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130.兄が見ている世界 —自動車学校29—

兄は、まず質問を整理することにした。

『まずは、何の問いに対して答えればいいのかな?

ありちゃん、陽子、まきちゃんの魅力についてだっけ?

エンゲル係数についてだっけ?

それとも、食べた量についてどう思ったかだっけ?』


そう言うと、兄はソファに腰を下ろした。


ありさは勢いを削がれ、少しだけ落ち着いた声になる。


それでも怒りの感情は残っているようだった。

『じゃあ、食べた量について!』


兄は即答した。

『一言で言うと、素敵だと思うよ。

元気にご飯をたくさん食べられるのは、俺にとって魅力の一つだからね。』


ありさはキョトンとした顔になる。

『ふーん……』


そう言って目を泳がせる。

『えっと……じゃあ、エンゲル係数について!』


兄は笑いながら言った。

『これで最後の質問ね。

頑張って少しでも多く準備できるように努力するよ。

笑顔でたくさん食べる女の子は、とっても可愛いから。』


ありさは不意を突かれたような顔になる。

『あっ! それずるいよ!』


兄は首を傾げた。

『だって、最初に質問は二つまでって言ってなかったからね。

早い者勝ちってことで。』


すると陽子が前へ出た。

『じゃあ、私からの質問はいいのかな?』


兄は笑顔で頷く。

『いいよ。

陽子も二つまでね。』


陽子は少しだけ不安そうな顔で尋ねた。

『私がたくさん食べてる姿も魅力的だった?』


兄は即答した。

『もちろん。』

そして続ける。


『陽子は、初めて会った時は少しテンポが合わないなって思ったけど、

周囲に合わせようと必死だった姿も、


怖くて震えていた姿も、


化粧を落とした時の優しい顔も、


たくさん食べてる姿も、

全部素敵だし、可愛いと思ってるよ。』


陽子は顔を赤くしながら、

『へへへ……』

と照れ笑いを浮かべた。


そして、

『じゃあ、私とありありのこと、どう思ってるかな?』

と尋ねる。


兄は一瞬考え、意地悪そうな顔になる。

『どっちを答えたらいいの?』


陽子は即答した。

『それなら、ありありはいいや。

私だけでいいよ!』


ありさは衝撃を受けた顔をした。


わたしは思う。

ありさは、さっきまで散々言っていたのに、そのことはもう忘れたのか?

それとも、そもそも暴言だと思っていないのか?


兄は優しい笑顔で言った。

『さすがにみんなの前で言うのは恥ずかしいから、俺の隣に座ってよ。』


そう言って、自分の隣の空いている場所を見た。


陽子は、

『うん、いいよー。』

と頷き、兄の隣へ腰を下ろした。


兄は少し考えながら話し始める。

『まずは、努力するところだね。

無理してでも周囲に合わせようとする姿は、献身的だと思った。

周りを見て、自分は何をするべきか考え続けるのって、簡単じゃないからね。』


陽子は黙って聞いている。


兄は続けた。

『もちろん、精神的にも肉体的にもかなりきつかったと思う。

でも、それを続けられる精神力も素敵だと思うよ。』


そして少しだけ身を寄せ、


陽子の耳元で囁く。

『怖くて、不安でどうしようもない時、

俺にしがみついて頼ってくれた姿は可愛かったし、

正直、少しドキッとしたよ。

だから、俺も頑張らなきゃって思った。』


陽子の顔が一気に赤くなる。


兄は陽子の頭を撫でると、元の姿勢に戻った。


『それから、ありちゃんと二人で話してる時かな。

あの時は、素の陽子を見せてもらえた気がして安心した。


無理をせず笑っている姿を見た時は、

こんなに綺麗に笑えるんだなって思ったよ。』


陽子は恥ずかしそうに俯く。


兄はさらに続ける。

『あと、食べてる姿。』


陽子は顔を上げる。


『小さい口で一生懸命頬張って、

美味しそうに食べてる時の幸せそうな顔は、本当に良かった。

もっとたくさん食べてほしいなって思ったくらい。』


陽子は両手で顔を隠した。


『もういいかなー。

だいぶお腹いっぱいだし!』


兄は笑った。

『他にも色々あるんだけどな。』

そう言った後、


思い出したように続ける。


『でも最後に一つだけ。

メニューを噛まずに読み上げた時は本当に凄かったよ。


魔法の詠唱みたいだった。


火球とか水球とか飛び出すんじゃないかって、ちょっとワクワクした。』


陽子は即座にツッコむ。

『いや、普通に注文しただけだからな!』


部屋に笑いが起こる。


そして、


ありさが、キラキラした目で兄を見つめていた。


明らかに、

「次は私だよね?」

という顔だ。


兄はそんなありさと目が合う。

しかし、

ニッと笑った後、


ふいっと横を向いた。


ありさは固まった。

『あっくん?』

兄は何も答えない。


ありさの頬が、ぴくりと引きつった。

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