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ブールノイズの罪  作者: デグリーズノート
Chaptre Ⅱ Not Fairy tale
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第8節 名もなき男の葛藤


「早く吐いちゃった方が楽になるんじゃないの?」

「うぐぬぬ・・・」

ワルツライトの言葉に前歯の折られた男は、口を震わせ声にならない声を漏らす。

この男つまりは、最初ワルツライトに連れられて現れた口先だけの背の高い男なのだが、返り討ちにあって小動物のように震える姿からは、つい先ほどまでの偉そうで大きな態度は見る影もなかった。

と言うよりも、恐るべきはこのワルツライトという少年なのだろう。

何人もの相手を狭い路地に誘い込んで無力化し、時にはえげつないやり方も躊躇なく選んで相手の戦力を削っていった。そして全体の指揮をとっていた目の前のこの男と一騎討ちになるや、圧倒的な実力差で自分よりも遥かに大きな相手を打倒してしまったのだ。

何がケンカが弱いだよ、強すぎじゃねえかとニールは独り言をつぶやく。


逃げられないよう背後を塞ぎ、ワルツライトは男に詰め寄る。

「ねえ、ヤボイはどこに隠れてるのさ?」

「許してくれよ!そんなこと喋っちまったら、俺たちの居場所がなくなっちまう」

「居場所がなくなる?ここに居場所がなくなったなら、北区の方にでも行けばいいじゃないか」

「んなっ!?あっちは力のない奴が踏み込んだら、生きて戻れないって言われる激戦区じゃねえか。命がいくつあっても足りゃしねえよ」

「へえ、じゃあこっちの南区だったらチョロいからって威張り散らしてたのか?」

「調子に乗ってたなら、謝るよ!俺たちも生きていくのに必死なんだ」

その言葉にニールが激しく反応した。

「話をすり替えてんじゃねえよ!生きていくことに必死なのと、調子に乗って人を陥れることは別モノだろう」

「無駄だよニール、こいうバカに言葉は意味を持たない。その場その場で適当にはぐらかすために、その都度適当な言葉を並べてるだけだから。言葉に意味もなければ、気持ちも入ってない。まともに向き合う方が時間の無駄ってやつさ」

「チッ・・・」

「まあそういうヤツだからきっと周りからも嫌われているに違いないし、利き腕の一本でも貰って弱らせとけば、そのうち仲間だったヤツらからじわりじわりと仕返しされて、自然とここにも居場所がなくなるんじゃないの?」


そう言いながらワルツライトが男に近づいていくと、その顔色が青ざめていく。

「待て、ちょっと待て!話す!ヤボイの居場所を教えるよ」

「へえ、教えてくれんの。で、どこ?」

教えると言いながらもなかなか口を開こうとしない男に、早くしろとニールが怒鳴り声を上げると、ひっと小さく悲鳴をあげて男は喋る。

「ア・・・、アンデール商会の廃倉庫だ」

「アンデール商会?・・・そうか、そういうことか」

「どういうことだ?」

妙に納得しているワルツライトに対して、それがどういう事を意味しているのか理解できないニールは、素直に教えを乞うた。

「最近やたらと景気のいい商会だから裏で何かあるんじゃないかと思ってたんだけどさ、エンプキスを使って表沙汰にできない仕事をやってたって事だよ。エンプキスからすれば、裏でバックアップしてもらえるのだから潜伏も容易だし、都合の悪い情報をもみ消すことも表と裏から働きかければ効率がいい。だからあんな謎の多いグループになってたんだ」


「なあこの事は内緒にしてくれよ!でないと俺は消されちまう・・・」

「まあオレたちは内緒にしとくけど、お前がオレたちを襲って失敗したってことは、こっちが黙ってても誰かが噂するんじゃないの?となると、情報がどこから漏れたかバレるのも時間の問題だろうね」

「そんなっ!?」

「まあ俺たちに脅されたからとでも理由をつけて、早いとこココから逃げた方が身のためだろうな。どのみちバレたらタダじゃすまないんだろ?」

ニールのその言葉に、男は心外だと言わんがばかりに声を荒げる。

「それじゃ約束が違う!俺はここで今まで通りやっていくために喋ったのに!」

「お前、人の話をまともに聞いていたのか?そんな約束してねえよ」

「騙しやがって!」

「無駄だよニール。こいつパニックになってるから話が通じやしないよ。仕方がない、じゃあ西区のエニーシーンを頼っていけば?ワルツライトに言われて訪ねてきたって言えば、話くらいは聞いてくれるかもしれないから」

「おいおい、エニーシーンって、・・・あのエニーシーンか?」

「お前の言うエニーシーンが誰のことかは知らないが、西区でエニーシーンと言えばオレは一人しか知らない」

「マジかよ、ビッグネームじゃねえか」

喜び勇んでいまにも飛び出しそうな勢いの男をワルツライトは呼び止める。

「ただしエニーシーンの前でバカなこと喋ったら、もうブールノイズから出ていくか、もしくは消えるかしか残されてないから覚悟は決めていくことだね」

「分かってるって、わかってるって!アリガトよ!」

そう言って男は足早に去っていった。


「いいのか?あれ多分、分かってないぞ?」

「だろうね。まあエニーもその辺は心得てるし、後で適当にあしらってくれって伝えとくよ」

ニールはエニーシーンという人物の事を知らないが、あの男が西区のビッグネームだと言っていた。自分よりも年下であろうワルツライトがなぜそれほどの人脈を持っているのか、そして聞いたこともなかったアンデール商会の情報といい、この少年から感じていた底のしれない輪郭がじわじわと浮き彫りになってくるにつれ、さらに謎が深まっていくのだった。


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