107.兄が見ている世界 —自動車学校⑥—
ありさと兄はぐったりしていたが、仮免の試験を受ける列に並び、受付を済ませていく。
しばらくすると当日のコースが共有され、それを見に行く人達も多かったが、ありさと兄は練習で何度も走ったことがある。さらに隣には試験官もいるため、コース確認よりも疲れを取ることを優先した。
ふと兄がありさの顔を見て軽く笑うと、ありさの頭を自分の太ももに乗せ、頭を撫でながら、
『ありちゃん、自動車学校に来てから、かなりスケジュールきつめだったけど、実技も学科もよーく頑張ったね。今日の仮免試験、一緒に頑張ろうね。
あと30分くらいで始まるから、それまで目を閉じてゆっくりしてて』
と優しい声で言った。
ありさは、初めこそ体を硬直させていたが、今はすっかりリラックスして目を閉じている。
わたしは、陽子の特訓も役に立ったじゃんと思ったが、兄は既に心を許した相手には平気でこういうことをしていたのを思い出した。
陽キャが陰キャの兄を引っ張り出しても碌なことにならないのに、陰キャの兄が陽キャに向かって黙って大人しくしてろなんて言わないんだからさー、陽キャも放置してりゃいいのにー。
互いのパーソナルスペースをしっかり守ればトラブルにならないんだから、とわたしは思う。
二人が時間までくつろいでいると、
『出来てんじゃん!』
と声が聞こえてきた。
ありさと兄が目を開けて見ると、陽子が二人を見ていた。
『あっくん、私を褒めるより、ありありに対しての方がずっと優しくて上手だしー』
兄は軽くため息をつき、
『俺はね、褒めるためには相手のことを理解する必要があるの。ありちゃんは小学生の頃からの仲だからね』
と言う。
すると陽子は、
『二人って付き合ってんの?』
と聞いた。
『違うよ!』
二人はほぼ同時に否定した。
陽子は笑うと、
『付き合ってなくても、これだけ出来るんだったら、私にもしてよ』
と言いながら、兄の太ももに頭を乗せた。
兄はやれやれという顔をして、
『だから、俺は相手のことを理解出来ないと――』
と同じ説明をしようとする。
すると陽子が、
『じゃあ、してよ! 私のことを理解してよ!』
と少し真面目な顔で言った。
兄は少し驚いた表情を見せる。
一方の陽子は、残念そうな、どこか悲しそうな顔をして、
『はぁ、じゃあいいや。私は戻るね』
と起き上がろうとした。
兄はふとした違和感を覚え、咄嗟に呼び止める。
『陽子さん、待って。俺に陽子さんのこと教えてよ』
陽子はゆっくり起き上がると、
『あっくんは、私の何が知りたいのかな?』
とニィーっと笑いかけた。
兄は少し考えてから、
『得意教科と数年分の各教科の成績、それと取得してる資格あたりから探れると思うから教えてよ!
そこから分かる範囲で知ってみるよ』
と答えた。
わたしも、学生の本分は勉強だと思う。
どの教科にどれだけ打ち込んだのかは、成績という数値である程度分かる。
効率的だと感じた。
しかし、
『そーじゃねーだろ!』
陽子は兄にキレた。
兄は、陽子の反応にポカンとしていた。
ありさはそんな二人を見て頭を抱えながら、
『あっくん……そこじゃないから……』
と、言った。
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