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竜騎士姫アレサ ~最後の竜騎士の英雄譚外伝~  作者: よしふみ


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最終話    『真なる歌は、我が名と共に』    その72


 他国から来た亜人種の戦士たちも、ストラウス家の領内に残った。竜騎士姫を母親のように慕う彼らは、ガルーナで最も強いストラウス家の騎士団を創り上げる。黒竜アーレスと共に戦場へと向かい、彼らは勇猛に鋼を振り続けた。


 第二の故郷をくれた竜騎士姫に報いるために。


 一人。


 また一人。


 命を失い、歌へと還りながらも。


 ストラウスの血と共に、彼らは生きた。


 かつての祖国との戦いで、勇猛果敢なガルーナの騎士は実の兄に討たれる。それでも本望だった。


 弟の腹を貫いた剣を、兄は手放した。ケットシー族の耳を倒したまま、その顔はくしゃくしゃである。死にゆく弟に、弱々しく震える声で訊いたのだ。


「……私と共に、故郷へ……お前が、生まれて、育って家へと……戻らないか?」


「……私は……とっくの昔に……ガルーナの騎士だ…………ストラウスと共に在る……竜騎士姫が、いる空の下で…………」


「……ああ。わかったよ。弟よ……」


 死を与えた剣を、横たわった弟に抱かせるように持たせてやったあとで、アーレスの向かう祖国の軍勢と合流するために、男は歩き始める。


「……さらばだ、我が弟よ。私は、竜騎士姫が残した竜を、倒してやるぞ」


 黒竜アーレスとメリッサ・ロウが、戦いに敗れることは一度も無かった。


 挑んだ全ての敵に勝利して、ガルーナを守り続ける。





 時は流れる。


 時は流れて……。


 少年王と呼ばれていた男は、今では立派な王となる。


 エルヴェと婚姻を結んだのは、南方の同盟国……ファリス。


 愛などない日々であるし、それは妃も受け入れていた。王族らしい婚姻で、王族らしく義務を果たす。


 自らに向けられないエルヴェ王の一途な感情の行方を、王妃は知っていた。空を見る。竜騎士姫ではなく、クインシーに心は奪われたまま。


 クインシーの遺した教育のままに、ガルーナは発展した。再建されていく竜騎士団と、それを援護する軽装騎兵隊……荒々しく攻め込む気風は、ストラウス家の哲学を再現するかのように強化されていく。


「……政治的に、とても正しいことですわ。私の陛下……でも。それでも。この心の空虚は……私に、貴方を恨ませる」


 因果は深く潜在し。


 遠い未来への禍根となったのか……。


 王妃は子を産む前に、自殺して……。


 ガルーナとファリスの王族の血が、より深く結びつくことはなかったのだ。


 嘆きながらも、エルヴェは進む。より良い王国を創るために、国内の結束を維持し、悲惨な内戦を遠ざけるために尽力した。


 他国との多くの戦に勝利して、黒竜アーレスの仔で形成される最強の竜騎士団が完全に再建されるまでの時期を、北方の狂暴な王として守り抜いた……。


 陰日向に支えてくれる、ドワーフの友人だけが。


 唯一、心の全てをさらけ出せる存在であった。


「……王など、なるものではない」


「ですがね、陛下。王の親友をやるというこの世で一番の幸せが存在するためにも、王さまはいなくちゃなりません」


「ありがとう。友よ。君の言葉は、いつも私を救う……さて。悪だくみを、しようか」


「ええ。お任せください。ガルーナの影から、オレは陛下を支えますよ。初めて会った、あの日と……変わることなく、いつまでも!」





「まだ結婚なさらないのですか」


 その言葉を親族から多く聞かされる。


 それでも、トーマス・アルガスは苦笑でかわすばかり。


「多くの武勲をあげられました。もう、一族の犯した謀反の罪で、貴方のような偉大な竜騎士を攻める者などおりますまいに」


「……私は、まだまだ王国に貢献したいのですよ。翼将を引退されたゴルドフさまと共に、また東方の偵察旅行にも向かいたいので」


「働き者ですこと」


「ええ。使命を果たさねばなりませんから」


 罪の由来はいくつかある。


 その一つは、幼い双子から母親を奪った罪だ。


 もう一つは、偉大な姉を、妹から奪った罪だ。


 罪はあまりにも重すぎて、罰を求める自らの決意に引き裂かれた。心から愛する彼女に、告白など出来るわけもなく……贖罪の空を、求める。


 アーレスと、スカイラーのあいだに生まれた仔竜に乗って。


 東の空へと向かうのだ。


 いつまでもガルーナを守る。そのために、どんなことでもする覚悟であり、それは翼将となったあとでも、一切、曲がることなく貫かれた。


「……私が、死んだあとでも。ガルーナを守ってくれ。おそらく、結婚はしないと思う。私の一族でなくとも……竜騎士の家は、全て、同じだ。アーレスのもとに戻って、ストラウスと合流すればいい」


『わかりました。でも、それは、ずっと、ずっと!あとのことですから!』


「そうだね。でも、覚えておくんだ。君も、いつか……卵を産み落とす。アーレスとスカイラーの仔である君は、おそらく……次の『グレート・ドラゴン』の母になるだろう。『耐久卵』を産むのだ。何十年、何百年か先に、その仔は目覚め、また強い王朝を復活させる……」


 アーレスの血で再建された竜の群れは、最強に見えた。


 それでも、やがては……。


「我々、人にも、竜にさえも、永遠はないのだ。だからこそ、君の使命は大きなものだ。いつか、この最強の竜騎士団が滅びる日に……君の仔が目覚める……そんな事態だって、ありえるんだよ」


『でも、でも!まだまだ!とおい、とおいみらいですから!』


「……ああ。そうだね。今は、この話題は早過ぎる。強くなろう。私も可能な限り、導くよ。この竜の王朝が、より長く続くように……」


 彼の予想は当たるのだ。


 遠い遠い未来の果てに……。


 次なる『グレート・ドラゴン』が、アーレスの孫竜は、彼女の仔として『耐久卵』を割るのだ。これから、三世紀後にはなるが……。

 




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