102.兄が見ている世界 —自動車学校①—
ありさは戸惑ったように、
『私は、ここまでハイペースじゃない方がいいかなー? まりちゃんが合格して加わった時に、一人になっちゃうし……』
と口にした。
兄はありさへ、
『そうだね。まりちゃんのことを考えたら、それもありだと思うよ。
俺は、これからしばらくすると他の学校からも来るようになるから、それまでに自動車学校を終わらせたいと思ってるんだ。』
と答える。
そして教官へ向き直り、
『荒木さんを教える枠以外は、全部俺にください。早速今日からお願いします。』
と伝えた。
教官は、
『おう、わかった。助手席は俺だが、彼女を後ろに乗せて次の時間の枠から練習しようか!』
と笑う。
ありさは、
『彼女……』
と呟き、感動したような表情になった。
兄は苦笑しながら、
『俺の彼女だなんて、ありちゃんが可哀想ですよ。』
と返す。
教官はさらに笑い、
『時間になったらシミュレーションルームへ二人とも来るように。』
と案内した。
ありさと兄は、言われた通りシミュレーションルームへ向かう。
兄は若干不貞腐れていた。
早速運転できるのかと思ったら、待っていたのは寂れた旅館にありそうな車のゲームのような機械だったからだ。
教官はそんな様子を見て、
『何も知らない状態で、いきなり運転ってわけにはいかないからなー。』
と笑う。
兄は、
『アクセルベタ踏みしても進まない……。』
とぼやいた。
一方ありさは、教官の説明一つ一つに頷きながら、丁寧にシミュレーションを進めていた。
終了後、教官が、
『よし、次からは実際の車だ。14番車だからな。』
と告げ、二人のスタンプカードへスタンプを押す。
兄はありさを連れて、14番車の前で待った。
教官がやって来ると、
『じゃあ、乗ってみようか。』
と促した。
兄はまず車の周囲と下を確認し、それから運転席へ乗り込む。
教官は頷きながら、
『エンジンかけてみよう。』
と言った。
兄はルームミラーとサイドミラーを調整し、クラッチとブレーキを踏みながらエンジンを始動する。
『じゃあ、ゆっくり進んでみようか。』
との指示に従い、
兄は周囲を確認してからギアを一速へ入れ、サイドブレーキを解除した。
右足をブレーキからアクセルへ移し、左足でクラッチを調整しながら車を動かしていく。
教官は、
『クラッチはそのままでいいから、アクセルをもう少し踏み込んでみようか。』
とアドバイスする。
兄はその指示通りに操作した。
ありさは、
『動いた……!』
と感動している。
わたしは、
毎日バスに乗ってるだろうが!
と思いながらも、自分が初めて運転したり、初めて運転する人の隣にいたら、きっと同じような気持ちになるのかもしれないと思った。
しばらくして、教官が尋ねる。
『今日は20時まで自動車学校は開いてるけど、何時までやるんだ?』
兄は、
『18時のバスで帰ろうと思っています。明日は8時のバスで来る予定です。』
と答えた。
教官はありさへ視線を向け、
『荒木さんも同じかな?』
と確認する。
ありさは元気よく、
『はい!』
と返事をした。
教官は頷き、
『もう少ししたら忙しくなるが、今は閑散期だからな。時間は、荒木さんと大坂君に合わせるから、遠慮なく言ってくれ。』
と話す。
さらに、
『あと二時間は大坂君でいいのか? 荒木さんはどうする?』
と尋ねた。
ありさは少し考えた後、
『次の時間は私で、その次はあっくんでお願いします。』
と答えた。
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