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140.兄が見ている世界 —自動車学校39—

ありさがため息をついたのを見ると、兄はDVDを止めて、

『ねぇ、ありちゃん。せっかくだから歌おうよ!

俺の次はありちゃんねー!』

そう言うと、曲を入れ始める。


兄が、

『最近の曲は歌えないけど。』

と言って入れた曲は、ヒル〇〇イムの春〇〇冬だった。


ありさは、画面に表示された曲名を見る。

兄は特に気にした様子もなく歌い始めたが、その歌詞は、まるで長い時間を一緒に過ごしてきた誰かへの想いを歌っているようだった。

ありさは、ちらりと兄を見る。


兄は気付いていないのか、気付いていて気付かないふりをしているのか、楽しそうに歌っている。


歌い終わった兄は満足そうにマイクを置いた。


『次、ありちゃんね。』


ありさは少し考えた後、YO〇〇OBIのハ〇カを入れた。

流れてきた歌詞は、誰かを想い続ける気持ちや、届きそうで届かない距離を感じさせるものだった。


兄は静かに聴いていた。

途中、一瞬だけ兄とありさの目が合う。

だが、兄は何も言わずに微笑み、ありさも何も言わなかった。


わたしは、

お前ら絶対わざとだろ!

と思ったが、口には出さない。

2人とも何も言わないくせに、選曲だけで会話しているように見えたからだ。


歌い終わると、兄が、

『上手じゃん。』

と素直に褒めた。


ありさは、それだけで満足したような顔になり、

『へへーん。』

と言うと、その後はマイクを独占し、時間まで歌い続けた。


ありさは、たくさん歌って満足そうだ。

2人は自動車学校のバス停へ向かった。


ありさが、

『ねぇ、あっくん……』

と声を掛ける。


兄が、

『ありちゃん、どうしたの?』

と聞くが、


ありさは、

『なんでもなーい!

明日は卒検頑張るぞー!』

と言った。


バス停に到着すると、まり姉が待っていて、

『あっくん、ありちゃん遅いよ!

時間ギリギリだよ!』

とハラハラした様子で怒っていた。


既に遠くにはバスの姿が見えている。

『ギリギリセーフ!』

と兄が言い、ありさと兄がバスに乗り込んだ。


まり姉が、

『カラオケは楽しかった?』

と聞くと、


ありさと兄は、

『楽しかったよ!』

と2人揃って答えた。


まり姉は少し不機嫌そうに、

『ふーん。私なんて今日一日、運転もせずにずーっと学科だったのにー。』

と言った。


兄は、

『まりちゃん、大学生って夏休みあるよね?

そこで取っても良かったんじゃない?』

と聞いた。


まり姉は、

『確かに、ずるずる九月まで通って取れればいいんだけど、今やれることは全部終わらせておきたいからねー。』

と言う。


わー、まり姉らしー。

と、わたしは思った。


ありさが、

『ねー、本免取り終わったら不動産屋さんへ連絡取るんだよね。』

と兄へ聞く。

『そのつもりだよ。

〇〇市の中でも△△市寄りの場所で探したいと思ってる。

部屋数的には2LDKくらいがいいかなー。』


ありさがスマホで調べると嫌そうな顔になった。

『めっちゃ高いよ!

下手したら月十万円超えるし……

私は良ければ1LDKくらいで十分かなー。』


まり姉も驚いたように、

『月十万!? 高くない!?』

と兄を見る。


兄はキョトンとした顔をしている。


わたしは、

あれ?

もしかして家賃十万円が高いって感覚ないのか?

と思った。


まり姉は兄の膝をツンツンしながら、

『大丈夫なの?』

と聞く。


兄は、

『上限はあるけど家賃補助があったと思うから大丈夫じゃないかな。

家賃の三分の一で上限三万円だったはず。


ありちゃんも家賃補助あったでしょ?

二万五千円だったっけ?』

と言った。


ありさは、

『え……っと。』

と求人票の画像を確認し、

『あ! ホントだ!』

と安心した声を上げる。


そして、

『でも、わたしより詳しいっておかしくない?』

と兄を見る。


求人調べた時に条件まで全部確認してるな、コイツ。

と、わたしは思った。


兄は、

『でも住宅ローンは対象外みたいだから注意しないとね。』

と言う。


ありさは、

『流石に18歳独身の女の子で一軒家購入はハードル高くない!?』

と叫んだ。


兄は笑いながら、

『でも、長く住むなら自分達の好きなように出来るメリットはあるよ。』

と言う。


そして、

『転勤とか家族が増えたりとか、その時々の状況に合わせて動けるから、個人的には今は賃貸の方がいいと思ってるけどね。』

と続けた。


ありさは、

『知ってるよー。

だから探してるんだし。』

と返し、


まり姉と兄は笑った。


バスから降りると、

ありさが兄の手を握る。

『わたしの早い者勝ち!』

と言った。


すると、

まり姉がありさの反対側の手を握る。


ありさは、

『え?』

と言ったが、すぐに嬉しそうな顔になった。


結局、誰も手を離そうとはせず、

3人は並んで家路についた。

ご意見 ご感想 よろしくお願いします。

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