初陣編Ⅳ 魔法少女によるプロレス技と海よりも深い限定品の恨み
初陣編Ⅲの続き、多分初陣編最終回です。
「…お前ら、マジで初めからそれやってくれよ…」
目の前の光景に思わず口から漏れた。
「オラァ!!」
刻がグリフォンをぶん殴って地上に叩きつけた。
「うみゃぁ!!」
その落ちたグリフォンの中でまだ息がある奴には咲楽が即座に斬りかかる。
さっきまでの手強さはどこへ行ったのか、地面に凄い勢いで叩きつけられたグリフォンはさっきから為す術なく次々と一瞬で殺られていっている。
…と、いう感じでさっきから、2人は空を飛んできたグリフォンの群れを蹂躙していた。
こんな状態になるまではかなり一瞬のことだった。
数分前
まず、1体目を仕留めた後、敵討ちとでも言わんばかりに他のグリフォンが群れをなして飛んできた。
それを見て刻と咲楽が、
「キタキタキタ!最高のシチュエーションだ!今回だいぶ不完全燃焼だったんだよね。それじゃあ咲楽、本気で行くよ!」
「にゃっはー!焼き鳥食べ放題なのだー!」
とか相変わらず危機感の無いことを言いだした。
この絶望的状況を見てどこからその自信が湧いてくるのだろうか。
とか思っていたら、刻が浮遊し、同時に周りのいくつかの岩も浮きだした。
それぞれの岩が1t以上ありそうなサイズのものだが、その重さを感じさせないほどに軽々と浮いていていた。
スキルの持つ力の強弱は本来、単純に魔力などのエネルギー量に比例する訳ではなく個人それぞれのスキルの出力によって変わる。
だから俺は魔力はあっても出力が大したことないので、術式をかけあわせて威力をかさ増ししている。
で、話は戻るが、飛行術式というのは意外と複雑な術式だ。
というのも、重力をどうこうしても微妙な調整は難しいし、第一前後左右に動けない。
だから飛行術式は、ベクトルを持つ力そのものをイメージしないといけない。
要は、耳に花札のような飾りをつけた剣士を殺りに浅草の屋敷に襲撃に来た2人組の鬼の、矢印の鬼の血の術みたいなイメージだ。
しかしそうはいっても、知覚できないものをイメージするというのは簡単なことではなく、故に大した出力も出ない。
つまりは、あんな総重量10t近い岩を振り回すのはマジでおかしい。
てか有り得ない。
結論…あれは…
「不触操作か」
大岩をぶん回して戦っている自称魔法少女をみながら言った。
超能力とはなんとなくの感覚である日突然使えるようになるもので、過程とか理屈とかを無視してただ才能みたいなノリで使うことができるスキルだ。
その上基本的にそれらは並のスキルよりも性能が段違いで、出力もバカげたものになる。
と、なんでこんな状況になっているのか落ち着いて考えてみたが、その圧巻というか、さっきまでの自分がアホらしくなるような光景は変わることはなく、俺はただ呆然と、次々と駆逐されていくグリフォンと自称なんたらさんを眺めていた。
その自称なんたらさんは大岩攻撃以外にも殴る蹴る投げるなどの、魔法少女とは何だったのかと思うスタイルをとっていた。
てか冷静に考えると、物理攻撃系魔法少女って割とベタだな。
「よっしゃあラストォ!!必殺!月……」
と、もう考えるのを諦めてお茶を飲みながら観戦していると、刻が必殺技を叫びながらグリフォンの上に飛んでいった。
グリフォンもかなりの速度で飛んで回避しようとしているが、何故か刻はそれよりも速い。
さっきからスターだムーンだと必殺技を叫んでいるが、あんな戦い方でも一応技名は星系でなんとなく一貫してるのか。
「…面水爆ッッ!!!!!」
いや、月面水爆かよ。
刻は上空で後方回転をして、そのまま能力を切ったのかグリフォンに上体から突っ込み、ものすごい勢いで落ちてきた。
そんな、確実に魔法少女が使うものではないであろうプロレス技を上空10数mから食らったグリフォンは当然、砂埃の中で倒れ伏して死にかけていた。
しかし、同じく落ちてきたはずの刻は何故かピンピンしている。
「ふぅぅ。完全燃焼!」
戦闘、というか蹂躙を終えた刻は腕を頭の上に上げて伸びをしながら変身を解いた。
さっきの俺の苦労はマジで何だったのだろうか。
「なぁ、お前らマジで初めからそれやってくれよ」
大事なことなのでもう一度言った。
「「え、嫌」」「だよ」「なのだ」
ハモったな。
意味わからん方向に、ハモったな。
「は?なんでさ」
「だって魔法少女は魔法を使ってなんぼでしょ?どこの世界にプロレス技で戦いを終わらせる魔法少女がいんのさ」
…正論だ。
正論だけど、なんだろうこの不服感。
「私はこの戦い方だと完全にサポート役になるし、ほとんどの奴がすぐやられちゃって面白くないから嫌いなのだ。あ、さっきの戦いはなかなかに面白かったぞ?」
理由面白くないからってなんだよ。
「いやお前らがどうこうとか知らねぇから。プロとして自分のことより勝つことを優先しろよ」
「はぁ?!あのねぇ、私は討伐者やりたいんじゃなくて魔法少女やりたいの。そのためならプロとかもうどうでもいいから」
…なんだこいつもか。
こいつも清々しいまでのクズか。
「お前ら…ほんとよくそんなザマでこの隊破綻してないな」
「そんなザマとは何さ。大体、神速の終幕がそれ言う訳?あんたたまに異界門出てもスルーしてたでしょ。そっちこそプロとしてどうなの?」
いや俺はプロじゃないからいいだろ。
それに、一人でやってたんだから少しくらい取り逃してもしょうが…
…いや待て。
「なんでお前それ知ってんだ?いくら県内の討伐者っつってもいちいちあんな辺境のこと把握してるわけないよな」
俺の地元、もとい神速の終幕の守備範囲は、着々と少子高齢化とシャッター街化が進んでいるような、絵に描いたように過疎化しているド田舎だ。
いくらなんでもそんなところまで平の隊員が把握しているとは思えない。
「だって、あそこの管轄元々私だったんだもの。…そう、あんたが中途半端に正義の味方気取りの事やったから仕事消滅して、大量に無駄骨折らされたのが私なのさ!この落とし前どうつけてもらおうか!」
刻が嫌悪感たっぷりに言った。
なるほど。こいつがあんなに俺を敵視していた理由それか。
とんだ逆恨みだ。
…………ん?
あれ?なんか引っかかるな。
俺んちの周りの管轄。
グリフォンレベルの奴でも一方的に狩れる討伐者。
しかし戦い方は結構雑で、木とか地面も結構壊しながら戦う。
そして何より、こいつは不触操作能力者。
不触操作は超能力の中で最もメジャーとはいえ、同じ能力者というのはそうそういない。
なんだろうこの既視感。
なんか、割と最近そんな話を聞いた気が……
………あ。
「あぁぁ!!お前、うちの近所のロゥソンぶっ壊した討伐者だろ!!」
そうだ思い出した!
こいつ多分、去年俺が9月31日が月末だって間違えて限定クリアファイル取り逃す前に近所のコンビニ壊した犯人だ!
「は?何とーとつに」
刻が呆れたように反応した。
しかしその様子を見る限り、本当に心当たりは無さそうだ。
「…とぼけんな。ここまで条件が揃う偶然なんてそうそうねぇんだよ。まぁ覚えてねぇか。お前、去年の9月頃にうちの近くで氷属性の虎狩らなかったか?」
「……えぇ?そんなこと………あ、あぁそういえばあったそんなこと!そうそう、そん時にコンビニ壊して反省文書かされたんだ!」
やっぱり。
「だろうな!お前マジふざけんなよ?!!お前がコンビニぶっ壊したから俺は限定クリアファイル取り逃したんだぞ!!」
「はぁ?!知らないんだけどそんなこと!むしろあんたのご近所救ってやったんだから感謝しなさいよ!コンビニ壊したって言ってもあの虎はしっかり斃したんだから責められるいわれなんてこれっぽっちもないんだけど!」
こいつ、するかとは思ってたけど案の定逆ギレしやがった!
「お前マジふっざけんなよ?!そんな事とはなんだ、コラボ復刻来なかったらどうしてくれる!大体あれだろ。お前そん時もどうせ変なプライド出して、当たらない魔法使ってちんたらやって被害拡大したんだろ!」
「っつっ………」
刻が不服そうに絶句した。
どうやら図星のようだ。
「…っいいでしょうそんなの!大体、私がやんなかったらもっと被害が広がってたんだからしょうがないでしょうが!」
「何がしょうがないだ!その被害を最小限に押さえるのがお前の仕事だろうが!お前舐めプしといてよくそんなこと言えんな!」
「まぁまぁ2人とも落ち着くのだ!早くこのグリフォン達を拠点に送らないと味が落ちるのだ!」
相変わらず食い気しかない咲楽が間に割って入った。
さすがに俺も刻もこんな所でいつまでも喧嘩している訳にはいかないと分かっているので、不満を残しながらも大人しく引き下がった。
「…チッ。アンタ覚えときなさい?私に無駄骨折らせたこと、絶対に許さないから」
「ハッ、上等だよ。こっちも死ぬまで覚えておくからな。限定品の恨みは海より深いんだよ!」
と、言い合いながら俺たちは、さっき隊の拠点で登録した隊共用の格納術式にグリフォンを入れていった。




