123.兄が見ている世界 —自動車学校22—
自宅に到着すると、
陽子が
「ありあり、大丈夫?」
と声を掛けるが、ありさには既に言い返す気力も体力も残っていなかった。
陽子は心配そうに兄へ向き直る。
「ねー、あっくん。ありありをちゃんと休ませないと、本当に倒れそうなんだけど」
ありさは、その言葉に軽く陽子を睨んだ。
兄は気遣うような口調で、
「今日はいつもよりテンション高かったし、警察から質問されたりもしたから疲れちゃったのかもね。
俺の夕方のお務めが終わったら、早めに晩ご飯にしようと思うから、陽子ちゃん、ありちゃんをゆっくり休ませてあげてね」
と頼み、そのまま夕方のお務めへ向かった。
戻ってくる頃には、ありさはいつもの元気を取り戻していた。
「あっくん、ごめんねー。ちょっと取り乱してたみたいで……」
そう謝りながらも、横で陽子を軽く睨んでいる。
兄は安心したように笑い、
「ありちゃんの元気が戻ったなら良かったよ。晩ご飯にしようか」
と二人へ声を掛けた。
今日のメニューは、
ご飯
味噌汁
トンカツ
サラダ
漬物
ありさと陽子は、いつものようにご飯と味噌汁を二杯ずつおかわりする。
……と思ったのだが、
ありさの食欲は止まらなかった。
さらにご飯、味噌汁、トンカツを追加。
その後もご飯と味噌汁をおかわりしたところで、
兄が申し訳なさそうに、
「ありちゃん、ごめんね。準備してた分がもう無くなっちゃった」
と告げた。
ありさは顔を真っ赤にして、
「ごめんなさい……」
と小さく呟く。
陽子はそんなありさのお腹を撫でながら、
「スゲー」
と感心していた。
食後、ありさと陽子は一緒にお風呂へ。
兄はその間に母屋へ向かい、仏壇へ手を合わせる。
離れへ戻ると、二人もちょうど入浴を終えていた。
陽子はいつも通り元気そうだが、
ありさは明らかに食べ過ぎたらしく、少し苦しそうだ。
兄は二人へ、
「次は俺がお風呂入るねー」
と声を掛けて浴室へ向かった。
入浴後。
兄は客間をノックして中へ入る。
まず陽子を見て、
「陽子ちゃん、そのパジャマ。昨日までと雰囲気が違って、とっても可愛いね」
と感想を伝えた。
陽子は嬉しそうに、
「でしょー。いつもジャージだから何か新鮮なんだよねー」
と笑う。
兄は今度はありさへ視線を向ける。
「ありちゃん、かなり苦しそうだけど大丈夫?」
その様子を見て、私はまきの鼻パスタ事件を思い出した。
でも今日のありさは、本当に食べ過ぎていた。
というか、
まきも、
ありさも、
陽子も、
みんな細身なのに食べる量がおかしい。
私は兄へ尋ねる。
「ねぇ、あっくん。
まきだけなら偶然かなって思うんだけど、ありさも陽子もじゃん。
何か理由があったりするの?」
兄は少し考えた後、
「ちゃんとご飯を食べられているうちは大丈夫だよ。
食べた分だけ体重は増えちゃうし、しばらくは食べる量も増えるかもしれないから、ダイエット中だと少し嫌かもだけどね」
とだけ答えた。
そういえば、
じいちゃんもだけど、
兄もあまり食べていない気がする。
私はさらに聞こうとして、
「ねぇ……」
と口を開いた。
だが兄は、
「そのうち分かるから」
とだけ返し、その話題を打ち切った。
ありさは苦笑しながら、
「普段はここまで食べないんだけどなー。
今日は朝から色々あってイライラもしたからかもね」
と説明する。
すると兄が、ふと思い出したように陽子へ尋ねた。
「そういえば、パンツがペラッペラって言ってたけど、普段とは履き心地が違ったりするの?」
陽子も真面目に考え込み、
「履く前はどうかなーって思ってたんだけど、
実際に履いてみると、これはこれでアリかもって思えてきてる。
こういう系のパンツにも、ちょいちょい手を出してみようかなーって感じ?」
と答える。
その瞬間、
ありさが勢いよく立ち上がった。
「あっくんも陽子ちゃんも!
聞く方も聞く方だけど、答える方も答える方だよ!」
そう叫びながら二人を睨む。
特に兄を。
兄は何が悪かったのか分からない顔をしていた。
そして最後に、
「今日は朝から色々あったし、明日も早いからね。
そろそろ休もうか。
おやすみなさい」
と二人へ告げ、自室へ戻っていった。
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