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第3話

 だが、それ以前に妻の殺し屋に毒を売った店の方が窮地に立っていた。

 何しろこういう殺し等に使うような物を売る闇の店は信用第一だ。

 覚せい剤とかなら、そう固定の客はいなくても何とかなるが、こういう闇の店は、売る物が売る物だけに相手もそれなりの相手でないと売れず、客層がかなり固定されてしまう。

 だから、あそこの店の薬は効かない、役に立たないという噂が、裏世界、闇の世界で大っぴらに流れるようになったら、完全に商売をしていけなくなるのだ。


 そして、困った店は、妻の殺し屋が殺し損ねたその若い女性を殺すことに懸賞金を掛けた。

 その女がただの女でないことを証明するために。

 だが、それがもっと酷い事態を引き起こした。


 自分の記憶に間違いなければ、10万米ドルの懸賞首だった。

 何しろ当時の10万米ドルだ。

 上手くやればだが、当時の香港なら5年は家族と遊んで暮らせたと思う。

 だから、金目当てのチンピラどもが目の色を変えた。

 そして、借金返済に困っていた債務者どもも。


 ともかく、こういう噂は、早速広まって、相手にも伝わる。

 目標の若い女性は、夫ともに香港の繁華街に身を潜めてしまった(らしい)。

 その結果、何が起こったか。


 目標が同じなのだから、手を組んで。

 何てことを考えるのは、バカだ。

 1人なら10万ドルが丸々手に入るが、2人でやると1人5万ドルしか手に入らない。

 3人でやると自分の手取りは3万ドルと少しだ。

 しかも、相手はどう見ても単なる若い女だ。

 殺す前に楽しんでもいいだろう。

 そんな考えの浅い連中が、多数、集まった結果。


 香港の、特に若い女性に対する治安は急降下した。

 片端から、その女を探せ、と鵜の目鷹の目、この女で間違いねえ、と自己判断して殺す奴まで出た。

 だが、勿論、別人を殺しただけだ。

 そういう奴らは、金も入らず、警察の御厄介になって、何年も刑務所暮らしとなった。


 もう少し賢い奴は、見届け人、確認役と組んで、その女を探した。

 だが、そいつらの方が、もっと酷い目に結果的には遭った。

 複数の目で確認したのだ。

 いきなり、別人に手を出すことは無かったらしいが。

 

「ナイフでどてっぱらを完全にえぐったんだ」

「じゃあ、何で生きてんだよ。お前のナイフはおもちゃだよ」


「頭から胸から腹から、鉄棒でめった打ちにしたんだ。それなのに。へへへ。そうか、人間は鉄棒で殴られても死ぬどころか、怪我もしないんだ。そうだ」

「そんなことがあるか」

「お前達で試そう」

「おい、バカ、止めろ」


「車でひき殺せば、と思ったんだ」

「それで、何人も一緒にひいて殺して、どうすんだよ。肝心の目標は、無傷で逃げたぞ」


 最初のはともかく、後の二つは何が起きたのか、言うまでもないだろう。

 他にも似たような事件が、自分の聞いただけでも3件あったし、他にも複数あってもおかしくない。

 ともかく巻き添えの無差別殺人事件までが、何件も引き起こされたのだ。


 香港警察は完全に目の色を変えるし、市民の非難の声も轟々たるものになった。

 言うまでもなく、中国や英本国まで圧力を掛けてきた。

 香港中の幇が集って緊急会議を開き、その若い女性に対する懸賞金を全面的に取り消し、末端組織に至るまでその指示を徹底させる羽目になった、とまで自分は聞いている。 


 そして、その女性のことは、香港中の幇にとって、悪夢のような存在になった。

 何年もの間、幇のメンバーの間で、

「天ぷらを揚げるのが上手い中国系の20歳前後の若い女性を見かけた」

 と聞いただけで、頭痛を起こす幹部までいる、という噂が流れた。


 だが、時の流れは早い。

 10年も経てば、その女のことは香港の都市伝説の一つになってしまった。

 そして、更に10年程が経つと伝説からも消えた。

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