110.兄が見ている世界 —自動車学校⑨—
ありさと陽子と兄の三人は、帰宅するためバスを待っていた。
すると陽子と同じ学校の生徒がやって来て、
『陽子。他校のやつとばっかりつるんでないで、うちらと帰るよー!』
と声を掛けた。
陽子は兄の後ろへ隠れる。
兄はやれやれという顔をすると、
『ごめんね。今日は一緒に帰る約束してたんだー』
と笑顔で返した。
相手は舌打ちすると、そのまま帰って行った。
兄は陽子へ視線を向ける。
『バスが来るまでまだ少し時間があるから、何か事情を話して欲しいな。
陽子ちゃんのこと、俺に教えてくれるんでしょ?』
優しく促すような口調だった。
ありさも陽子の手を握り、
『私達で出来ることは協力するから!』
と力強く頷いた。
陽子は観念したような顔になる。
『私の通ってる高校って、ほとんど女子なんだけど、グループの中で目立った行動をしたり、逆に出遅れたりすると、物を盗られたり壊されたりすることもあるの。
その中でも私が一番辛かったのは、無視されることだったんだ〜。』
兄とありさは黙って話を聞く。
『私は無視されるのが本当に辛くて、普段から自分が出来る最大限の明るさで人と接してきたんだけど、それって結構きつくて、それでも頑張ってたんだけど…
そんな中で段々ターゲットが私になっていって、最初は何とか受け流してたんだけど、徐々に悪口も酷くなってきたの。
もう耐えられないって思った時に、グループを仕切ってる子が、
“私達の言うことをちゃんと聞けるなら仲間に入れてあげてもいいよ”
って言ってきたの。』
陽子は俯いた。
『他の子の物を隠したり、SNSで悪口を書いたりするよう言われたんだけど、私には出来なかった。
それで今日、正式にグループから追放されたの。』
ありさは首を傾げる。
『じゃあ何で、私達といた時に絡んできたの?』
その疑問を口にした。
陽子は小さく肩を震わせながら答える。
『独りぼっちにした相手が、他校の生徒とはいえ楽しそうにしてるのが気に食わなかったんだと思う。
多分だけど、私と切り離すために何か嫌がらせをしてくるかもしれない。』
兄は陽子の肩を抱き寄せ、頭を撫でた。
『俺は大丈夫だから、俺と一緒に居ようか?』
陽子は不安そうに兄を見上げる。
『いいの?』
兄は笑みを浮かべた。
『勿論いいよ!
俺がその気になれば、そいつら事故で物理的に消せるし。』
わたしは、その言葉を聞いてゾッとした。
これ冗談っぽく言ってるけどマジだ。
兄を本気で怒らせたら、本当にやりかねない。
ありさじゃ心許ない。
まり姉が必要だ。
早く合格もらって自動車学校に来てよ。
最悪、自動車学校が火の海になるって!
陽子は思わず吹き出した。
『何それ。別にカッコよくないけど』
そして、
『話せてスッキリしたー』
と綺麗な笑顔を見せた。
バスに乗って帰る時、陽子は兄にべったりくっ付き、安心した笑顔で兄を見ている。
一方のありさは、少し頬を膨らませていた。
兄は苦笑しながら言う。
『自動車学校も高校も卒業しちゃえば、もう会うことはないんだから、なるべく早く自動車学校を終わらせた方がいいかもね。
ありちゃんも俺も仮免は取ったし、後は卒検を目指すだけだから。
卒検が終わったら、もうここへ通うこともないしね』
陽子はハッとした顔になる。
『少しでも早く終わらせられるようにする。』
そう言って真剣に頷いた。
兄は陽子の頭を撫でる。
『あと一ヶ月もしないうちに自動車学校も繁忙期になるから、陽子ちゃんに構ってられない状況になりそうだし、安心していいと思うよ』
その後、陽子は途中の停留所で降りて帰宅した。
ありさと兄の二人になる。
兄はありさへ視線を向け、
『女の子同士のイジメ、こわー』
と呟いた。
ありさは慌てて否定する。
『私、そんなことしてません!』
そう言った後、
『でも……もし私が同じ境遇だったら、言われた通りのことをしちゃうのかな?』
と弱々しく漏らした。
兄は即座に首を横へ振る。
『ないよ。
ありちゃんには、まりちゃんも俺も居るし。』
ありさは少し口を尖らせ、
『俺が守るから大丈夫って言って欲しかったなー』
と漏らした。
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