初陣編Ⅲ ジリ貧の戦闘と嫌がらせみたいな作戦
先週は色々あって投稿できませんでした。
グリフォン討伐の続きです。
「コラ逃げるな!あんたそれで恥ずかしくないの?!」
俺は流石の分の悪さに、グリフォンを背に全速力で逃げていた。
咲楽と刻はそんな俺を追いかけてきている。
「残念だったな。プライド?そんなもん、とっくにどっかに捨ててきたわ!っつーか無茶だろあれ倒せとか!」
今使える攻撃コマンドは、
・学習しない直線攻撃
・当たらない魔法攻撃
・吹けば飛ぶスキルの攻撃
のみである。
うん。どうしろと?
「いや無理無理無理。あれは無理だから!あのレベルの奴は誰か、もっと使える人の管轄だから!」
「はぁ⁈ここに最上級に使える人がいるでしょう?!それにいい?この私に逃げるという選択肢なんて存在しない!それにあんな鳥ごときにおくれをとるような私じゃないんだよ!」
いや、現状おくれとりまくってんだろ。
「それに、あいつもかなり美味いのだ。だがあぁいうそこそこ強いやつは滅多に獲れないから確実に抑えておきたいのだ」
だめだ。こいつの頭にはマジで食欲しかない。
「我慢しろそんぐらい!多分Amazonesとかなら売ってるからそれでも…」
「それに、あいつ討伐失敗したら多分今日も残業なのだ」
??????????????
「…いい…だr……………………は?」
咲楽が俺の言葉を遮ってとんでもない爆弾発言しやがった。
「え?残業?…何故?俺も?」
初日から残業とか冗談だろ?
「当たり前でしょうが。討伐対象取り逃すと反省文とか特徴の詳細とか所在とかめっちゃ仕事増えるんだよ。んで、基本うちの仕事って討伐業務の後は報告書書けばほぼ終わりだから追加分は残業になるの」
……なんだそのふわっとした業務時間。それでいいのか。
つか…残業?俺、初日から残業させられんの?
え?Really?
つまり、残業無くすにはあの身の丈に合わないボス討伐必須?
「…え?でも、今日初日ってことで誰か変わりにやってくれたり…」
「私は紙の仕事苦手で手伝うほど余裕ないのだ」
「私もやんないよ?なんで私があんたの手伝いしないとならないのさ」
理不尽過ぎる。
は?あんな奴この戦力でどう倒せってんだ。
残業を無くすためなら多少やる気も出て強化もされるが、それだけで倒せるような安い相手じゃねぇよなぁ…
…けど…残業は嫌だなぁ………
…殺るにしても敗色濃厚だし、勝てるにしても絶対時間かかるしギリギリの戦いになるよなぁ………
……とはいえ……残業はっ…残業だけはぁっ………
「………っだあぁ面倒くせぇ!!おい、残業回避が最優先だ!おい、あの害鳥駆除するぞ!」
クソが!最近こんなんばっかなんだけど!
誰か、俺の平穏な生活を返してくれ!
俺は嫌々ながらも足を止め、グリフォンに向き直した。
「なんであんたが仕切るんだよ!私に指図するな!リーダーは私、上司は私、神は私、OK?!」
なんという自己中。てか今それどころじゃないだろ!
「おぉ、ようやくやる気になったか。麻義は塩とタレどっちが好きだ?」
なんという食い意地。だからそれどころじゃないって!
なんでこいつらはこんなに危機感が無いんだ!
「お前ら、もうちょい危機感持ったらどうだよ!そんで?!俺戦闘センスとかほぼないんだけどどうすんだよ!」
「はぁ?どうもこうも、全員攻撃しかないでしょう?」
「は?」
グリフォン舐めてんのか。作戦ガンガンいこうぜオンリーって何考えてんだよ。
「…咲楽、前衛であの害鳥を翻弄してくれ!俺は遠距離とサポートにまわる!」
「わかったのだ!」
俺は刻の言葉を無視し、とりあえずチーム戦の定石の布陣で咲楽に指示した。
咲楽も刻の作戦の雑さは分かっているらしく、意外と素直に聞いてくれた。
「だからあんたが仕切るな!」
「だったらもうちょいまともな作戦出せや!お前には指示してねぇから勝手にやってろ!喰らえ!連撃飛石槍!」
刻と言い合いながら、俺はこちらに向かってきているグリフォンに連射攻撃を放った。
しかし、そう簡単にもいかず、グリフォンは射角の移動に合わせて回避していく。
「チッ。咲楽!お前に照準誘導かけていいか⁈」
「問題ないのだ!」
「ちょっと!私を蔑ろにするな!」
もう何ができるのか分からない刻はとりあえず放置して、俺は咲楽に前脚で斬りかかっているグリフォンに遠距離攻撃をしていった。
しかし、流石はグリフォン。俺たち2人を相手にしても平然としている。
真凛はグリフォンの間合いで上手く攻撃を躱しつつたまにカウンターを入れているが、いずれも受け身を取られ、深くは入っていない。
俺のデバフ系のサポートはどれも発動する前に察知され、余裕で躱されている。
ちなみに、さっきから刻は魔法攻撃をしては地面をえぐったり木を倒したりしていた。
「クッソ、このままじゃジリ貧だな」
飛んでる相手には落とし穴は効かない。
機動力も高すぎて遠距離も動作封じもほとんど当たらない。
スキル攻撃は多少当たっても防御力が高くて効果は薄い。
うん、一応戦ってはいるもののどうしろってんだ。
「あーもう!ちょこまかと逃げるな!」
一向に攻撃が当たる気配のない刻が痺れを切らしている。
「いや、お前の攻撃グリフォンは見てもいなかったぞ」
グリフォンは最初の5,6発くらいは警戒していたが、その後はだんだん注視しなくなり、後半は少しも気にしていない様子だった。
「なぁ!話してないで応戦するのだ!」
咲楽はそうこう話してる間にもグリフォンに追いかけ回されていた。
咲楽はかなりすばしっこくグリフォンの攻撃を紙一重でかわしているものの、カウンターを仕掛けても即座に上空に回避して逃げられるというのを繰り返している。
「ぎにゃ!?」
どこかに隙はないかとグリフォンと咲楽を見ていたら、急に咲楽がえぐれた地面につまづいた。
そして、グリフォンはその隙を見逃すことはなく咲楽に襲いかかった。
「危ない咲楽!」
そこに慌てて刻が駆け寄る。
「ヤバッ、過硬障壁!」
俺も、そこに慌てて障壁を出した。
『ピギッ?!』
突進されると防ぎきれないかとは思ったが、グリフォンはそれにギリギリで反応し、慌てた様子で上空へ回避した。
俺程度の障壁なら壊せないこともないかと思ったが、自傷が入るかもしれない突進は避けたいのだろうか。
……ん?これ使えるか?
「ふうっ危なかったー。ってあんた何呆けてんの?」
刻が何か言った気がしたが、考え事をしていた俺の耳には入らなかった。
グリフォンは機動力と知力も高水準。
しかし、だからこそ自傷ダメージの入る体当たり攻撃は嫌がるようだ。
前足による切り裂き攻撃は振りが大きく、発生が遅い。
それに前脚が肩からクチバシの先の幅よりも短いから正面にはすぐに届かない。
よし、いける。勝機あるぞこれ。
「…い…」
…でも、結構疲れそうなんだよなぁ。
「…おい…」
っつっても、さっさと終わらせるにはこれしかねぇしなぁ。
「…おい!…」
面倒いんだけどなぁ…
「おい、神速の終幕!何ボーッとしてんの!」
「ふぁっ?!」
刻がなんか言ってたらしいが、気づいてなくて変な返事なってしまった。
「ふぁっ?!ってなにさ。あんたほんと何考えてたの?」
「いや、ちょっと思いついたことがあったんだけど疲れそうだなぁと思って」
「そうか。よし、やれ」
刻が食い気味に言った。
こいつ後半聞いていたのだろうか。
「いやでも…」
「黙れ、やれ」
理不尽すぎる。(本日数回目)
相変わらずこいつは拒否権を尊重してくれない。
「……っあぁ分かったよ!咲楽!足場があれば空中でも動き回れるか?!」
「任せろなのだ!」
よし、実行できる!
「スゥッ、フゥー……」
それなりに集中する必要があるので、一旦深呼吸を挟んだ。
「麻義!なんかやるなら早くやってくれ!そろそろきちぃのだ!」
咲楽がグリフォンから逃げ回りながら言った。
さすがにそろそろ危うそうだ。
「分かってる。演算加速、詠唱短縮、並列詠唱、動作予測…」
「麻義ぃ!麻義いぃ!」
10分以上ノンストップだった咲楽の動きがいよいよ鈍ってきた。
そこにすかさずグリフォンが襲いかかる。
「過硬障壁!」
俺は再び、その間に障壁を生成した。
案の定、グリフォンはそれにギリギリで反応し、慌てたように急カーブして回避する。
「過硬障壁!」
グリフォンが回避した先に俺は追加で障壁を出した。
そして、またグリフォンはそれを避ける。
「あんた、まさか…」
ここまで来ると刻も勘づくようで、しかし別にやることもないのでただ立ち尽くしている。
「過硬障壁、過硬障壁、過硬障壁、過硬障壁、過硬障壁、過硬障壁、過硬障壁、過硬障壁…」
そんな刻を横目に、俺はグリフォンの回避先に障壁を出し続けた。
グリフォンはそれに対して、いちいち避けようと無様に飛び回っている。
よし、ここまで順調!
「過硬障壁、過硬障壁、過硬障壁…来た、そこだ!行け咲楽!」
俺は障壁でグリフォンの動きを誘導し、その上斜め後ろに咲楽がいる配置に持っていった。
そして、咲楽は上空に残っている障壁を足場に構えている。
なんか咲楽の周りがぼんやり光ってるような感じがするが、闘気的なやつだろうか。
「ぶちかませっ!!」
あぁ最近あの麻凛の癖が移ってきた気がする!
「うみゃぁ!!大物狩ッ!!」
「フィギッッ!?」
咲楽は着けていた武器のクローを突き出して、背後からグリフォンの後頭部目掛けて突っ込んだ。
グリフォンはそれに反応する素振りこそ見せたものの、流石に障壁でフラフラになった状態だと動きも鈍るようで回避は間に合わなかった。
咲楽の渾身の一撃はグリフォンの後頭部に直撃し、ものすごい速度で地面に叩きつけられた。
落下点に高く舞い上がる砂ぼこりを背に、攻撃したまま落ちてきた咲楽が着地した。
「やったか?!」
刻が言った。
それ実際に言うやつ初めて見た、ってか絶対わざと言ってないだろか。
しかし、完全にフラグでしか無さそうな発言だが、後頭部にあの速度で、それも刃物で攻撃されたんだ。
万が一にもあれに耐えられることなんてないだろう。
(フラグ)
そんな気はしてた。
叩きつけられた時に巻き上がった砂埃が晴れると、そこではグリフォンがよろけながらも立ち上がっていた。
グリフォンは頭からダラダラと血が出ているが、まだ動けなくはなさそうだ。
「うわ、まだ立つのだ?!」
「クッソしぶとすぎんだろマジで!でも、あれだけ弱ってたら束縛系スキルで…」
「ワハハハハハ!真打登場!」
さっきから居たはずの刻がほざいた。
予想外の事態とはいえ、勝ち筋は見えているので変に手出ししないで欲しいのだが。
「おい、もう多分勝てるから余計なことは…」
「戦闘で私に活躍の場が無いなんてことがあっていいか?!いや、良くない!」
さっきからかすりもしない攻撃を打ち続けている奴が強者風を吹かせてきた。
しかし、グリフォンはそれに警戒して刻を注視している。
「だから待…」
「食らえ!!月光輝撃!!」
やはりこいつに制止なんてものは効果がなく、刻は即座に魔法を放った。
そして案の定、そのやたらと眩しいビームみたいなやつは的を大きく逸れ、あさっての方向、もといこっちに飛んできた。
……こっちに飛んできた?
「ちょっ、は?!ふお前ざけんな!!!!最硬(ハーデスt)…」
…いや待て、これも使えるか?
うん、いける。火力は高くてもこいつのベクトルブレッブレの攻撃なら多分俺のスキル出力でも問題ないだろう。
こんなこともあろうかと入隊前に覚えておいたスキルの使い所だ!(この間0.01秒)
「射撃反射!」
俺は、飛んでくる刻の魔法を防ぐようにスキルを展開した。
そして狙い通り魔法はスキルに当たると共に方向を変え、よろけながらも刻の方を注視していたグリフォンに直撃した。
「よし、入った!」
反射した魔法はグリフォンの横腹に当たって貫いた。
射撃反射。
ゲームなんかだとお馴染みの、しかし場合によってはかなりぶっ壊れスキルになる遠距離攻撃を反射するスキルだ。
俺のこのスキルは、それなりに威力が小さい攻撃でなければ防げないのだが、刻の魔法のようなノーコンならスキルの発射方向がランダムみたいなもんなので比較的楽に反射することが可能だった。
改めてグリフォンを見ると、流石に腹がえぐれるのは致命傷なようで今度こそその場に倒れ伏した。
「お、終わったー!」
はぁぁ、危ねえ。危うく初日から残業になるところだった。
別に俺は自己評価が高いわけじゃないが、あの土壇場で反射を使おうと思った俺は我ながら凄かったと思う。
「どうよ。これが私の実力さ!」
「はいはいすごいすごい」
何が「私の実力さ!」なんだと言いたいが、それを言ったら色々言い返されそうなので適当に流しておく。
「あんたねぇ、もう少し心を込めて言いなさいよ!」
なんか、最近似たようなことを言われたような気がする。
「まぁまぁ。こんな所で言い争ってもしょうがないのだ」
咲楽が間に入った。
こいつが比較的常識人で助かった。
「それに、狩ったあとの肉はすぐに血抜きしないとだからそんなことしてる暇無いのだ!」
……まぁ、食い意地しかなくても常識はあるから。
助かったのも事実だから。
「そうだな。さっさとこの鳥肉処理して帰るか」
「だからあんたが仕切るな!」
こうして、俺たちはその場を後にし…
…………ようとした。
そういえば、ラノベなんかでグリフォンが群れで生活してる異世界系作品もあったなぁ、と、俺はかなり絶望しながら呆然と空を見た。




