第2節 ペレグリム修道院の秘密
ペレグリム修道院。
ここは大通りから離れた立地ということもあり、夜ともなれば敷地内は静まり返ってピンと冷たく張り詰めた空気の中に小さな礼拝堂が佇んでいる。
ここで暮らす多くの修道女は大半が身寄りのない少女たちであったが、中にはそれなりに身分のある貴族や商人の息女も含まれていた。就寝前の祈りを捧げ終わり、年上の修道女が幼い者たちを連れて宿舎に戻っていくなか、戸締りの確認をしていた少女が異変に気付く。
「どうしたのです?ソニア」
「あっ、シスター!人です、人が倒れていますよ」
「どこですか?」
「ほら、あそこに」
シスターと呼ばれた年配の修道女が、宿舎へと続く小道横にある茂みの陰を調べてみると、ソニアの言う通り血まみれになった少年が隠れたまま意識を失っていた。
「まだ子供とはいえ、男子禁制の修道院に紛れ込んで来るなんて・・・」
「まさか死んでいるんじゃないですよね?」
ソニアは心配とも不安とも取れる様子でシスターの顔を覗き込む。
しかし幾度も亡くなった人間を見てきているシスターには、少年に息がある事くらいは一目でわかる。物怖じもせずに少年に近づくと、彼の手のぬくもりから無事を確信したシスターは、ソニアの方に振り返って大丈夫だと首を縦に振って返した。
それを見て安心したソニアはホッと胸をなでおろす。
「でもそうね、こんな所にいつまでも寝ていられたら困るわね」
「いや、そういう問題では・・・」
シスターはハァと小さく溜息をつくと、覚悟を決めたようにソニアに向き直った。
「仕方がない、あの子を中に運ぶのを手伝ってちょうだい。それから目が覚めたら温かいスープとパンを出してあげて」
「いいんですか?」
「あら、あなたもそれを望んでいるのでしょう?」
「えっ、いや、それは・・・」
ソニアは顔を赤らめながら、返答に困ったようなそぶりを見せたがそれも仕方がない。いくら修道女といえども彼女もまた年頃の娘だ。同じ年頃の異性を意識しないと言えば噓になるだろう。
「でも気を付けなさい、他の者に知れたら騒ぎになります」
「えっ?ということは、皆には秘密にしておくのですか?」
「仕方がないでしょう、ここは修道院ですよ?だからあなたも共犯者としての覚悟を決めなさい」
「はいっ!」
・・・とは言ったものの、この狭い修道院で他の者に内緒にしたまま少年を匿うとなると、それはそれで簡単なことではない。自由気ままにあちこちと動き回る幼い子供たちを、ここに近づいてはいけないと縛り付けるなんてことは不可能だ。シスターは日々の生活の上で、皆が行う業務の動線を思い浮かべながら一つの決断をする。
「北の離れにある小部屋を使いましょう。あそこなら誰も近づく者がいないでしょうから」
「北の?ああ、そうですね!あそこなら」
「なかば物置になっているので手狭ではありますが、その代わりに灯りが漏れて気付かれることもないでしょう」
「それにあそこは、小さい子たちも気味悪がって近づきませんから」
幸いなことに少年を運ぶ算段をする頃には、人の気配は辺りから完全に消えていた。恐らく皆、宿舎の中へと戻ったのであろう。逆にシスターやソニアの不在を不審に思われないためにも、動くとしたら今が絶好のチャンスと言えた。
「では、あなたはそちらの肩を持ちなさい。いいですか、誰にも気付かれることのないよう静かにですよ」
「わかってます」
こうして二人の修道女によって、少年は修道院の敷地内へと運び込まれたのだった。




