育成編Ⅳ 新しい必殺技と数年ぶりの号泣
育成編最終回です。
「しっかしどうすっか…」
第二ラウンドだ!とか意気揚々といったものの、正直手がない。
今のところ、プルファと大蜘蛛は対峙こそしているが両者ともに隙がなく、攻めるに攻められないと言った様子だ。
しかし、某乱闘ゲームで一時期、亀とゴリラと魔王がメインだった今を相手にしてきた俺だから分かる。
あぁいう重量級に対してバ難で挑むと、グダったら高確率で負ける。
チクチク攻撃して60%くらいリードがあっても横スマ一発で70%位からバーストするし、そもそも軽量級は決め手に欠けるからどっかで勢いつけないとジリ貧になって負ける。
要は、さっさと決めないとこっちが不利だ。
「キュアァ!!」
硬直状態の中、先制を仕掛けたのはプルファだった。
まずプルファは再び風刃を放ち、足の関節に浴びせた。
しかし今度は大蜘蛛は上に跳び上がってそれをかわし、そこからすかさず毒を放つ。
対するプルファも持ち前の瞬発力で前進してかわし、大蜘蛛の腹に風刃を食らわせたが、それは空中で体をよじることで急所を外された。
なんというガチバトル。
隊に入ってそれなりに経ったが、俺はかつてこんな拮抗した戦いを見たことがあっただろうか。
引き続き大蜘蛛は近距離と遠距離を使い分け、とても対応しづらい戦り方をしているが、プルファもその高い機動力と学習能力で見事にかわしている。
ポップコーンとかホットドッグ欲しいなー。
「キュイッ、キュイィィッ!」
フリーで戦っていたプルファが指示を仰ぐように鳴いた。
っと、呑気に感染してる場合じゃない。
ついオタクの本能で熱い異能バトルを熱中して見てしまった。
「えっと、とりあえず引き続き傷口に攻撃!隙がなくてもできるだけ攻撃を当て続けろ!」
「キュイ?!」
はぁ?!とでも言うようにプルファが鳴いた。
分かってる。
このまま一撃も食らわずに風刃を当て続ければ勝てるだろうが、おそらく相当な時間がかかる。
時間がかかるとその分リスクも増えるし、第一仕留め切るまでノーダメでいるってのも結構な無理ゲーだ。
「キュゥゥッアァァァァ!」
プルファが風刃で弾幕のような攻撃をしかけた。
大蜘蛛は糸も活用した立体機動で回避しようとしたが、それでも弾幕は厚く、何発かは食らったようだ。
…あ。
思いついた。
一撃では決め手にかける技でも、これなら必殺技になり得るかもしれない。
でも…いけるか?
極めれば呪いの王の技にもなり得る技だぞ?
「…まぁいいや。消耗は激しそうだけど、試してみる価値はあるだろ。プルファ!なるべく近づいて風刃で飽和攻撃!」
「キュイィッ!」
大蜘蛛も大蜘蛛で、糸、毒、近接で弾幕を張っているが、プルファはそれらを機敏にかわし、懐に潜り込んだ。
「そこだァッ!」
「キュゥゥアァァァッキュゥゥゥゥ!!」
プルファは大蜘蛛の真下から、全方位に風刃を放った。
「ギジャァァァァ!!!!」
某呪術の漫画に登場する最強の呪いの技に、一定範囲内に斬撃を飛ばし続ける技がある。
思いつきのパクリ技だし、数も威力も範囲も持続時間もそれには遠く及ばないが、今目の前に広がる光景には、それに通ずるものがある。
真凜に色々言われそうだが、版権回避の為にあえて名付けるなら…
「刻死房」
とても聞き覚えのある語呂だが、かなりしっくりきたのでふと呟いた。
「キュアァァァッッッ!!」
俺が叫ぶと同時に、プルファの攻撃は更に威力を増した。
その、殺意マシマシの竜巻みたいなのはやがて大蜘蛛の血に染まり、紫っぽいようなキッショい色に染まっていった。
「ギジャァァァァ……」
技の終わりと同時に大蜘蛛は地面に落ち、グジュァッという、重いような水っぽいような音とともに倒れた。
直後にザァッと血の雨が降り、大蜘蛛の下にはとても毒々しい色の血溜まりができた。
大蜘蛛はというと、全身についた切り傷からは血が吹き出し、過半数の脚は千切れ、目は5つ潰れ、腹の付け根は今にもとれそうだ。
そんな状況でもかろうじて息はあるようで、残った脚でピクピクしながらも立ちあがろうとしている。
しかし、これなら確実に致命傷だ。
「キュウゥッ…」
「プルファッ!」
プルファが精魂尽き果てた様子でその場に倒れた。
そりゃあ、この小さい体で1時間半くらい戦い続けたんだ。
エネルギー切れになるのもしょうがないだろう。
「プルファ、よく頑張ったな。ゆっくり休んでくれ」
「キュイッ…」
プルファが弱々しく応えた。
なんだろうこのガチバトルを終えたにふさわしい空気感。
自分で戦った訳でもないのに達成感がすごい。
今度 今に自慢しよう。
「ギ…ギ、ジ……」
その大蜘蛛の鳴き声にハッと振り返ると、大蜘蛛が瀕死になりながらもまた毒を出そうと口を開いていた。
「は⁈まだ動くのか⁈」
いや、さっきから見た限りではこいつに自己再生能力は無いし、どう考えてもこのダメージは致命傷だ。
最後の悪足掻きかよクソ迷惑な!
「させるか!超過速…」
「極電磁大砲ッッ‼︎」
毒を出す前に仕留め切ろうと俺が詠唱をしていると、それよりも早く真凛がトドメを刺した。
今まで何もしていなかった穀潰しによる攻撃は大蜘蛛の頭を消し飛ばし、大蜘蛛は当然息絶えて倒れた。
「危ないところだったわね!しっかり働いたんだし、もうクソニートとは言わせないわよ!」
もうすっかり復活したらしく、軽やかに天床から飛び降りたクズニートは、どういう神経をしているのか自信満々に腰に手を当てた。
「危ないところだったわねじゃねぇよクズが!何をちゃっかりいいとこ取りしてんだよ!今まで一応2人で戦ってたんだからどう考えてもここは俺がどうにかするところだろ!お前がトドメ刺してどう住んだこのクソKYが!」
「何よ!激戦直後の初心者たちのピンチには強者が圧倒的実力を見せて『これが○○の実力。俺たちもいつか…!』みたいな感じで背中を押すのは定番でしょう⁈あんた分かってないわねー」
「何アホなこと言ってんだ!それが定番ってのはわかるが、言ってることとやってることが違いすぎんだろ!どこの世界に『しっかり働いたんだし、もうクソニートとは言わせないわよ!』とか開口一番に言う奴目標にする変質者がいるんだよ!」
「ッ〜〜〜〜‼︎…っていうかあなたねぇ、さっきの技の名前頭おかしいんじゃないの⁈それ別の漫画のやつだし、キャラの名前であって技名ではないんですけど⁈」
こいつ、何も反論できなくなったからって露骨の話題逸らしやがった!
「お前、反論できなくなったなら潔く謝ったらどうだ⁈あと、技名は漢字が違うから良いんだよ!」
「声だけでわかる訳ないじゃない‼︎バカなの?あなた私のことバカバカ言ってるけど、あなたも大概でしょ!聞いてるだけじゃ名前なんて全く同じなんだから、完全にアウトよ!」
「ッ〜〜〜〜‼︎…まぁ良いだろそんなのは!ほら、もう討伐も終わったし、さっさと帰るぞ!」
「あなた、何も反論できなくなったなら潔く謝ったらどうなのよ!」
「俺のセリフパクるんじゃねぇよ!パクるのはアニメのだけにしとけ!…あれ?そういや俺のほうきは?」
うやむやにしてとっとと帰ろうと、さっき使ったほうきを拾おうとしたのだが、近くにそれは落ちていなかった。
そういえば大蜘蛛が真凛を引きずり下ろした後からほうきを見ていない気がする。
「あぁ、それならここにあるわよ?」
真凛が格納術式から棒を取り出した。
…そう、棒だ。
俺のほうきは大蜘蛛が真凛を引きずり下ろした時に折れていたようで、そこにはもはや棒になっている残骸しか残っていなかった。
「ほうき…俺のほうきが…」
「何?なんか大事なものだったの?元勇者パーティの生臭坊主である育ての親に貰ったとか?」
「…いや、自費で買ったやつだ。…知り合いにオーダーメイドで頼んだやつで、27万4千円したやつ…」
「えらく細かいわね。でもバッキバキになってるわよ?」
「ワアァァァァァァ!!!!!!!!!」
俺は、もはや残骸と化したほうきの前に倒れ込み、地面を叩きながら泣いた。
畜生!これ買うために俺はプライドも捨ててバイトしたんだぞ!
「あははあはは!!あなたそんな風に泣けたのね!!人の情なんてどっかに置いてきてたのかと思ってたわ!!」
こいつ、人の不幸をなんだと思ってやがる!!
大体これ壊れた原因お前にもあるんだぞ!!
「あははははははは!!!」
そんな、俺の心の叫びも届かず、真凛は引き続き大爆笑している。
あーもうだめだ。
半年ぐらい何する気も起こらない気が…
「はー笑った!でも多分それ直せるわよ?」
…は?
「ズビっ…へ?マジ?直んの?」
「多分ね。うちの開発班の黒なら多分ぱぱーっといけると思うわ」
クロ?なんだその犬みたいな名前。
「…言ったな?もし直らなかったら半額は弁償してもらうからな」
「はぁ?なんで私が…」
「束ば…」
「あー待って待って。分かったからそれはやめて。ていうか多分絶対直るから、大丈夫だから!」
本当に大丈夫なんだろうな。
こいつの絶対とかだいぶ信用できないんだが。
とか思いながらも、俺たちは気を失ったプルファを抱え、仕方なく徒歩と公共交通機関で帰路についた。
今回の成果
子蜘蛛(危黄級):kill数352体
大蜘蛛(崩橙級):暴走真凛により瞬殺
アラクネ・アポストロス(災緋級):麻義、プルファ、真凛により討伐




