちゃん! あっくん! 私聞いてないんだけど!』
と抗議した。
兄は、
『三人で一緒にいたいんだから、いいじゃん。
時間が来たから、はい終了じゃなくて、お互いがちゃんと納得するまで一緒にいられるし。』
と返す。
ありさも兄の隣で何度も頷いている。
まり姉は、
『あんたたちは、しょうがないなー。もう。』
と呆れたように言った。
ありさと兄は、
『あ……モンローちゃん……』
と呟く。
まり姉は、
『あぁ!?』
と言って二人を睨んだ。
ありさと兄は、すぐに大人しくなった。
不動産屋さんは、
『5件目の内見が不要でしたら、早速戻って契約を行いましょうか。』
と提案した。
まり姉、ありさ、兄は、
『内見ありがとうございました。お願いします。』
と頭を下げた。
声も動作も綺麗に揃ってしまい、三人は顔を見合わせて笑った。
不動産屋へ戻る車内で、兄が不動産屋さんへ尋ねる。
『今回契約する物件の図面はありますか?
家具や家電を購入したいので、それぞれの寸法を確認したいんです。
カーテンも購入したいので、窓の数や大きさも知りたいです。』
不動産屋さんは、
『ありますので、コピーをお渡しします。』
と答えた。
兄は、
『ありがとうございます。』
と頭を下げた。
不動産屋へ戻ると、ありさのお母さんが待機していた。
まり姉と兄が挨拶をする。
ありさのお母さんは、ありさへ、
『物件が決まったって聞いたけど、本当に大丈夫?
会社までの距離とか、駐車場とか、道の広さとか。
昼と夜で雰囲気が違う事もあるけど、大丈夫?』
と確認した。
さすが可愛い一人娘。
お兄さん二人が巣立ってから、親の愛情をたっぷり受けて育ったんだなぁ。
と、わたしは思った。
ありさは、
『大丈夫!
まりちゃんやあっくんが住む所と隣というか、同じ建物だし!』
と元気よく答えた。
ありさのお母さんは、
『ありさがいいなら、いいんだけど……』
と少し不安そうだ。
不動産屋さんは書類の準備を終えたが、
『申し訳ありません。
現在、宅建士が別のお客様の対応中ですので、しばらくお待ちください。』
と説明した。
兄は軽くため息をつくと、財布からカードを取り出してテーブルへ置いた。
『宅建士が来るまで待つしかないんですね。
ちなみに、資格なら持ってます。』
不動産屋さんはカードを見て、
『え? 宅建士証!?』
と驚いた。
兄は、
『登録実務講習とか資格登録とか、結構大変だったんですよ。』
と苦笑する。
ありさが、
『あっくん、このカード何?』
と尋ねた。
兄は、
『宅建士っていう資格の証明書だよ。
不動産の契約をするときに必要な資格なんだ。』
と説明した。
そして、
『他の人に先を越される心配はないですよね?』
と不動産屋さんへ確認する。
不動産屋さんは、
『はい。この物件は既に押さえておりますので大丈夫です。』
と答えた。
その時、宅建士の方が戻って来た。
『何かありましたか?』
と声を掛けられ、
兄は、
『宅建士が来るまで待ちと言われたので待っていたんですけど、せっかく資格を取ったのに使う機会がないなと思いまして。』
と事情を説明した。
宅建士の方は苦笑いを浮かべながら、
『それでは早速進めましょうか。』
と手続きを始めた。
こうして契約手続きは進み、何とか無事に終了した。
途中、兄が
『え?』
とか、
『いやいや』
とか、
『それどういう意味で言ってます?』
とか何度も確認を入れなければ、もっと早く終わっていたと思う。
まり姉が、
『あっくん!』
と注意すると、兄は大人しくなった。
でも、不動産屋さんも、
「もっと早く言ってほしかった……」
みたいな顔をしていた。
と、わたしは思った。
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