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124.兄が見ている世界 —自動車学校23—

『ねぇ……起きて』

兄は体を揺すられ、目を覚ました。


三日連続で夜中に起こされるって、わたしならブチ切れものだぞ!


そんな状況でも兄は笑顔で、

『陽子ちゃん、どうしたの?』

と優しく尋ねた。


そこには、少しモゾモゾしながら立っている陽子がいた。


『寒いから布団入れて』

そう言って布団へ潜り込む。


『あったかーい』

陽子はそう呟くと、兄の目を見ながら続けた。

『久しぶりに友達とたーくさん話せたんだ。

みんなでお昼ご飯食べて、合間にカフェ行ったりして、楽しかったー』


兄は微笑みながら、

『良かったじゃん。

でも最初に話した時みたいに、無理してたんじゃないかな?』

と問いかける。


陽子は少し考えて、

『うーん、どうだろ。

またハブられるの嫌だし、怖いからなー』

と答えた。


兄は陽子をそっと抱き寄せ、頭を軽く撫でながら、

『陽子ちゃん、俺の前では無理しなくていいからね』

耳元でそう囁いた。


陽子は笑いながら、

『無理してない素の私は何回も見たでしょ。

泣きながら震えて、あっくんにしがみついてたし』


そう返したあと、少し真面目な表情になる。

『でも本当の私は、震えて塞ぎ込むだけ。

立って歩くことも出来ないよ』



『陽子ちゃん、今日も一日よく頑張りました』


陽子は嬉しそうに笑う。

『へへ、そーでしょ。

私は努力家だからね!』


そして少しだけ遠慮がちな表情になり、

『それよりさー。

ねぇ、あっくん。

私のこと、ちゃん付けじゃなくて陽子って呼んでほしいな』

そう言って首を傾げた。

『ダメかな?』


兄は穏やかに頷く。

『陽子がそう呼んでほしいなら、そう呼ばせてもらうよ。』

『陽子』


陽子は満足そうに笑った。

『はーい』


そして再び口を開く。

『あっくんは、あんな状態だった私をまたみんなの輪の中に入れてくれた。

ねぇ、私、何も返せないんだけど。

恩返しとか出来ないけど、私……』

そう言いながら、またモゾモゾし始める。


兄は苦笑しながら答えた。

『陽子からは十分恩返ししてもらったと思ってるよ。

ちゃんと自分の足で、ありちゃんや俺の所から離れて友達の輪の中へ入っていった。

まだ少し無理してそうだけど、みんなと笑って、おしゃべりしてる姿を見せてくれたし。

俺は大満足だよ』


そして少し笑いながら続ける。


『それに、もう一人の功労者が寒い中震えて廊下からこっちを見て、

「私にはー!?」

って思ってるよ』


兄がそう口にした瞬間、


ガタッ


部屋の襖が揺れた。


ありさだ。

わたしは直感でそう思った。


ありさはバツが悪そうに笑う。

『バレてたかー』

そう言いながら部屋へ入ってきた。


そんなありさを見て、陽子が棒読みで言う。

『ありあり、覗きなんて趣味悪いぞー』


ありさは頬を膨らませた。

『覗きって!

よーこー!』


そして、

『私も寒いから布団入る!』

と宣言して布団へ潜り込んできた。


シングル布団に三人。


流石に狭い。


陽子は不満そうに声を上げる。

『ありありが食べ過ぎて大きくなってるから、私が布団からはみ出てるんですけど!』


すると、ありさは即座に反論した。

『私は元が細いから、そんなことないしー』


陽子はクスクス笑う。

『栄養全部おっぱいに行ってるから、うらやまし〜』


ありさは得意げに胸を張った。

『へへん。

いいでしょー』


女子二人に挟まれながら、兄は楽しそうな会話を聞いていた。


そして、そのまま静かに寝落ちしてしまった。

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