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139.兄が見ている世界 —自動車学校38—

ありさは、まり姉と兄へ向かって言った。

『さあ、あっくん、まりちゃん。幼馴染の私に教えてくれるかな?』


兄は少し驚いた後、

『さすが、ありちゃん。

高校卒業後、お互いの関係を進展させようって話をしたんだよ。』

と答えた。


まり姉は苦笑しながら、

『だいぶ端折ったね。まあ、そうなんだけどさ。』

と言う。


ありさは、

『卒業後?

既にとかじゃなくて?』

と確認した。


まり姉は、

『お互い将来があるからね。

今、取り返しのつかない行動はしないって約束してるの。』

と答える。


ありさは少し考えた後、

『延長戦ってことでいいのかな?』

と聞いた。


まり姉は、

『それを私に聞く?

覆ることはないとは言えないけど、ほぼ確定でいいんじゃない?』

と笑う。


ありさは真面目な表情になった。

『私ねー。

あっくんともだけど、まりちゃんともずーっと仲良くしていたいの。』

『だから中途半端は嫌なんだ。

ちゃんと宣言しておかないとね。』

そして少し笑って続ける。

『ただ、今は三人の仲を壊すつもりはないから、隙あらばだけどねー。』

『まりちゃんが、あっくんを蔑ろにしたタイミングを狙ってる!』

そう言うありさの目は冗談めいていたが、どこか本気だった。


兄の腕を引っ張り、

『隙ありってことで、今日は私の膝枕ねー。』

と言った。


おいおい。

兄にとっては良いことしかなくないか?

と、わたしは思った。

だが次の瞬間。


まり姉が兄の頭を自分の太ももの上へ押し付け、強制的に膝枕を完成させた。


ごめん。

やっぱり無しだ。

絶対に痛かっただろ、それ。

と、わたしは思った。


バスが到着し、兄は鼻を押さえながら立ち上がる。


『まりちゃん、ありちゃん、行こうか。

卒検前、最後の路上教習だ!

残りの時間は、一人カラオケ♪』


まり姉とありさは、

『うん!』

と頷き、三人でバスへ乗り込んだ。


ありさが兄へ聞く。

『私も十三時の教習が終わったら暇なんだけど、一緒にカラオケ行っていい?』


兄は、

『いいよ。』

と軽く返事をした。


まり姉は首を傾げる。

『あっくんって、一人カラオケなんて行ってたっけ?』


兄は得意げに笑った。

『穴場を見つけたんだよ。』

それだけ言う。


まり姉は、

『いいよーだ。

私は今日と明日で仮免前の学科をコンプするから!』

と胸を張った。


兄は自分の教習を終え、昼食を食べた後、

『カラオケ行ってくるね。』

とまり姉とありさへ伝え、一人で出掛けて行った。


兄が到着したのは、いつものカラオケ店。


前回は途中で寝落ちして最後まで見られなかった映画。


タイ〇ニックの続きを再生する。

しばらくするとノックの音がした。


やって来たのは、ありさだった。


二人で続きを見始める。


大画面のプロジェクター。

カラオケルームならではの音響。


ありさも最初は満足そうに見ていた。

だが――


兄が突然リモコンを操作し、映像を停止した。

『このシーン!』

兄の目が輝いている。


嫌な予感しかしない。

兄は熱弁を始めた。

『ここ分かる?』


ありさは、

『うーん?』

と首を傾げる。


兄は嬉しそうに説明を続ける。

『一等客と三等客って、船に乗る前から扱いが違うんだよ。』

『一等客はほとんどそのまま乗り込むけど、三等客は検査とか手続きとか色々あるんだ。』

『同じ船に乗るのに、立場によって待ち時間も手間も全然違う。』


ありさは、

『へー。』

と返事をした。


兄は止まらない。

『しかも船の中も全然違うんだよ!』

『部屋も違うし、食事も違うし、使える設備も違う。』

『この船そのものが、当時の階級社会の縮図みたいになってるんだ。』

さらに映像を巻き戻す。


『ほら、このシーン!』

『ジ〇〇クが居る場所と、ロー〇が居る場所。

同じ船なのに別世界みたいでしょ?』


おい、兄よ。

ありさを見ろ。

目が点になってるぞ。


映画を見に来たのであって、映画研究会の講義を受けに来たんじゃないんだぞ。


しかも所々で止めるから、若干イラッとしてるように見えるし……

もうやめてやれよ。

と、わたしは思った。

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