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119.兄が見ている世界 —自動車学校18—

ありさ、陽子、兄がバスに乗り込もうとした際、強い風が吹いた。

「キャッ!」

突然、ありさが小さな悲鳴を上げる。


兄が振り返る。

「大丈夫?」


「う、うん。髪が顔に当たっただけ。」

ありさは苦笑いを浮かべた。


そのまま三人がバスへ乗り込む。


すると直後――


「ギャーーー!」

「痛っ!」

遠くの方から複数人の女性の悲鳴が聞こえてきた。


ありさと陽子は顔を見合わせる。

「あれ?」

「何があったのかな?」


兄は窓の外で揺れる木々を見ながら、

「ああ、傷薬の効果が切れたのかもね。」

と呟いた。


ありさが、

「あっくん、どういうい……ひぃ……」

と言いかけて言葉を失う。


そこには、今まで見たことがないほど不気味な笑みを浮かべる兄の姿があったからだ。


だが次の瞬間には、いつもの優しい笑顔に戻っている。

「ありちゃん、どうしたの?」


ありさは戸惑いながらも尋ねる。

「傷薬の効果が切れたって言ってたから、どういう意味かなって……」


兄は少し考えてから答えた。

「仲の良い三人組が持ってる薬があってね。そのうちの一人が持ってる薬だよ。」

それ以上は語らない。


ありさは、本能的にこれ以上聞かない方がいい気がして話題を変えた。


バスが自動車学校へ到着する。


すると、今までの態度が嘘だったかのように女子軍団が陽子へ近寄ってきた。

「よーうちゃん! スタンプ順調に集めてる?」


「ようちゃん、今までごめんねー。うちら逆らえなくてさー。」


陽子へ謝罪までしている。


ありさは、その変化についていけず困惑していた。


兄も首を傾げる。

「魔法が解けるのは一瞬っていうけど……。」


その様子を見ていた兄は、ありさの手を取りながら微笑んだ。

「陽子ちゃんは、もう大丈夫だと思うよ。ありちゃんも、気が向いた時に連絡してあげるくらいで十分じゃないかな。」


ありさも頷く。

「うん。今の様子を見てると、本当にそう見える。」


兄は満足そうに笑う。

「よし! さっさと卒検に向けて頑張ろー!」


そう言って、ありさの手を引きながら自動車学校へ入っていった。


担当教官へ挨拶すると、

「二人とも来週中には卒検だ。そのつもりで学科も終わらせておけよ。」

と告げられる。


ありさは少し寂しそうな顔をした。

「私の楽しい自動車学校ライフも、もう終わりかー。」


兄も苦笑する。

「俺もありちゃんと過ごせて楽しいけど、自動車学校に通う人が増えてきて、空き時間が増えてるのは正直キツいよ。」


そう言いながら今日のスケジュールを確認し、露骨に嫌そうな顔になる。

「今日とか十時と十七時の枠だけって、どういうこと……?」


ありさも自分の予定表を見て肩を落とす。

「私も九時と十六時だけ……。」


兄は深いため息をついた。

「ありちゃんはいいじゃん。楽しい自動車学校ライフを満喫できるんだから。」


ありさは頬を膨らませる。

「あっくん、それ嫌味って言うんだよ!」


兄は両手でありさの頬を挟み、ぷしゅっと空気を抜いた。


「ありちゃんは社交的だから、すぐ友達できるじゃん。空き時間になったら俺は適当に出歩いてくるよ。」


そして少し真面目な顔になった。


「もし急に枠が空いたら連絡してね。」


ありさは、

「私も……」

と言いかける。


すると兄は、ありさの耳元へ顔を近付けた。


「やっぱ今日1日は。陽子ちゃんのこと、少し気にかけてて欲しいな。お願い。」


ありさは素直に頷いた。

「うん。任せて。」

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