134.兄が見ている世界—自動車学校33—
まり姉と兄が、教習車の後部座席に乗り込む。
教官が、
『荒木さんと大坂君は、中野さんと知り合いだったのかな?』
と尋ねた。
ありさは、
『はい。小さい頃からの友達です。』
と返事をする。
教官は、
『そうなんだ。』
と言うと、まり姉へ向かって、
『中野さん、実技の方が学科と比べてスタンプを埋めるのに時間が掛かるけど、遊び呆けていたら稀に逆転される人もいるから注意してね。』
と言った。
わたしは思う。
この教官、誰に言ってるんだ?
まり姉がそんな事になる訳ないじゃん!
ありさや兄と比べてもだけど、しっかり度はカンストどころか天井を突き抜けてるからな!
まり姉は真面目な表情で、
『はい。』
と返事をした。
兄は、まり姉へありさが行っている動作を説明する。
まり姉は何度も頷いていた。
兄が、
『ありちゃん、本当に運転上手になったんだよ。』
と言うと、
まり姉は、
『ありちゃんは悔しさをバネに努力できる子だからねー。』
と笑った。
教官が、
『今日は、ここの駐車場に車を停めてみようか?』
とありさへ言う。
ありさは返事をして、丁寧に車を駐車した。
教官は満足そうに頷く。
『うん。いいね。
次は大坂君だね。』
まり姉は兄へ、
『あっくん、頑張って!』
と言い、
ありさへも、
『ありちゃん、お疲れ様!』
と声を掛けた。
兄も同じように運転する。
教官は頷きながら、
『大坂君と荒木さんは明後日卒検だから、学科試験の勉強もしっかりしておいてね。』
と声を掛けた。
ありさと兄は、
『はい。』
と二人そろって返事をした。
教官は思い出したように、
『そうだ、中野さん。
十六時の枠だけど急に空いたから運転してみようか?
もちろん初めてだし、仮免もまだだから自動車学校のコースだけだけどね。』
と言った。
まり姉は、
『はい。お願いします。』
と返事をする。
ありさが、
『私とあっくんも一緒に乗ってていい?』
と聞く。
まり姉は笑顔で、
『もちろんいいよ!』
と答えた。
そして、ありさの教習も終わり、ついにまり姉の初運転となった。
ありさも陽子も凄かったもんなー。
今思い出しても震えてくるぜ!
と、わたしは思った。
まり姉の運転は、さすがまり姉という感じだった。
初めてだから所々指摘されることはあるものの、全体的には無難に運転している。
そこで、ありさがニヤリと笑い、兄へ尋ねた。
『あっくんって、まりちゃんにハグしたり、うつ伏せ膝枕してもらった時に深呼吸してるじゃん。
どんな匂いがするの?』
まり姉の運転が変わった。
というか、少しスピードが上がった。
兄は首を傾げながら、
『とっても安心する匂いって言ったらいいかな。
まりちゃんが、ここに居てくれてるって安心する気持ちが強いかな?』
と答える。
ありさは、
『じゃあ、私は?』
と言いながら、髪をかき上げて首筋を見せた。
兄は少し顔を近付け、
『あ、シャンプーとリンス変えた?』
と言う。
ありさは満面の笑みで、
『せーかい!』
と答えた。
その瞬間――
ガタッ!
という音が響いた。
まり姉が脱輪していた。
教官は大きくため息をつき、
『イチャつくなら車から降りなさい!』
と二人を叱った。
ありさと兄は、
『すみません。』
と素直に謝罪する。
だが、その時まり姉を見るありさの目が、少しだけ怖く見えたのは気のせいだろうか。
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