story.08 エルフの民
僧侶に穴に蹴り落とされた時はどうなることかと思ったが、無事に後から下に降りてきた三人と合流できたハルは、少し安堵しながら洞窟の奥の方を眺めた。
そこは仄暗く、鍾乳洞のようになっており、ところどころに咲いた光る花が道を照らしていてとても幻想的だった。ハルは穴へ蹴り落とされたことへの怒りも忘れて、ついそれらに見とれてしまう。
「すっごく綺麗だねぇ……この洞窟エルフの人達が掘ったの?」
「違うわ。『ドワーフ』が掘った穴を利用してるのよ」
「『ドワーフ?』」
先頭を歩くエルシアの口から出た聞き覚えのない単語にハルが首を傾げながら聞けば、彼女は少しだけ後ろを振り返り、呆れたように言った。
「そんなことも知らないの?あんた本当に冒険家なわけ」
「あー…うん、一応そうみたいなんだけど……」
「なんだよエル、気づいてなかったのか?ハルちゃんは『救世主』さまだぜ。異世界から来たんだ、しらなくて当然だろ」
「『救世主』……?あんたが、あの……?」
エルシアは少し驚いていたが、ハルの腰に差している剣を見てからなるほどね、と呟いた。
「(やっぱり私みたいなのが『救世主』だなんて、みんな信じらんないんだろうなぁ……ほんとなんで私が選ばれちゃったんだろう……)」
少し俯き剣を見やっては眉をへの字にするハルだったが、エルシアが先程のドワーフについて説明をし始めたので顔をあげた。
「……『ドワーフ』はそこかしこに穴を掘るのが趣味な、根暗な奴らのことよ。私達の森の下にまで穴を掘り進めて、そのせいで地面が薄くなって、時々地面が抜けて穴に落ちる子もいるのよ。本当に傍迷惑な連中だわ」
「へぇ~……そういう種族もいるんだね」
「まぁ、そいつらの掘った穴のお陰で地下に避難所を作ることができたんだけど」
どんどん先へ先へと進んで行く。いくら光る花のお陰で明るいとはいえ、やはり奥の奥の方は暗くて良く見えない。ハルはこんなところでモンスターに出くわしたりしたらどうしようと思ったが、僧侶もエルシアもリュウもいるし、きっと大丈夫だろうと思い直して足を進めた。
「………」
今まで会話に入ってこなかった僧侶が、いきなり立ち止まる。どうかしたのか聞こうとしたが、すぐ耳元でぱぁんという衝撃音が弾けて、ハルはびっくりして思わず悲鳴をあげながら耳を塞いでしゃがみ込んでしまった。
恐る恐る目を開けてみれば、周りには無数の矢が落ちており、僧侶の結界がハル達の周りを囲んでいた。恐らく僧侶がこの矢から結界で守ってくれたんだろう。これが全部当たっていたらと思うと、背筋が凍った。
「一体、どこから……こんなにたくさんの矢……」
「……随分手荒な歓迎だな――――エルフの民」
僧侶が抑揚のない口調で奥の方に向かって言えば、ぞろぞろと大勢の耳の尖った人達が出てきた。その翠の瞳は怒りに満ちており、それぞれの手には弓矢や槍が握られていた。
「人間どもめ、何しにきた!!」
「みな!此処から先一歩たりとも侵入を許すな!!」
彼らはものすごい剣幕でまくしたて、矢先や槍の先をこちらへ向ける。先頭にいたエルシアは彼らの前に進み出て、必死に叫んだ。
「ま、待って、リズ、ルーカス!みんな……!この人間達は…」
「黙れ裏切り者!」
「どの面下げて帰って来たのよ!」
仲間たちからの心無いその言葉が相当きいたようで、エルシアは拳を握りしめて俯き、押し黙ってしまう。
彼女が一番村を救いたいと強く願って、頑張ってるのに。いくらなんでもその言い方は酷過ぎるんじゃ。
むっとしているハルの隣にいたリュウは、エルシアの横まで歩き出て、彼女の頭にぽんと手を置いた。
「お前らなー、まだそんなこと言ってんのかぁ?やっちまったもんはしゃーねぇだろ」
「黙れ人間!貴様に何が分かる!!」
「事の重大さを知らぬ人間め!!」
「ほんとうるせーのなー」
耳をほじくりながらくだらなさそうにそういうリュウを、エルシアは呆然としながら見上げた。一方でリュウのその挑発的な態度に激昂したエルフの村人達は、結界のせいで弓矢はもう使えないと踏んだのか、リュウと頬のつねり合いの喧嘩をし出した。
「んだコラ!おお!?やんのか!?」
「大体、人間のくせに生意気だお前!!」
「やれー!やっちまえリズー!!」
リュウとリズと呼ばれたエルフ族の少女が頬をつねり合い、その周りで他のエルフ族の人達が野次を飛ばす。
「な…なんか収集つかなくなってきたんだけど……僧侶くん、止めてよ」
「知るか。あいつらが勝手にやり始めたことだ」
「そんな冷たいこと言ってないで……」
「――――これ、若い衆。やめぬか、みっともない」
小声でハルと僧侶が話していると、突然洞窟の奥の方から落ち着いた女性の声がした。その声を聞いて、エルフの人達は騒ぐのをぴたりとやめる。
花の光に照らされて、その人物の顔が明らかになる。
エルフの特徴である尖った耳、白い肌、エルシアと同じ腰まである長くて綺麗な金髪、翠の瞳。頬には不思議な紋章がある。特徴からしてエルフ族だ。
「村長……!」
「え…村長?この人が、エルフの村の…!?」
「……我が名はエミリア。おっしゃる通り、エルフの村の長だ。」
道理で他のエルフ族とは纏う雰囲気が違うわけだ。エミリアと名乗った村長は、その聡明そうな翠の瞳にハル達一行を映した。




