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エピローグ

 視点が変わっています。

 標的とされた側の視点です。

「ねえ、お兄ちゃん」

「何だい」

「あれは、何年前の事だったかな。香港にいて、私が殺されそうになったのは」

「殺されそうと言っても、自分もお前も殺される、死ぬことはないだろう」

「そうなんだけどね。ああ、本当のことを言いたかった」

 妹の口調に、あの時に自分が死ねればよかった、という想いをかすかに自分は感じた。

 だが、自分も妹も決して殺される、死ぬことはない身の上なのだ。

 そして、真実を語れない身の上でもある。


 自分と妹が、(おそらくだが)決して死ぬことの無い、不老不死の身になって数百年が経つ。

 何でそうなったのかは、自分達兄妹には分からない。

 だが、少なくとも何らかの呪術や魔術でないことは確かなようだ。

 どれだけ力のあると言われてきた悪魔祓いの神父や、また、呪術に長けていると評判の道士でさえ、自分達をこの呪われた身から解き放つことはできなかった。


 ある神父に至っては絶望の余り、信仰を捨てて、発狂したと自分は聞いている。

 確かに悪魔祓いをした人間が、何年も同じ姿のままでいるのを見ては、しかもそれが、自らの信仰と異なる異教徒とあっては、自らの神を信じられなくのも無理がない気が、自分にもしてくる。

 

 そして、そういった時の流れに自分達が止む無く身を任せる日々を送る中、大抵の時において、自分達は歴史の陰でひっそりと生き続けて来た。

 だが、そうは言っても、向こうからトラブルが飛び込んでくる時がある。

 40年か、50年か前の香港での日々、あの時の日々は、自分達が最大のトラブルに巻き込まれた時と言ってもよかった。


 自分達には、理由がさっぱり分からないが、妹が何人もの殺し屋に狙われた。

 だが、不死身の人間を殺せる訳が無かった。


 妹は、ナイフで刺され、鉄棒でめった打ちにされ、車に跳ねられた。

 他にも、様々な毒まで使われたらしい。

 しかし、自分達に毒は全く効かない。

(例えば、アルコールをどれだけ大量に飲んでも、自分達の身体はすぐに分解してしまうのだ。

 だから、自分達は酒を飲んでも、全く酔わない。

 それこそ、アルコール度96度のスピリタスと言えど、自分達にとっては水と言っても過言ではない。)


 そのために、妹は痛い想いを少ししただけだったらしい。

 また、毒に至っては、痛みすら妹は感じなかった。


 そして、妹が無傷であり続けることに苛立つ余り、本当か嘘かは分からないが、大量の毒ガスを妹を殺すために、ある殺し屋は入手して誤用したという噂さえ自分達は聞いたことがある。

 実際、しょっちゅう殺された遺体が出ることで有名だった香港の裏の裏といえる暗黒界隈で、ある日、何人もの遺体と百人近い謎の病の患者が転がる事態が起きたらしい。

 ちなみに死因等は公式発表では不明だが、巷の噂では毒ガスとのことだった。

 

 ともかく、他の人をこれ以上は巻き添えにする訳には行かず、自分達兄妹は、香港から密出国した。

 そして、中国南部を転々とし、更に東南アジアへと逃げて生き延びてきた。


「あの時だけど、一回、私は銃撃を受けたみたいなの。頭と胸と腹と三発が命中したと思う。でも、すぐに傷口は塞がり、表面上は私は無傷のままだった。狙撃手がその光景を見ていたら、正気を保てなかったでしょうね」

 妹は、諦観を込めて言った。


「全くだな」

 自分も相槌を打ちながら、妹の考えはもっともだと思わざるを得なかった。

 確実に仕留めた筈の相手が、無傷で平気でいるのだ。

 それを自分の目で見て、正気をどれだけの人間が保ち続けられるだろうか。


「本当に私を死なせてほしいな。私を死なせてくれるのなら、どれだけ有難いことか」

 妹は、遠くを見ながら呟いた。

 同じ思いをしている自分もその言葉に無言で肯くことしかできなかった。

 これで完結させます。

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