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竜騎士姫アレサ ~最後の竜騎士の英雄譚外伝~  作者: よしふみ


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最終話    『真なる歌は、我が名と共に』    その65


 黒竜アーレスが、ガルーナの風を翼に受け止めながら、高く高く、空へと舞い上がる。メリッサの身体は、覚えていた。空を飛んだ記憶も、技巧も忘れてはいない。知識の多くは、まるで虫食いに蹂躙された書物のように、あちこち抜け落ちていたが。


 賢いことは強さである。


 知識のあいだに抜け落ちた空白を、メリッサは想像力で補っていた。


「風と……一つに……融け合う、ように…………ですよね…………お姉さま……」


 思い出は失われている。


 それでも。


 感情の残滓が、心に煌めいていた。


 一番星のように、真っ暗闇のなかでも強く。それが、メリッサの賢さと融け合って、少しずつ、空のなかで彼女と作ったはずの竜乗りの知識が復活していくのだ。


「最高を、目指せばいいんだ。そこに、きっと……お姉さまはいるから。アーレスと、お姉さまなら、そこに辿り着いていたに決まっているから」


 信じる。


 一切の疑いの余地など、ない。


 疑心を捨て去り、メリッサ・ロウはただひたすらに星々を追いかける。風を見て、空を感じて、雪と雲を聴くのだ。ガルーナの景色が、分からせてくれる。理想の飛び方は、きっと……。


 メリッサが、アーレスの背の上で前傾姿勢を作った。アーレスは、心地良さを覚える。


 失われたはずの記憶が、叫んでくれていた。


 初めて、竜騎士姫の力を識ったときを、思い出せなかったとしても……わずかに、感じ取れる。


『重荷になるはずが、ない……竜騎士が、いれば。オレたち竜は、より強くなれるんだ。だから、だから……多くを、倒して来れたんだよ』


 覚えているのは、彼女と共に倒した敵の数々。多くの竜と、多くの外敵。勇ましく、強く、数が多いが……全てに勝利したからこそ、今このときに空へ君臨しているのだ。


 ふたりに挑み、歌へと散って行った全ての敵たちが、アーレスの心にささやいた。竜騎士姫の動き、竜騎士姫の言葉……それらは具体的には思い出せなかったとしても、それでも、かがやく星の灯りのように、失われた空虚を周りから照らしてくれる。


 賢い竜もまた想像に補われた記憶のなかで、竜騎士姫と出逢えるのだ。


 飛び方が、どんどんと変わる。


 速くもなり、緩やかにもなる。


 二年間で獲得した、進化が再び、アーレスのなかで起きていた。


 黒い双眸と金色の双眸、それらのすべてを静かに閉じて。踊るように変わる風の流れを全身で感じる。


 メリッサとアーレスの記憶と知識が、技巧を通じて、それぞれを支えように補い、進化の速度は早まっていくのだ。多くの納得が得られる。試行錯誤の痕跡を、追及と理想の日々の影を……竜騎士姫の妹と、最強の黒竜は踏みながら追いかけた。


 見えなくても。


 聞こえなくても。


 どこまでも信じられる力が、そこにある。


「うん。これが、お姉さまと、アーレスの飛び方なのね」


『そうだ、と思う。いや。そうだ。これこそが、オレと、竜騎士姫が、至った高み』


「えへへ。嬉しい。泣くほど、嬉しい……悲しみを、この実感が、和らげてくれる」


『さあ。行くぞ。ヤツが、また地上に出て来る』


 取り戻した金色の双眸は、二つとなった魔眼は、これまで以上の優れた能力を宿していた。竜騎士姫との日々で磨かれた力が、完全な二つの魔眼に加わり、アーレス自身も驚かせるほどの眼力を与えている。


 地下の、深い深い場所で。


 邪悪なる者が、ジーン・ストラウスに破壊し尽くされながらも、わずかばかりに残った力を吸い上げていく。地下の、滅びかけの『己自身の遺産』を吸い上げながら、悪神は選ぶ。


 決戦に相応しい形を。


 自身が最も強いと考える者を。


『あれさ・すとらうすだあ……あれが、おおくのちからを、あつめる。あれが、あれが、いちばん、こわい……ならば、あれに……あれそのものに……なれば、いい!そうすれば、もう、こわいものなど、いないのだから!!!ひゃは、ひゃははははははあああ!!!』


 赤く燃える。


 竜騎士姫の赤毛のように。


 竜の火焔のように、『ラウドメア』はその全身を紅く暴れる身へと変えながら。大地を揺らし、地上へと飛び出していた。


 それは……。


 悪神の思惑の通りに、彼女の姿かたちを、模倣していたのだ。


「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!?」


「あれは、あれはあああああああああああああああああああああああ!!?」


「『ラウドメア』なのかああああああああああああああああああああ!!?」


 ガルーナの人々は、目撃した。


 あまりにも巨大な、まるで山のようなサイズとなった『赤く燃える女』を。


 まるで、邪悪な魔女の化身のようであり、地上にいる全ての者たちを不安へと呑み込んでしまう。


「ああ、リアムさま、カレンさま……っ。乳母である、私が、必ず……安全なところに。怖くは、ないですよ。怖くは……私たちが、必ず…………あれ…………まったく、怖がっていませんね……?」


 『ラウドメア』が化けたモノではあったが、確かに遺るその気配に、乳飲み子たちは母親を感じ取っていたのか。


 何であれ。


 ストラウスの次代を継承する双子の赤子は、空をじっと見たまま、わずかに微笑む。


 赤子たちの視線を受け止めながら、巨大なる『ラウドメア』に向かう黒い竜は、歌うのだ。


『GHAAOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHHHHッッッ!!!』


 『ラウドメア』は、見る。


 何十メートルもある、炎のように紅に輝く髪を揺らしながら。


 歌と笑顔を。


「我らこそが、竜騎士姫の竜とッッッ!!!竜騎士姫の妹だああああああああああああああッッッ!!!ガルーナの民よ、恐れることは何一つないッッッ!!!我らが、今から、この悪神を討ち滅ぼすぞおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」




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