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ブールノイズの罪  作者: デグリーズノート
Chaptre Ⅰ 汚れた目の子供たち
11/23

第9節 kidnaper


物陰に身をひそめるニールたちの前に現れた、檻付きの荷車を引く馬車。その檻は暗い色の布で追い隠されてはいたが、その内から人の気配が漏れていることから、すでに何者かが中に閉じ込められているのがわかる。馬の手綱を引いている人物は、全身黒いローブに身を包み、頭にはフードを被っているため表情どころかその顔すら窺い知ることができない。しかしこの夜闇に溶け込むようなその姿は、決して見てはいけない者を見てしまっているような恐怖を観察者に与えた。

その馬車が大きな音を立てるでもなく動きを止めると、御者と同じ全身黒ローブにフード姿の出で立ちの二人組がどこからか現れる。二人は周囲に人気がないことを確認して、川沿いをフラフラと放浪する男をじっと見つめた。

「・・・急げ」

恐らくは御者から発せられたのであろうその言葉は、同じ姿格好をした三人にも序列があるのを示しているのか、その命令に従って二人組が気配を消したまま精神喪失者の男に近づいていく。


黒フードの二人組が喪失者の男に近づきその腕を掴まえると、二つに割れてしまった石片がカチッと合わさるかのように今までうわ言を呻いていた男が突如正気を取り戻した。

「ヒッ、やめろ!俺はまともだ、狂ってなんかいない!」

遠くから聞き耳を立てていたニールは、その姿にもなって今更まともな訳がないだろうと思ったが、ふと先程のジュネの言葉を思い出した。"自分がどんな人間かなんて自分ではわからないものだ"案外あの男も本当に、自分が狂ってしまったことに気付けていないのかもしれない。

黒フードたちは騒ぎ立てる男の口に布らしきものを詰め込んで口を塞ぐと、今度は腕を縛り上げて自由を奪った。そして二人がかりで男の身体を抱え上げると、荷車の檻へと運んでいく。黒フードたちのあまりの手際のよさに、男は抵抗するチャンスすらなく拉致されていった。


「(あの人どうなっちゃうの?)」

「(シッ!黙ってろジマ)」


カツン!


ジマが突然小声で話しかけてきたことで、動揺したニールの足元にあった石が転がっていく音が響く。それは注意して聞き耳を立てないと気付かないほど、とてもとても小さな音だったが、彼らの耳には届いてしまった。

「何の音だ?」

男を檻へと運んでいた黒フードたちが音に気付いて立ち止まる。

「どうした?」


ニールたちは気配を押し殺す。これほど徹底して己の存在を消し、闇に紛れて拉致を行っている黒フードたちのことだ、隠れているニールたちの存在に気付いたら、良くて自分たちも同じように拉致されるだろう。しかし考えたくもない最悪の場合には・・・、口封じをされて全員が生きてここから帰ることができないかもしれない。

ニールは背中に冷たい汗が伝って落ちていくのを感じる。

静かにながい時間が過ぎていく。恐らくそれは短いわずかな時間なのだろうが、一瞬が永遠にも感じるとはこういう時を言うのであろう。心の鼓動が頭にまで駆け上ってくるほどの緊張が走る。ニールたちの全員が気配を殺し、自分の存在を殺して、時が過ぎるのを待った。


「なんだ、ネズミか」

「ここら辺に死体を遺棄するからネズミが増えるんだ」

・・・助かった!ニールたちは心の中でつぶやいた。しかしその言葉は、黒フードたちが何らかの原因で死に至った者をこの場所に遺棄しているという事を意味する。そこにはすでに死んでいた者と自分たちが死に至らしめた者、ふたつの可能性が含まれている。

どちらにしても、死が、今、目の前にあるということを少年たちに意識させずにはいられなかった。


「オイ、何をしている。早くしろ!」


馬の手綱を握っている黒フードに急かされて、二人組が喪失者を檻の中に放り込むと、荷車は何事もなかったかのように立ち去って行った。だがその音が遠く聞こえなくなるまで、ニールたちは誰一人として身動き一つとれなかった。

偶然にも都合よく本当にネズミが現れたのか、それとも自分たちの存在に気付かれてしまったが、所詮ネズミほどのとるに足らない存在だという意味だったのか、黒フードが発した言葉の真意など今となっては分からないが、そんなことはどうでもいい。

命があって無事に帰れる。少年たちにとっては、それが全てであった。



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