138.兄が見ている世界 —自動車学校37—
兄は、まり姉のお父さんへ向かって言った。
『本来は明々後日、しっかりとご挨拶をさせていただく予定でした。
ですが今、小細工や根回しなどせずに、正々堂々と娘さんとの結婚を前提としたお付き合いをご許可いただきたく参りました。』
まり姉は、
「おい!」
と言いたそうな顔をしている。
一方で、まり姉のお父さんは少し面白そうな表情を浮かべていた。
兄は続ける。
『単刀直入で申し訳ありません。
若輩者ではありますが、まりさんが望む限り、自分にできる範囲で精一杯まりさんを幸せにしたいと思っています。
どうかご許可をお願いします。』
まり姉のお父さんは笑いながら言った。
『大坂君、久しぶりだね。
少し見ない間に背も高くなったな。』
そして、
『言い方まで君のお父さんそっくりだ。』
そう言って笑う。
『いいぞ。
まりが望んでいるのなら、結婚を前提とした付き合いを認めよう。』
まり姉と兄の表情が明るくなる。
すると、まり姉のお父さんは少し真面目な顔になった。
『ただ一つだけ約束してほしい。
まりは進学、大坂君は就職が決まっている。
だから少なくとも高校在学中は、取り返しのつかないことにならないようにしてくれ。』
まり姉の顔が真っ赤になる。
兄はいつもの落ち着いた表情のまま、
『ご安心ください。
現時点で一線を越えるようなことはしていませんし、高校在学中は今の関係を維持するつもりです。』
と答えた。
そして続ける。
『こちらからも一点お願いがあります。
高校卒業後、まりさんは進学し、私は就職します。
新生活にあたり、同じアパートで生活を始めたいと考えています。
こちらもご許可いただけないでしょうか。』
まり姉のお父さんは少し驚いた表情を浮かべた後、
『まり本人としっかり話し合って決めるのであれば、私は反対しないよ。』
と言った。
そして、
『ただ、生活費はどうするつもりなんだ?』
と尋ねる。
兄は即答した。
『私が働いて、二人の生活費を支えるつもりです。』
まり姉のお父さんは少し安心したように頷き、
『それなら、まりの学費についてはこちらで何とかできそうだ。
奨学金を借りずに済むかもしれないな。』
と言った。
その後はしばらく雑談を交わし、兄はまり姉の家を後にした。
お務めを終え帰宅し、翌朝。
兄はまり姉を迎えに行き、手を繋いでバス停へ向かった。
バス停には、すでにありさが待っていた。
まり姉と兄が、
『おはよう!』
と声を掛ける。
ありさは二人の繋がれた手を見ると、一瞬で状況を察したようだった。
『時間切れかー。』
そう呟いた後、
いつもの笑顔を作り、
『あっくん、まりちゃん、おはよー。』
と挨拶を返した。
ご意見 ご感想 よろしくお願いします。




