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Chaos〈カオス〉 〜こんなバグった世界だが、俺は意地でも平穏に暮らしたい〜  作者: 身勝手な鶏
2章:井の外の海は広く、個性は遥か地平線まで渋滞する
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駄弁編Ⅱ 例え部下ができたとしても俺は絶対に奢らない

残業編と同じ日の夜です。


「では、初仕事お疲れ様でした」


残業が終わってから拠点を出て、繁華街の方にほうきを飛ばすこと20分。

俺は駅近くの飯屋で副隊長と乾杯をしていた。

というか、来たのは飯屋というよりも居酒屋と言った方が正しいところだった。

まぁ酒は飲めるし居酒屋も嫌いじゃないから別にいいが。


「今日は奢りで良いので遠慮なく頼んでください。ここは私の行きつけの店で、どれも美味しいですよ」

「まぁ奢りと言われたからきたんですけどね。でも本当に良いんですか?居酒屋で2人分ってそれなりな金額になると思うんですけど。」

社会人なら珍しくもないことなのかもしれないが、学生と二ーt…無職の経験しかないとやはり遠慮してしまう。

「大丈夫ですよ。これでも前職では結構稼いでいましたので。それに、少しなら経費で融通が効くので問題ありません」

そう言って副隊長がお品書きを差し出してきた。

前職で稼いでいたって、討伐者もそれなりに高給取りの仕事だがそれより稼げる仕事って何をしていたのだろうか。


「そうですか。じゃあとりあえず燗で獺之祭と焼き鳥10本盛りとだし巻きと枝豆ときゅうりの一本漬けと昆布締めと…」

「大丈夫とは言いましたけどすごい量頼みますね」

「1回遠慮して大丈夫って言われたらとことん遠慮しなくていい。途中でやっぱり少し控えめでとか言われたら甲斐性なしですねって言い返してやればいい。って姉に言われてまして」

「それは…なんというか、萌樹隊員らしいですね」

副隊長が苦笑いしながら言った。

その含みのある苦笑いからこの人がいかに苦労しているのかがよく分かる。


自分でバカスカ頼んでおいてなんだが、なんか今更申し訳なくなってきたな。


「あの、次の時は俺が奢りますね」

「いえいえ大丈夫ですよ。こういうのは上司の役目ですから」

「そうっすか…」

そうは言ってもさすがに気まずい。


うん、今度どっか行ったら副隊長にいいお土産買ってこようそうしよう。




「…それはそうと、初陣はどうでしたか?」

気を遣っていたのがバレたのか、急に話をそらされた。

「へ?…あぁ、まぁ大変でしたね。初日なのに酷い目に遭いましたよ。…だって、いきなり連れていかれたと思ったらどう考えても初戦で戦うスペックのやつじゃないやつ出てくるし、挙句の果てにグリフォンですよ?しかも刻は魔法少女とか言ってるくせに魔法は使い物にならなかったし、咲楽はなんの学習もせずに攻撃に当たりに行くし、なんなんですかあいつら」

もう酒が回ってきたのか、自分でも驚くくらい愚痴が出た。

「やはりそうでしたか。あの二人は一応第二級の実力はあるんですけど、性格が災いしてあまりスムーズに業務が進まないんですよね」

「は?二級?!」


第二級と言うと中小都市の危機くらいの奴ならソロ討伐出来るほどの実力者だ。


俺だって近所のモンスター狩りはしていたがその時はほぼ先手必勝の不意打ちでやってたし、勝てなそうなやつはこんに押し付けていた。

俺の階級なんて良くても大体四級くらいだろう。


「え、なんであいつらが?いや強いとは思いましたけど、そんな高レベだったんですか?」

さすがにあのザマでそれは信じられない。

この前の後半戦はともかく、前半は刻は何もしていなかったのに。

「彼女らはドラゴン討伐の実績もありますからね。普段の戦い方はああですけど、真面目にやれば相当強いんですよ。あ、ちなみに毘彩隊員と真凜隊員は1級ですよ」

「はぁ?!!」


毘彩はともかく、真凜が2級?

あの野良のカエルから逃げ出してたあいつが?

拠点に入った瞬間縛られて、丸一日拘束されてたあいつが?

就職先落ちまくって仕方なく討伐者になった金の亡者のあいつが?


「あの、確かにその通りですけどもう少しオブラートに言ってあげてください」

おっと、声にでてたか。


「うちの隊は全国有数の実力者が揃ってる隊なんですよ。能力だけ見れば皆相当強いですからね。ただ…」


ただ?


「ただ全員性格に難があって、普段は実力が出し切れないんですよね。」

「あー…」


うん。まぁそれはよく分かる。

今のところ会った隊員は全員キャラが濃い上に性格に難がある。


「まぁ、実力者集団ってのは異常者の集まりってのは定番ですし、その分働いてくれればいいんじゃないですか?」


柱とか海軍公認の7人の海賊とかレベル5とか八体の魔王とか、ラノベや漫画なんかだと強者は性格が終わってることが多い。


「そうですね。でも私としては素直に強い人の方がありがたいんですけどね」

そう言いながら彼は熱燗を啜った。

心中お察しします。



「でも、うちの隊の人は話を聞く限り皆相応の過去を持つ人達なので、常識的とは言えない性格になるのも仕方ないんですけどね。」


相応の過去?


「なんですか相応の過去って。まさか前科持ちでもいるんですか?」

「ははは。全員がそんななわけないじゃないですか」

ですよね。

待て今全員が(・・・)っつったか?

「詳しくは個人情報にもなるので言えないのですが、うちの隊はどういう訳か壮絶な過去ゆえに何かを失った、もしくは何かを持たない人達が集まるんですよ。まぁ、恐らく萌樹隊員がキワモノを集めてきたからなのでしょうが…」

俺がつっこみを入れる間もなく副隊長が説明しだした。


しかし、隊が異常者まみれなのはまたあの愚姉の仕業だったのか。

ほんとろくな事しないな彼奴は。



「そうだ、麻義隊員。貴方は何か探しているものはありますか?」

「はい?探しているもの…ですか?」

また唐突に話が変わった。

しかし今回は別に気を使った訳でも気まずくなった訳でもない。

「どうして急に?」

「あぁ、たしかに急でしたね。しかし全く関係ない話という訳ではなくてですね。というのも先程、うちの隊員の多くが、何かを失った、または何かを持たないと言いましたよね。それで彼ら…いえ、私達・・は皆それぞれ持たざる物を探す者、つまり『探索者サーチャー』としてそれの発見を、いわばサブ目標として活動しているんですよ」


彼はどこか遠い目で言った。


なるほど、だから探索者の分隊(サーチャースクワッド)なんて名前だったのか。

なんでこんな戦わなそうな名前なのかと思っていたが合点がいった。


「それで、俺にもそんな超大事な失くし物や探し物はありませんかってことですか」

「そういうことです。別に人生をかけてでも見つけたいものではなくてもいいので、何かありませんか?」

「そうっすね…」


探し物、か。


あの愚姉が探しているものはまぁ検討がつく。

それは俺にとっても関係のある者だが、別に俺はそれはもう探していない。


とすると…


俺は一瞬、こんが前に言っていたことを思い出したが、すぐに無視した。



「うーん……強いて言うならあのクソ姉貴の攻略法ですかね」

というか、それ以外に思いつかない。

普通人生をかけて探したいものなんてないと思うのだが。


しかし、それを聞いた副隊長は何故か微笑んだ。

「そうですか。それ(・・)も見つかるといいですね」


どうも言い方が引っかかる。


その時の副隊長の表情は、何もかもお見通しと言ったような感じがした。



その後は、入隊までの経緯や業務の小技などについて話した。

普段あまり会話が得意な方ではない俺だが、副隊長はどうも話しやすく、話が途切れることもなく続いていった。



しかし、探し物っつったって何を探せってんだ。

こんといい副隊長といい、どうしてそんなに俺をありもしない幻想の為に働かせようとするのか。

そんな無駄骨は俺の主義に反するってのに。



と、思いながら、俺は奢ってもらった焼き鳥を噛み千切った。

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