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129.兄が見ている世界 —自動車学校28—

ありさはパーカーを脱ぎ終わると、

『あっくん、後ろを向いてて。』


そう言うと、兄は後ろを向いた。

少し経って、


ありさの

『やっぱりダメだった。』

『陽子もパーカー脱いで試してみてよ』

と言う声と、


陽子の

『パーカー、一着程度たかが知れてるけどやってみるよ』

と言う声が聞こえる。


さらに少し経って、

『私もダメでした。』

という陽子の声が聞こえてきた。


兄は、

『ありちゃんと陽子の方を向いていいかな?』

と尋ねる。


すると陽子が、

『でも、ありありのは、ここが原因だよね!

ここは重さに含む必要ってあるの?』

と言った。


ありさは、

『陽子、天才!

もう一回するから、後ろから持ち上げてくれる?』

と言う。


『了解。』

と陽子が返事をした。


しかし、その後まったく返事がない。

兄はしびれを切らし、ありさと陽子の方を向いた。


そこには、おっぱいを陽子に持ち上げてもらった状態で体重計に乗るありさの姿があった。


ありさは、

『陽子! 体重減ったよ! 1.5キロ減った!』

と喜んでいた。


そして、そのまま兄と目が合う。

ありさは、悲しさと悔しさ、憎しみが入り混じった複雑な表情で、


複雑な声を漏らした。

『だって、たった三日だよ!

たった三日で五キロ以上も体重が増えてるんだよ……。』

『陽子も同じくらい増えてるし……。』


陽子もいたたまれない顔をして下を向く。


ありさは続ける。

『表情が柔らかくなった?

落ち着きが出てきた?

大人っぽくなった?

って、前にまきちゃんを見た時に私が思った印象そのまんまだし。

自分の二の腕を触ってみたら、ふにふに度合いがマシマシになってたんだよ。』


陽子は自分の二の腕を触り、ハッとした顔になった。


ありさは続ける。

『おかしいって思ったんだよ。

夕ご飯、茶碗五杯も食べてて、今までの倍以上食べてるのに、同じ体重な訳が無かったんだよ。』


陽子の表情も悲しそうになる。


ありさはさらに続けた。

『陽子が着てるパーカー、初めて会った時はダボッとしてたのに、今はほとんどピッチリじゃん。

それで私は思ったんだよ。

今の陽子なら、フィジカル的にタックル一発で、あの女子軍団をまとめて吹き飛ばせるって。』


陽子は、その評価に驚愕する。


ありさは持論を展開し続ける。

『そりゃ、陽子を怒らせて暴れられたら誰も止められないんだから、優しくもなるよ。

陽子は、たった数日でこれだけ変われるポテンシャルを持ってるってことなんだから。

相手からしたら恐怖だよ。

ホラーだよ。

畏怖しちゃうよ……。』


陽子は、

「言い過ぎだろ……」

と言いたげな顔で、ありさを睨んだ。


ありさは兄を見る。

『こんな私たちだから、昨日も前の日も、夜中に布団へ潜り込んでも何もしてくれなかったんでしょ!

心の中で、

「こいつらどんだけ食うんだ?」

「こいつらと生活したらエンゲル係数ヤバい」

って思ったんだよね?

怒らせたら物理で潰されるって!

そう思ってたんでしょ!?』

涙混じりの声で叫んだ。


陽子も、

『え? そうだったの?』

という顔で兄を見る。

そして目に涙を溜め、悲しそうに下を向いた。


ありさは、そのままの勢いで、

『あっくん、何か言ってよ!

私の思ってることが間違ってるなら、

あっくん言ってみてよ!』

と涙をこぼしながら叫んだ。


わたしは、体重が五キロ増えて戸惑う気持ちは分かる。

でも、ここまで取り乱して周囲に怒りを撒き散らすものだとは知らなかった。


兄は一瞬、

「こいつ、何を言っているんだ?」

と言いたげな表情をした。

だが、軽く深呼吸をすると、笑顔になり、ゆっくり口を開いた。

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