106.兄が見ている世界 —自動車学校⑤—
ありさが、
『いきなり何!?』
と驚く。
陽子は、
『いや、だってマジでデカいし。触らせて』
と言うと、ありさの後ろへ回り込み、そのまましっかりと抱きつくように胸元へ手を伸ばした。
ありさは、
『え? え? 何? ちょっとー!』
と慌てた後、兄を見る。
『ねー、あっくん。この子誰?』
兄は苦笑しながら、
『今日、この自動車学校に入ってきた他校の生徒で、陽子さんっていうみたい。
ありちゃんと相性良さそうで良かったよ。
ほら、バス来たから先に乗るね。』
そう言うと、兄は二人を置いてさっさとバスへ乗り込んだ。
すると、
ありさ
『置いていかないで!』
陽子
『置いてくなよ!』
二人が同時に叫びながら後を追う。
兄は席に座るなり、深いため息をついた。
わたしは思わず、
『お前、絶対面倒だからありさに丸投げしただろ!』
とツッコむ。
兄は平然と、
『そうだけど。
確実に俺の苦手なタイプだと思ったし。』
と答えた。
わたしは、こいつはダメだ。
と思った。
ありさは学科、実技、そして陽子の相手までこなし、すでにぐったりしている。
だが陽子は、ありさとじゃれ合えて満足そうだった。
陽子は、
『工業高校で、この可愛さとこのスタイルならモテるっしょ!?』
と尋ねる。
ありさは苦笑しながら、
『そんなことないよー。』
と答えた。
二人はすっかり打ち解けている。
やがて陽子の降りるバス停に到着した。
陽子は、
『ありあり、じゃーねー。
あっくんも、また明日〜』
と手を振りながら降りていった。
兄はすぐにありさの手を握り、
『さすが、ありちゃん。
ありがとう。本当に助かったよ。』
と礼を言う。
ありさは頬を膨らませた。
『あっくん、陽子ちゃんを私に押し付けたでしょ!』
そして少し考えた後、
『私的には苦手なタイプじゃないから別にいいけど、悪い子ではなさそうだったよ。』
と付け加えた。
兄は、
『へぇ、そうなんだ。』
と、あまり興味のなさそうな返事をする。
そしてすぐに、
『明日の仮免試験、頑張ろうね。』
と話題を変えた。
ありさは、
『うん!』
と元気よく頷いた。
翌朝。
ありさと兄がバスで自動車学校へ向かっていると、途中の停留所から陽子が乗ってきた。
『おはよー、あっくん、ありあり!』
そう言って、なぜか兄の隣へ座る。
兄は、なんでありさの隣じゃないの?
という顔をしていた。
陽子は兄へ向き直る。
『ねぇ、あっくん。
私のこと避けてるっしょ?
何かした?』
兄は営業スマイル全開で、
『工業高校だから、あんまり女の子に慣れてないだけだよ。
だから気にしないで、そっとしておいてほしいかな。』
と答えた。
陽子はニヤリと笑う。
『ありありみたいな可愛い子にも手を出さないんだ〜。
仕方ないなー。
私が一肌脱いで、手取り足取り教えてあげるよー。』
そう言うと、兄の肩へ頭を預けて目を閉じる。
さらに兄の手を取り、自分の頭の上へ乗せた。
『何でもいいから褒めて。』
と無茶振りをする。
兄は軽くため息をついた。
『専門学校の内定を早く取れたんだね。
よく頑張ったね。』
陽子は即答する。
『違う! やり直し!』
兄は少し考え、
『髪がサラサラで綺麗だね。
ヘアゴムも可愛いし、細かいところまで気を配っていて素敵だと思うよ。』
と言った。
陽子は真顔で、
『30点。』
と評価した。
結局、バスが到着するまでそのやり取りは続いた。
ありさは終始落ち着かない様子で二人を見ており、
自動車学校へ到着する頃には、
ありさも兄も、仮免試験前だというのに、すでにぐったりしていた。
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