108.兄が見ている世界 —自動車学校⑦—
陽子は、
『他に聞くことあるだろ! どこに住んでるのかとか、好きな食べ物とか、好きなインフルエンサーとか、今ハマってることとか、色々あるだろ!』
と言った。
兄は一瞬ポカンとした後、ハッと閃いた顔をして、
『じゃあ、それ教えて!』
と言う。
そう言われた陽子は、
『ふざけるな!』
と怒った。
兄はすっと立ち上がり、陽子の耳元で、
『ごめんね。サクッと仮免合格取ってくるから、戻って来たら陽子ちゃんのことを教えて欲しいな』
と言った。
そして兄は、ありさと共に試験会場へ向かった。
陽子は、その背中を見送りながら、
『バカ……』
とボソッと呟いた。
難なく仮免試験に合格したありさと兄は、次の教習へ進む。
まずは原付バイクに乗り、自動車学校内のコースを走った。
その途中、兄はコース脇で一人佇む陽子の姿を見かけた。
原付教習が終わると、次は高速道路を想定したシミュレーター教習だった。
ありさは後ろから煽られ、焦ってハンドル操作を誤り事故を起こしてしまう。
兄も同様に煽られたが、落ち着いて道を譲った。
しかしその後、前方の車が急停車し、運転手が車から降りてくる。
兄は考え事をしていたせいか、停車した車は回避できたものの、突然降りてきた運転手までは避けきれず接触してしまった。
教官は苦笑いしながら、
『二人とも、シミュレーションだからって気を抜いてたのかな?
あと、大坂君。シミュレーションとはいえ、相手に気付いてからもブレーキを踏まなかったし、アクセルも戻さなかったよね?
二人とも、実際に免許を取って高速道路を走る時は十分注意するように!』
と言った。
そして、
『その後は応急処置の練習だ』
と言われ、人工呼吸の練習やAEDの使い方、医療用三角巾の基本的な扱い方を学んだ。
教習が終わった後。
兄は陽子のところへ向かった。
『陽子ちゃん、順調にスタンプ獲得出来てるかな?』
兄がそう話しかけると、
『あっくん、既に実技の時間以外はなるべく学科に当ててるよ〜』
と陽子は答えた。
『陽子ちゃんは、今の時間は空き時間かな?』
兄が聞くと、
『うん』
と陽子は答える。
兄は陽子の手を軽く引くと、自分の膝へ頭を乗せ、そのまま優しく撫でた。
『陽子ちゃん、よくサボらず進められました。ヨシヨシ』
『ウザい……』
陽子はそう言った。
だが、兄から離れようとはしない。
むしろそのまま兄の太ももに頭を預け、静かに目を閉じた。
兄は撫でながら、
『今日から路上での練習なんだけど、一緒に乗らない? ありちゃんも居るけど』
と聞く。
すると陽子は、
『一緒に行く』
と素直に答えた。
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