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第2話

 ともかく、それが発端で、自分達のいる幇とそのドラッグを売った幇とは、抗争を始めることになったのだが、発端が余りにも(以下、略)という事情がある。

 他の幇が仲介して話し合った末に、不良品のドラッグを売ったことで一方が詫びを入れ、謝罪金を払うことで、いわゆる手打ちが成立した。

 だが。


「幾らドラ息子とはいえ、あの女がいなければ、という想いがしてならん」

 息子を失った幇の当主は、配下の殺し屋夫婦にその謝罪金を渡してその女を密殺することを命じた。


 それを聞いた自分は、当初は軽く考えていた。

 殺し屋の夫婦は腕利きで、何人も密殺してきたのだ。

 すぐに片がつく、と思っていた。

 

 自分は助手として、その女と夫を探った。

 20歳そこそこの若夫婦で、大陸から逃れてきた流れ者らしいこと。

 夫は日雇いの肉体労働で、妻はフィッシュアンドチップスというよりも、天ぷらを作るらしいこと。

 そして、本来の店主よりも、その妻が作った方が美味しい、どうみても日本の天ぷらだとして人気が出つつあること。

 夫婦は人込みの中にいることが多くて、狙撃は困難なこと等が分かった。

 過去が分からないことが引っかかったが、そんな人間、この当時の香港ではそう珍しくもない。

 ただ、中国系の筈なのに日本の天ぷらを作ることが、自分の印象に遺った。


 そして、発端が発端だけに、幇の人間を何人も使って、この夫婦を拉致監禁して拷問の果てに惨殺という訳には行かない。

 そんなことをしたら、いつかその情報が漏れた際に、周囲の幇から、あそこは特に悪いこともしない一般人相手に、そんなことをする幇なのか、と見下げられて、バカにされて、トラブルのタネになるからだ。

 変な話と言えば変な話だが、闇社会の幇だからこそ、それなりに筋を通した理由とやり方で、ことを処理しないと周囲の幇から、それを口実に潰されかねない。


 結局、まずは殺し屋夫婦の妻が、鍼での密殺を試みることになった。

 それで。


「確かに急所に鍼を打ち込んだ筈なのに。それも3回も」

 殺し屋の妻は、驚愕する羽目になった。

 3回、その若い女性に秘かに接近して、その度に鍼を別の急所に打ち込んだ。

 だが、その若い女性には3回とも、全く効かず、平然としているままだったのだ。


「何かされましたか。ちょっとちくっとしたのですが」

「いえ、何もしていません」

 そんなやり取りをした後、その若い女性は、いつも平然としている。

「効かぬ、効かぬのだ。そんな鍼」

 とその女性から、せせら笑われているようにさえ、最後には思えてきたという。


「1回だけなら、うっかり微妙に急所を外れるかもしれない。しかし、3回も急所を外すなんて、私の腕ではありえない」 

 殺し屋の妻は悩むようになった。


「こうなったら、殺し屋にとっての名折れになるけど、毒も使うしかない」

 殺し屋の妻は、そう決断して、何種類かの毒を使っての密殺を試みたらしい。

 それでも。


「死なない。そんな筈はない。念のために、闇とはいえど、それなりには信用のおけるところから入手した毒なのに。それを5回も。1回だけでも致死量の毒の筈、それを5回も投与されて死なない筈が無いのよ」

 とうとう、殺し屋の妻は、余りにも悩むあまり、その若い女性を殺すための毒を自分で呷った。

 これは、依頼された殺しを失敗したことについての自分なりのケジメの付け方でもあったらしい。

 そして、殺し屋の妻は、苦しみ抜いて死んだ。


 それを知った殺し屋の夫は怒り、そして、その若い女性を殺すことを誓った。

 殺し屋にとって、目標を殺せなかったというのは、確かに許されない話である。

 だが、何度も妻は試みはしたのだ。

 今やその女性は、殺し屋の夫にとっても仇になり、個人的な標的となった。

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