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ブールノイズの罪  作者: デグリーズノート
Chaptre Ⅰ 汚れた目の子供たち
12/23

第10節 旧友


「ホラホラ、もうとっくにラストオーダーも過ぎちまって店じまいなんだよ。こんな所でいつまでも油を売ってないで、早く家に帰んな!」

「自分の店に、こんな所はないだろう。ジュネさ~ん」


オーズキッチンの店を閉めて、早く片付けに執りかかりたいのに、いつまでたっても帰ろうともせず居座り続ける客たちにジュネは苛立ちを隠そうとせずに怒鳴りつける。だがそんなジュネの態度に臆することもなく、タチの悪い客たちは微動だにする気配がない。たしかにこの客たちに多少のアルコールは入っているが、この店に置いてある安酒にそれほど度数の高いアルコールは含まれていないし、そもそも金を持っていない彼らがそれほどの量も飲んでいない。つまりは酔っていようが素面だろうが関係なく、性根が悪いというか根っからタチが悪い連中なのである。


「ゥオラー!いい加減にしないと、つまみ出すぞコノヤロー!」

そう言った時にはすでに、というか言葉より先に、客に向かって殴る蹴るの乱闘騒ぎが始まっていた。そんな感情が荒ぶっている彼女の前に新たな来客が現れたものだから、ジュネの怒りは頂点を越えて一気に新境地へと突入する。

「店じまいだって、言ってんだろうが!ゥオリャー」

「久しぶりだな、ジュネ」

荒れ狂うジュネとは対照的に、男の涼しい声が通る。全身薄汚れたローブに身を包み、目深にフードを被っていた男は、ゆっくりとそのフードを外す。その顔を品定めするような目つきで睨みつけていたジュネだったが、己の古い記憶をたどりその男の正体が旧知の友であることに気付くと声を失った。


「・・・エド」

汚れた服装に反して、キレイな顔をした男は微笑みを浮かべてジュネを見つめる。

「アンタ、今までいったいどこに・・・。ってそれどころじゃない、オーズ!エドが、エドが帰ってきた!」

「なんだって!?」

店の奥からガチャンと食器の割れる音が響いたかと思うと、太った体格のオーズが羽でも生えたのではないかという勢いで飛び出してきた。


「エド・・・、本当にお前なのか?」

「ああ、また少し太ったんじゃないか?オチョリ」

幼少期のあだ名で呼ばれれたことで、この男の正体が自分たちの知っているエドで間違いないと証明されたが、それは少なからずオーズに恥ずかしい思い出をも呼び覚まさせた。

「オイオイ、俺たちいったい幾つになったと思ってんだ。いい加減、もういい歳したオッサンなんだからよ、今更そのあだ名は勘弁してくれよ」

「そうだな・・・。あの頃のガキだった俺たちが、ついこの間のように感じるけど、お互いに年を取ってしまったもんだよな。元気そうで何よりだ、オーズ」

「ああ、お前もな」

男の名はカールネン・エド・ピアズ、実はこのエドという名も幼名であったのだが、ピアズの名の方は良くも悪くも通り過ぎていて、騒ぎになってはいけないというオーズたちなりの配慮も含まれていた。なにより人には幼い頃のあだ名で呼ぶなと言っておきながら、自分は相手を幼名で呼ぶような理不尽な行動に彼がケチをつけるような小さい男ではないことを知っていたし、それが許されるほどの関係であったことの裏返しでもあったのだが。


「皆元気にしているか?」

「ああ、それなりにな・・・。いや違う、どうもリブがあまり良くないらしいんだ。俺たちも最近はなかなか会いに行けてないんだが、あいつも色々と有りすぎたからな」

「そうか・・・」

オーズが語るその色々と有りすぎたという背景を思い出しているのだろう、三人の間に重い沈黙が流れる。あのジュネでさえしおらしい態度になっているのだから、よほどの状況だったのだろうと推して知ることができるというものだ。


「そう言えば、お前たちは幼馴染みだったよな?ラズローと三人でいつも仲良くやってたじゃないか。今度お前の方からも顔を出してやってくれねえか?」

その言葉にピアズは何か思いを巡らせているような表情を一瞬浮かべたが、すぐに迷いを断ち切ったかのように友人の頼みに承諾する。

「わかった。今度覗いてみるよ」

「おお!そうか。あいつもきっと喜ぶだろうよ」

そう言いながらオーズは無精ひげにまみれた汚い顔を破顔させて喜んだ。それはお世辞にも美しいとは言えない顔ではあったが、不器用なりにオーズの心根の優しさを表していて、ピアズにとってはこの男のそういう所が昔から憎めななかった。


「よし、それじゃあそろそろ行くよ」

「オイオイ、今来たばっかじゃねえか!せっかくもう店も閉めるんだ、メシくらい食って行けよ。あまりいい品じゃあねえが、酒もいくらかはあるから、積もるハナシを聞かせてくれよ」

「いや、また今度にしよう。今日は顔を出せただけで十分だ」

「そうか?また必ず来いよ」

「ああ、約束する」

そう言って店を後にしようとするピアズの後姿を見ながら、オーズは変わらないなと思った。

昔から周囲の人間に対してどこか壁のある男だった。人見知りと言えば聞こえはいいが、他人に対して心を閉ざしているような気さえする。そんな彼が心を許していたのがラズローとリブだけだったのだが、まあ人の性格などというものは根っこの部分はそうそう変わるものではない。歳を取ればなおのことだ。また来るという約束も果たして守られるのかどうか疑わしいが、まあ彼が訪ねてきてくれて元気な姿を見れただけでもいいのだろう、とそう思っていた。


そんなピアズが立ち去り際に、振り返ってオーズに告げる。

「次に来るときまでに、いい酒を準備しといてくれよ、オチョリ。安酒じゃ、気持ちよく酔えないだろ!」

「おう、任せとけ!」

ピアズの意外な言葉に戸惑いつつも、オーズは即答する。

普通ではそうそう変わることのない性格が変わる。しばらく見ない間に、この男にも色々と有りすぎたのだろうなと思いを巡らせながら、オーズは旧友の後姿を見送った。




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