story.09 世界は案外狭い
エミリアはハル達の前にゆっくり歩み寄ってきて、恭しく頭を下げた。ハルが慌てて顔を上げるように促せば、彼女はその綺麗な翠の瞳に再びハル達を映し、口を開いた。
「うちの若い衆がとんだ粗相を働いたな。だが見ての通り、元々忌み嫌っていた人間達に、更に己や己の友や家族を傷つけられ、頭に血が昇るのも仕方のないことなのだ。お許し願いたい」
「い、いえ…!私達こそ、いきなりこんな大人数で押しかけてごめんなさい」
「………エルシアよ、そこにいるのだろう。隠れる必要はあるまい」
村長の視線が私から後ろへと移り、ハルも振り返ってみればいつの間にかリュウの背に隠れているエルシアがいた。名前を呼ばれて驚いたのか、目を丸くして額には汗が滲んでいる。
「お前のことももう咎めぬ」
「……おばあさま……」
「お、おばあさまぁ!?」
エルシアの口からこぼれたその単語に、ハルとリュウは思わず叫んでしまった。
え、おばあさまって……ぜんぜんこの人おばあさまって年に見えませんけど!?どれだけ頑張っても20代後半くらいにしか見えませんけど!!やっぱりエルフは人間とは年の取り方が違ってたりするのかな……
「(それにしても、エルちゃんは村長さんのお孫さんだったのか…じゃあ必死になるのも無理ないな…)」
「おばあさま……しかし、宝玉は……私のせいで……」
「何も孫だから許すのではない。我々は先程、人間に助けられた。」
エミリアはエルフの村人たちをぐるりと見渡し、威厳のある凛とした声で続けた。
「エルフの戦士たるもの、受けた恩は決して忘れるな。良いな」
「……はい……」
「申し訳ございませんでした…」
「あの…人間に助けられたって……?」
ハルが恐る恐るそう聞けば、エミリアは静かに話し始めてくれた。
村が襲われた際にたまたま冒険家のパーティが村の付近に滞在しており、村の人達が逃げる隙を作るために襲ってきた連中と一戦交えたらしい。お陰で村の人達は、怪我はしたものの全員生きて地下へ逃げ延びることができたのだそうだ。
「彼らがいなければ、今頃どうなっていたことか……」
「……今、そのパーティはどこにいるんだ」
僧侶がエミリアを見据えて静かにそう問う。彼女もまた、徐に口を開いて続けた。
「交戦時に深手を負って、現在うちの者が手当を施している。」
「……そいつらに会ってみるか。敵の情報を何か掴んでるかもしれねぇ」
エミリアの言葉を聞いて少し考える素振りを見せたあと、僧侶はそう言った。彼女はじっと見定めるように僧侶を見つめ、やがて前を向いて歩き出した。
「……良かろう。ついてきなさい」
「し、しかし村長……!」
「この人間達からは彼らと同じにおいがする。連れて行っても問題なかろう」
「そ…村長がそうおっしゃるのであれば……」
エミリアについて更に洞窟の奥へと進めば、大きく開けたところに出た。そこには布がたくさん敷かれており、その上に傷ついた人々が横たわり、うめき声をあげたり苦しそうに泣いているエルフの人達がいた。
「酷い……」
「まるで地獄絵図だなおい……」
目の前の惨状にハルとリュウがそれぞれ呟いていると、エミリアは布の合間を縫うようにして進んだ。それにハル達もついていく。
「彼らはこちらで休んでいる。……残念ながら、まだ意識は取り戻していないようだ」
「な…っ…マグナ!?ユギトにペペル……!!」
リュウが名前を叫びながら、横たわる彼らの元へ駆け寄った。ハル達も慌ててついていき、その横にしゃがむ。僧侶が目を丸くしたままのリュウに小さく尋ねた。
「知り合いなのか」
「あぁ……前いたパーティの奴らだ。そういや酒場で次はエルフの村に行くとか言ってたような言ってなかったような……?」
「なんでそんなに曖昧なんだよ」
「俺あん時食うのに必死で話聞いてなかったからな!」
「お前協調性無さすぎだろ」
それをあんたが言うか……!!
とハルはものすごく突っ込みたくなったが、それよりもこのようすじゃ目を覚ますには暫くかかりそうだし、敵の情報を集めるのは他のエルフの人達に聞くしかない。しかしみんな怪我していて、それどころでは無さそうだ。
「エルフの戦士も……大勢……やられてる…奴らは…只者じゃない…エルシア……気を、つけて……」
「リズ!」
先程リュウと頬のつねり合いをしていたエルフの少女がふらりとよろけ、エルシアの方へ倒れる。彼女も腕や背中、至る所に火傷の痕や切り傷が残っている。エルシアは彼女を受け止め、抱きしめながら、ついに大粒の涙をこぼして泣き出してしまった。
「ごめんなさい……ごめんみんな……ごめんなさ……っ」
震える声で狂ったようにずっと謝っているエルシアになんと声をかけたらいいのか分からず、おろおろしているハルを尻目に、僧侶が立ち上がって、ゴキッと腕を鳴らす。
「ピーピー泣くなガキ」
エルシアは泣くのをやめて、僧侶を見上げた。僧侶も彼女を見つめて、腕を回しながらいつもの冷たい口調で告げた。
「全員纏めて―――――俺が治してやる。」




