127.兄が見ている世界 —自動車学校26—
兄は陽子の手を握り、カフェへ向かう。
ありさが少し不機嫌そうな声で、
『私の可愛いお手々が空いてるんだけどなー』
と言うと、
兄は少し笑って、
『これはこれは、失礼しました。本日の主役と手を繋ぐ栄誉を独占してしまい、申し訳ありません。』
とありさへ言った。
そして、陽子の手をありさへ握らせ、自分は陽子の反対側の手を握る。
わたしは声を大にして言いたい。
『違う!』と。
この対応は、わたしでも分かる。
違うんだ。
ありさは、兄と手を繋ぎたいんだよ。
ありさは一瞬、
『え?』
という顔をしたが、すぐに
『やれやれ』
という表情になった。
⸻
3人は、そのままカフェへ到着した。
ありさは工業高校出身ということもあり、まり姉以外とカフェへ来たことがない。
そのため、店を見回しながら目をキラキラさせている。
そして、ありさも兄も少し緊張していた。
一方の陽子は特に緊張する様子もなく、慣れた足取りで店内へ入る。
ありさと兄も、その後に続いて席へ座った。
⸻
陽子はメニューを見せながら、
『このお店のカヌレ、私かなり好きで、来るたびに頼んでるんだよねー。
あっくんとありありも食べてみなよー』
と言った。
兄は小声でありさに尋ねる。
『カヌレって何?』
ありさは即答した。
『私が知るわけないじゃん。』
兄は、
『前にまりちゃんと行ったって自慢してたじゃん。』
と言う。
すると、ありさは少しムッとしながら、
『あの人が食べてるやつくださいって注文しただけだし!』
と言い返した。
⸻
そんなやり取りをしていると、
陽子が、
『ねえ! カヌレ注文していいの?』
と聞いてくる。
兄は、
『よく分かんないけど、お願いします。』
と答えた。
⸻
陽子は続けて、
『私の友達はアサイーボウルが好きなんだよねー。
見た目もカラフルだし。
注文してみる?』
と聞く。
兄はありさへ顔を向け、
『え? 浅いボール?
どんなボールそれ?』
と真顔で尋ねた。
ありさも、
『知らないよ!
給食にも出てきたことないし!
カラフルって言ってたから、スマホで撮ると映える食べ物なんじゃない?』
と答える。
兄は、
『毒々しい色してたりするの?』
と聞き、
ありさは、
『だから私に聞かないでよ!』
と少し怒った。
⸻
陽子は呆れたように、
『さっきから何コソコソ話してるの?
言いたいことあるならハッキリ言ってよ!』
と言う。
兄は意を決して、
『メニュー名を言われても何のことか全く分からないし、
どんな物が出てくるのかも、
味がどんなのかも、
もちろん食べ方も分からないんだけど、
どうすんの?って話してた。』
と白状した。
⸻
陽子は吹き出しながら、
『私がいるんだから聞いてよ!
ていうか、ありありは来たことあるでしょ!』
と言った。
ありさは、
『来たことはあるよ!
でも何を注文したら何が出てくるのか分からないから、
あの人たちが飲み食いしてるやつくださいって言っただけだったし……』
と徐々に声が小さくなった。
⸻
陽子は楽しそうに笑い、
『じゃあさ!
色々注文してみよーよ!』
と言うと、
店員さんへ向かって、よく分からないカタカナのメニュー名をスラスラと読み上げて注文を終えた。
⸻
注文を終えた陽子に、
ありさと兄は自然と拍手を送る。
陽子は、
「この2人、本当に私と同い年なの?」
と言いたげな目で2人を見ていた。
⸻
しばらくして料理が運ばれてきた。
兄が手を伸ばそうとすると、
陽子が、
『まだ写真撮ってないから!』
と慌てて制止する。
兄は素直に料理を陽子へ渡し、
撮影が終わるまで待った。
⸻
そして、ようやく食べ始める。
アサイーボウルは兄の好みではなかったのか、
一口だけ食べると、
『うん。なるほど。』
と言って陽子へ返した。
⸻
兄は軽く深呼吸をして、
本題へ入る。
『それで、陽子。
あおい達に呼び出されたって言ってたけど、
何があったの?』
ご意見 ご感想 よろしくお願いします。




