115.兄が見ている世界 —自動車学校⑭—
兄は、お母さんへ今日から二人泊まることになったありさと陽子を紹介し、その後、夕方のお務めへ向かった。
その間、三人は食事を取ることになるのだが、急な来客にもかかわらず、まるで事前に連絡があったかのように食事が用意されていた。
ありさは少し不思議そうな顔をしていたが、陽子は特に気にすることなく食事を始める。
今日の献立は、ご飯、味噌汁、ぶりの照り焼き、おひたしだった。
ありさと陽子は味が気に入ったようで、二人とも三杯ずつおかわりをした。
食後、二人は満腹そうな顔をしながら、どちらが先にお風呂へ入るか相談している。
その間に兄は母屋へ向かい、仏壇へ手を合わせた。
結局、二人は仲良く一緒にお風呂へ入ることになったようで、浴室からは楽しそうな声が聞こえてくる。
特に陽子は、ありさに興味津々な様子だった。
二人が入浴を終えた後、兄も風呂へ入り、客間をノックして中へ入った。
ありさは普段通りだったが、陽子は化粧を落としているためか、昼間よりも大人しい印象を受ける。
陽子は少し恥ずかしそうにしていたが、
『化粧している時も素敵だけど、俺は今の陽子ちゃんも可愛いと思うよ。』
と兄が自然に言うと、
『よかった……』
と照れたように笑った。
その後、三人は明日の予定について話し合う。
朝食は六時半。
七時には家を出発する予定だ。
ありさは当然という顔をしていたが、家と学校が近い陽子は、
『早くない!?』
という反応を見せた。
それでも納得したようで、
『頑張って起きます。』
と答えた。
しばらく雑談をした後、兄は自室へ戻ろうとする。
すると陽子が、
『少しだけ、あっくんの部屋で話してもいい?』
と尋ねた。
兄が、
『いいよ。』
と答えると、ありさがすぐに反応する。
『流石に年頃の男女が二人きりで同じ部屋は良くないなー。』
と言い始めた。
兄は困ったように笑い、
『じゃあ、この部屋で三人で話そうか。』
と提案する。
陽子は少し不服そうだったが、
『分かりました。』
と頷いた。
そして兄が眠くなるまで三人で会話を続けた。
その後、兄は自室へ戻り眠りにつく。
どれくらい時間が経っただろうか。
兄は体を揺さぶられ、目を覚ました。
目を開けると、そこには陽子がいた。
『起こしてごめんなさい。』
陽子は少し申し訳なさそうに言う。
『どうしても、お礼が言いたかったんです。
私、ずっと夢だったんですよ。
同級生同士でお泊まりして、夜中までおしゃべりしたりするの。
修学旅行でも出来たんですけど、私の立場だと、そういう輪の中に入れなかったから……。』
そう言いながら、陽子は少しだけ笑った。
『今日、すごく楽しかったです。
だから、ありがとうって言いたくて。』
兄は返事をしようとしたが、睡魔には勝てなかった。
陽子の声を聞きながら、そのまま眠りに落ちていった。
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