114.兄が見ている世界 —自動車学校⑬—
兄の発言にありさは驚愕し、陽子は、
「え? いいの?」
という顔をしている。
兄は静かに説明した。
『自分が何の目的で動いていて、その結果がどう繋がるのかすら理解していない集団なんて、怖いし気持ちが悪い。』
そして、
『そんな集団に陽子ちゃんが狙われたら、何をされるか分からないからね。』
と続けた。
ありさは少し考えた後、
『私は、だいぶ打撃を与えてると思うから、少しはマシになると思うんだけどなー。』
と首を傾げる。
すると陽子は兄の腕にしがみ付きながら、
『私は怖いから、あっくんと一緒に居られたら安心だけどな。』
と本音を漏らした。
ありさは陽子を軽く睨む。
だが陽子は、すっと視線を逸らして兄を見た。
兄は気にした様子もなく、
『もちろん、陽子ちゃん次第だけど、二日くらいうちに泊まってもらって様子を見ようと思うんだけど、どうかな?』
と確認するように尋ねた。
陽子は嬉しそうに、
『うん! 今から準備してくる!』
と元気よく答え、そのまま家の中へ駆け込んで行った。
ありさはジト目で兄を見る。
『あのさー、あっくん!
年頃の男女が同じ家で生活するのは、私は良くないと思うなー!
しかも、まだ出会って数日じゃん!
良くないなー。良くないと思うな!』
わたしは、
「ありさ、めんどくさくなったなー」
と思った。
だが、言っていること自体は一理ある。
兄は困ったように笑う。
『でも、放っておけないじゃん。
男女二人がダメなら、ありちゃんもうちに泊まる?』
ありさの表情が一気に明るくなった。
『仕方ないなー!
陽子ちゃんの為だしー!』
と上機嫌で答える。
わたしは、絶対違うと思った。
しばらくすると、陽子が荷物をまとめて戻って来た。
『準備してきました!
親の了承も貰いました!』
と胸を張って報告する。
兄は頷いた。
『うん。
ありちゃんも一緒に泊まるみたいだから安心してね。』
その瞬間――
『え?』
陽子の笑顔が消えた。
そして、ありさを睨む。
ありさは全く気にせず、
『私も一緒だから安心してね。』
と得意げに告げた。
兄は二人のやり取りを完全に無視し、タクシーを呼ぶ。
『二人とも乗ろうよ。』
ありさは上機嫌のまま、
『楽しいお泊まりになればいいね。』
と弾んだ声で話した。
陽子は視線を逸らしながら、
『そうですね……。』
と力なく答えた。
ありさの家の前で三人はタクシーを降りる。
ありさは準備のため家へ入った。
しばらくすると、荷物を持ったありさが、両親の了承を得て戻って来る。
三人は歩いて兄の家へ向かった。
家に到着すると、兄から注意事項と、朝夕は一時的に不在になることを説明される。
二人とも納得した様子だった。
兄が、
『二人は客間で休むので大丈夫かな?』
と聞く。
二人は一瞬だけ顔を見合わせた。
そして、
『はーい!』
と若干ヤケクソな声で、揃えて返事をした。
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