最終話 『真なる歌は、我が名と共に』 その69
黄金の爆撃の向こう側で、邪悪な気配が形を変えていくのをアーレスとメリッサは嗅ぎ取っていた。
「耐えた……再生、していく!?」
『……より、姿を…………あいつに、似せるのか……人の、姿に』
「きっと、お姉さまの力で、この窮地を乗り切ろうとしているのね」
『正直になっていいか?』
「もちろん」
『……今ので、かなりの魔力を使った。決めるつもりであったが……』
「問題は、ありません。悪神が、お姉さまの姿を選ぼうというのなら……戦い方が、より明白になりますから。人の形で、魔力を運用してくれるなんて、『狙いどころ』が定まりますよ」
『……ほう。相変わらず、賢いと来ている!オレよりも、先に……敵の『弱点』に気がつくとはな!!』
「きっと、お姉さまとの日々が、鍛え上げてくれていたのでしょう。貴方と、私も……」
彼女の『妹』は黒い瞳を閉じた。記憶は、やはり蘇ることはない。それでも、『歌喰い』の力を越える絆を感じられる。
「お姉さまなら、あきらめませんから。そうでなければ、ガルーナで最も大きな歌を、目指せるはずもありません」
瞳を開き、戦場を見下ろした。『ラウドメア』が黄金の果てから、紅い姿で舞い戻る。煉獄の爆熱を乗り切った姿は、より小さくはなっているものの……竜騎士姫の姿に似ていた。
人の姿に凝縮することで、力の密度を高めている。大きく弱ってしまってはいるが、それでも闘志はつなぎとめ、その姿は地上にあるどの塔よりも高い。
悪神の目が、敵をにらむ。
『たえられたぞ……ッ!!私は、耐えた……ッ!!竜よ、貴様も、今ので限界だ……ずいぶんと、魔力が弱くなっている!!!当たり前だ、神である私でさえも有限なのだ!!!それならば、貴様らは、より弱く、小さな限界の内にあるのだッッッ!!!』
『ふん。そう思いたいのならば、そう思うがいい。オレの魔力が、尽きているなどと!!ありえんがなあッッッ!!!』
黒竜アーレスが、その身に残存している魔力を昂らせる。鱗を逆立たせ、三大属性の全ての魔力をまとうのだ。
「……アーレス。それは……」
『知らん!!だが、分かる!!……これで、決めてやる……っ。というか、次は、ない』
「……ええ。そうですね。チャンスは、一度だけ。あいつが、自らの弱点に気づけば……私たちに勝ち目はない」
悪神の指摘は正しい。魔力も体力も、尽きかけている。アーレスが今この瞬間に帯びている魔力は、あきらかに命を削りながら放っているに過ぎないものだ。長くは、持たない。
「……問題ありませんよ。持久戦は、最初から想定すべき選択ではなかったのだから。これで、決めればいいだけのこと!アーレス!」
『おうよッッッ!!!』
魔力を、再び口のなかに集約していく。
悪神は、一瞬だけ怯えてしまったが、すぐに自信を取り戻していた。
『さっきよりも、弱い威力の『火球』などに、負けるはずもない!!!竜騎士姫の……力で、私が、勝つ!!!貴様らは、『歌喰い』の力の果てに……消え去るのだッッッ!!!』
悪神が両腕を伸ばす。
空を掌握するように。
紅く輝く紋章が、伸ばした両腕のあいだに展開されていった。荒ぶる破壊の魔力が、集まっている。魔術の基礎の姿勢にさえ、似ていた。『全ての魔力を注ぐ』ことは、基礎であり奥義でもある。
「さっきまでの攻撃と同じですね。ただし、あちらも全てを注いでくる……これが、互いに……最後の一撃。アーレス、私の魔力も……少しですが、翼に!!」
『うむ……っ!!』
メリッサも持てる魔力の全てを、竜の翼に与えるのだ。融ける。人と竜の魔力が、融け合った。懐かしいと思えることが、おそらく……正しい選択を示しているのだと、ふたりは信じる。
魔力が融け合いながら、翼を駆け巡る感覚……全身を、強化していく感覚。それを、この極限状態で、選べたという事実。『歌喰い』の力を越えて、記憶は再び翼に宿ろうとしていた。
『勝つのは、滅ぼすのは、私だあああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!』
特大の紋章から、紅い雨が再び放たれた。速度も、威力も、大きい。『ラウドメア』にとっても、最後の力である。
だから。
黒竜アーレスは、その口のなかに集めていた黄金色の輝きを……。
……吞み込んだ。
自らの身に、その集めていた魔力を還元させたていく。
撃ち放つために、集めた力ではない。
悪神の攻撃を誘い出すためであり、『忘れているはずの奥義』を組み上げるためであった。
体内を駆け巡る、強大な魔力を、アーレスは懐かしむ。記憶に、欠片が突き刺さっているのかもしれない。
無数の紅い魔弾の群れが接近したそのとき、アーレスを撃ち抜く攻撃が完結しようとしたその刹那の寸前に―――竜騎士姫の奥義は、アーレスにも完全な伝承を果たしていた。
全ての属性の魔力により……。
自らの身体能力を、極限にまで高める奥義。
『竜の焔演/りゅうのほむらの』の力が、アーレスの全身を包み込んでいた。
悪神は、自身を切り裂いた竜太刀の斬撃の数々を思い出しながらも、叫ぶ。
『先に、仕留めれば、それで、終わりだああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!』
空に。
紅い爆炎が発生していた。悪神の魔術の方が、早さがあったゆえに。




