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Chaos〈カオス〉 〜こんなバグった世界だが、俺は意地でも平穏に暮らしたい〜  作者: 身勝手な鶏
2章:井の外の海は広く、個性は遥か地平線まで渋滞する
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入隊編Ⅱ 満場一致の問題児とサイアクなめにあわされそうなよかん

入隊編の続きです

「えー…先程はお見苦しいところをお見せしましたね。申し遅れました。私、探索者サーチャー分隊スクワッドの副隊長を務めております、草薙重二くさなぎちょうじと申します。以後、よろしくお願いします。」

俺はさっきのロマンスグレー、もとい草薙さんに、拠点の中の入ってすぐのオフィスのような部屋に案内された。

草薙さんはさっきとは打って変わって、とても落ち着いた物腰だ。

「えっと、俺はさっき言っていた通り、萌樹の弟の麻義です。愚姉がお世話になっています。」

「いえ、そんなことはありませんよ。では早速なのですが……」

軽く互いに自己紹介をした後、俺は草薙さんから再び隊の説明などを受けていた。

説明を真凜に聞いたと言ったら、「おそらく不十分ですね」と判断されたからだ。

あいつはやはり信頼がないらしい。

ということで草薙さんは今隊について話しているのだが、いかんせん頭に入ってこない。

というのも俺には今、とても気がかりな、かつ最優先の責務があるからだ。


そう、それは週2&半日出勤を勝ち取ることだ。


くどいようだが俺は働きたくない。意地でも働きたくない。その野望はたとえ職場に来ても、副隊長の前に来ても、なんら変わることはない。

よって俺は何としても、俺は俺の、堕落時間フリータイムを死守しなくてはならない。

そう、絶対に。


とはいえ、素直にそれを打診する訳にはいかない。

もしそれで俺がニート判定をされ、たまに来るだけのニートだと姉に報告されたら、結局俺は…俺は、あの、理不尽の権現に女装で街中に放流されるだろう。断言出来る。奴には「少しだけどしっかり働いてはいたんだしいいだろ」とかいう言い訳は到底通用しない。

しかし…そうはいってもどうするか…

「…さん…」

何か他にバイトかなんかがあることにするか。いや、だめだ。奴は俺がそんなことをしないと知っている。

「…しさん…」

地元で討伐をやっているから仕事免除とかにならないだろうか。うん、それならまだ希望がある気がする。

「小鳥遊さん!」

「へ?!はい!」

草薙さんが俺の名前を呼んだ。どうやら何度か呼んでいたが聞こえていなかったらしい。

「以上が隊の説明や業務内容なのですが、今の話聞いていましたか?」

「大丈夫です、聞いてました」

多目的機球で録音してたから内容は把握できるので、聞いていたとも言える。

…まぁ、つまり聞いていなかったとも言える訳だが。

「そうですか…。まぁ分からないことがあったらいつでも聞いてください。では制服をお渡ししますね。」

草薙さんが言うと同時に、メイド服ではないがいかにも給仕らしい服装の五十路くらいの女性が服を持ってきて、俺に渡した。

女性は歳を感じる風貌ではあるが優しそうな、かつ昔は美人だったということが伝わる容姿だった。

「こちらですね」

「あぁ、ありがとう式神。小鳥遊さん、それが我が隊の制服です。一見普通の制服なのですが…」

「それは軽くて動きやすいのにあらゆる被害に対する耐久性がやたら高い1級品よ!ザコ鬼の爪や牙では、その隊服を裂くことすらできないんだからぁぁぁぁ!!!」

「余裕がありそうですね。貴女には落ち着いて反省するってことができないんですか?」

草薙さんの言葉を未だに入口に吊るされているみの虫が遮り、さらに間髪入れずに千歳が真凜に不快感を与えるスキルを使った。

今この部屋には5人しかいないのに、騒がしすぎやしないだろうか。

「…えっと、まぁそういうことです。それを着ていれば危黄級イエローランクくらいの攻撃なら余裕で防げると思いますよ」

俺は改めて制服を見てみた。

話ほどの耐久性はあまり感じられないが、軽くて肌触りの良いものだった。

色はなんとも形容し難い黒っぽいような青緑っぽいような色だ。そういえば、さっきの式神さんという人以外は皆これの色違いを着ている。

「お気に召しましたか?」

せっかく渡されたので着ていた上着を脱いで制服を羽織ってみた俺の様子を見て、草薙さんが尋ねた。

「えぇデザインは嫌いじゃないですし、着心地も良いです」

これを着ると、いよいよ働かなくてはいけないという実感が湧いて鬱々としてくるという点を除けば、純粋にいい服だと思う。

「そうですか。それは良かったです。さて、では実地でうちの雰囲気を知ってもらうためにも他の隊員が着き次第討伐業務へ向かっていただきたいのですが…」

草薙さんが目を逸らした。

他の隊員?

そういえばこの前真凜が十何人は隊員がいるとか言っていた気がするが、今ここには俺を抜いて4人しかいない。

「…?えっと、ところで他の人って今いないんですか?真凜にはこの隊には10人以上隊員がいるって聞いていたですが、ぱっと見た感じ今4人しか居ないんですけど…」

俺は再びオフィスを見渡した。見える限りにはやはり草薙さん、式神さん、千歳、みの虫の計4人しかいない。

「あぁそれは……いや、見せた方が早いですね。」

草薙さんはそう言って立ち上がろうとしたが、すかさず式神さんがなにかの紙を持ってきた。

「これですよね。」

「あぁ、ありがとう式神さん。麻義さん。これを見れば今他の隊員がなぜいないのかがわかると思います。」

草薙さんが気まずそうに見せてきたのは出勤状況を記録する名簿のようなものだった。しかし、それはもはや仕事で使うものとしての機能を果たしていないのではないかとも思えるものだった。



〇月✕日   ー出勤状況記録表ー

隊長  空賀己杏くうがききょう  迷子14日目につき欠勤

副隊長 草薙重二くさなぎちょうじ  〇

戦闘員 小鳥遊萌樹たかなしもえぎ 行方不明4週間目

    夏目真凜なつめまりん  無断欠勤2週間目

    如月刻きさらぎとき   寝坊により遅刻、今月8回目

    不知火毘彩しらぬいひいろ すれ違った他の討伐者に喧嘩を売ったため交番行き。遅刻

    獅子王咲楽ししおうさくら 〇

    仙石虎鉄せんごくこがね  隣の組がシマとの抗争のため遅刻

    宝寿院ほうじゅいんメイズ 今月3回目の死亡につき死亡休暇

    巫吉夜かんなぎきちや   馬が外れて家賃が払えず、大家から籠城するため遅刻

    千歳ちとせ  〇

研究職 天雨弘零あまうぐれい   〇

    西園寺白さいおんじはく   学校につき公遅刻

    西園寺黒さいおんじこく   学校につき公遅刻

補助  式神しきがみみどり 〇   



…なんだこれは。

「ちなみに獅子王隊員は寝坊のとき隊員を起こしにいったため今いません。天雨隊員は拠点の敷地内に勝手に作った自室に引きこもっています。」

…なんだそいつらは。

草薙さんが頭を抱えてため息をはいた。

「…大丈夫なんですか?この隊」

「大丈夫…なわけないでしょう?」

草薙さんは顔色を悪くして、目が笑っていない笑顔を浮かべた。

なんか最低シフト勝ち取るの割と楽にいける気がしてきた。

「まぁ居ないことには仕方が無いので、先にこれからのシフトを決めましょうか。」

来た、俺の正念場!

思ったそばから来た。

ここで今、俺のこれからの人生が決まる。

いかにあの理不尽の権現によるペナルティを掻い潜りつつ俺の気ままな暇つぶしライフを存続させるか。

ここから俺の入隊初の初陣、ファーストバトルが始まる!

「では勤務時間なのですが、お姉さんから言われていることが…」

『バッコーンッッッ!』

「ひでぶっ!」

草薙さんが話し出した瞬間、部屋に何かが壊れた鈍い音と、みの虫の断末魔が響いた。

まぁ、真凜は一応生きているが。

その音は、外からドアが壊されて吹き飛ばされ、入口に吊るさっていたみの虫に衝突して声を上げ、一緒に吹っ飛ばされて壁に叩きつけられた音だった。

あまりに急なことで自分でも意味分からんが、一応事実だ。

神速の終幕エンドロール!ここにいるのは分かってんだ!さぁ、神妙に出てこいやぁ!」

壁ごと壊れた入口から声が聞こえた。

そちらを見ると、入口には金髪サイドテールの、隊の制服を着た高校生くらいの少女が立っていた。

「貴女、いつものことですが最低限あいさつくらいしたらどうですか?」

ときさん、いい加減ドアを壊して入ってくるのやめてもらっていいですか?もう最近はドアをダース単位で買っているんですよ?」

「ちょっと!人様を吹っ飛ばしといて謝罪もないとはどういうことよ!」

ときと呼ばれた少女に他の隊員が連続で苦情を入れた。

てかあのまりん頑丈だな。

「出てこいやぁ神速の終幕エンドロール!」

ときはその言葉すべてを完無視し、取り立てのように騒ぎ出した。

しかし神速の終幕エンドロールか。どっかで聞いたことあるような?

神速の終幕エンドロール?なんだ、それって麻義のことじゃない。」

意外とダメージの無さそうな真凜が俺の方を向いて言った。

あぁそっか。神速の終幕エンドロールってなんか胡散臭いサイトに載ってた俺の異名か。

…つまりこいつが呼んでんの俺か。

明らかにただ新人を見に来ただけの態度じゃないよな。

………。

呪符転ポイント・テレポーテー…!」

「逃がさないよ?」

俺が転移でとっさに家に逃げようとした瞬間、いつの間にか背後にまわっていたときが俺の肩を掴んだ。

「ね、神速の終幕エンドロールさん?」

俺の肩を掴みながらときが猟奇じみた表情を浮かべた。


あぁ、サイアクな めに あわされそうな よかんがする。


短期的にみても長期的にみても、とても強く、そんな感じがした。

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