第4話
とは言え、それでは済まない人がいるのも、世の常である。
殺し屋夫婦の夫がそうだった。
結果的とはいえ、妻を自害に追い込んだその若い女性を、その夫は何としても仕留めることに決めた。
どうやったのかは、私には分からない。
ともかく事実上の雇い主であった件の幇の頭首と、殺し屋の夫は縁を切って、自由の身になった。
更にブローニングM2重機関銃のカスタム銃(単発狙撃が可能なように改造した代物)を、殺し屋の夫はどこからか入手した。
それだけでも、人一人を狙撃するのには、過重のような気がするが、相手が相手だ。
殺し屋の夫は手を抜かなかった。
特製の弾丸を3種類も、特別に手配して準備した。
通常の金属製だが、まずはホローポイント弾である。
次に悪魔祓い用に使われてきた銀製の十字架を溶解して作られた銀の弾丸である。
最後に、道士によって清められた水銀を込めた、いわゆる水銀弾である。
一発でも、普通の人間を倒すのには、充分だろうし、例え、妖怪と言えども、倒せそうな弾丸だった。
これらの手配、準備を整えた後、殺し屋の夫は、私に頼みごとをした。
「ムシのいい話だと自分でも想うが、子どもたちを連れて、香港から脱出してくれ。これだけの武器を香港市街で使用したら、他の市民に巻き添えが出るだろう。この狙撃が成功するにせよ、失敗するにせよ、自分は自決して罪を償うつもりだ。だが、その一方で、自分の子ども達に、自分達が殺し屋夫婦だということを知られたくないのだ。ある組織とトラブルになったので、お前と一緒に香港から逃げて生きるように、子ども達には伝えておく。私の頼みを聞いてくれないか」
私は、その頼みを聞き入れ、その殺し屋夫婦の3人の子と共に、香港から逃げ出した。
なお、件の幇の頭首も、薄々は察していたのだろうが、事の発端が自分の息子が引き起こしたトラブルにあることを熟知している。
だから、私と、その殺し屋の3人の子が香港から逃げ出すのを、半ば黙認してくれた。
そのために、殺し屋の夫が、その若い女性を狙撃した際のてん末については、人づてに聞いた話だ。
だから、どこまで正確なのかは、私には分からない。
ともかく、私の聞いた話だと。
目標となる若い女性の潜伏先を把握した後、件の重機関銃を密かに持ち込んで、狙撃可能なように配置して、その殺し屋の夫は、狙撃の機会をうかがい続け、終に絶好の機会を得た。
そして、特製の弾丸3発を放った。
その3発の弾丸は、ホローポイント弾は腹に、銀の弾丸は胸、恐らく心臓部に、水銀弾に至っては、頭部に、と3発共にその女性の致命傷になる箇所に命中した。
だが。
瞬間的にはそれぞれの命中箇所が弾け飛び、血が噴出、ざくろのように砕け散ったように見えたらしい。
しかし、テープが逆回転するかのように、それぞれの箇所は速やかに元通りに治癒され、その若い女性は慌てて走り去ってしまった。
殺し屋の夫は呆然とするしかなかった。
そして。
殺し屋の夫は、自分なりのケジメをつけた。
拳銃で自分の頭を吹っ飛ばして、自決したのだ。
その話を数年後に聞いた自分は想った。
あの女は、何者だったのだ。
聖別されている筈の銀の弾丸や水銀弾さえ、全く効かないなんて。
ともかく、殺し屋夫婦の3人の子を、自分は東南アジアのこの場所で育て上げた。
皮肉なことに、一番上の娘は、成長した後で自分の古女房になってしまった。
そして、つい最近、その若い女性とよく似た女性を、この街で自分は見かけたわけだ。
未だにその若い女性の姿形は全く変わっていないように見えた。
その若い女性の正体を突き止めるべきかもしれない。
だが、人が触れてはいけない世界の住人なのだろう。
自分は見過ごすことにした。
これで、本編は終わり、後1話、目標とされた側の視点からの話を、エピローグとして、投稿して完結します。
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