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悪逆王の無茶ぶりがすべて村の発展に変換される件について 〜実は我が村、地下帝国と化して王国経済を乗っ取り中〜  作者: チラミン


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#8 元エリートの逆襲〜裏ルート経済侵略計画、始動〜

「アレン様……大変不躾な質問なのですが、この山は一体なんのために存在しているのですかしら……?」


地下帝国の最下層に新設された『第5物資保管倉庫』。

その広大な空間の入り口で、クロエが引きつった笑顔を浮かべながら指を指していた。


彼女の視線の先には、天井に届きそうなほどの高さにまで積み上げられた、黄金の山があった。

一点の曇りもない、純度100%の金のインゴット。それがまるで投げ売りされている建築資材のように無造作に山積みにされているのだ。


さらにその隣には、大人の頭ほどもある極彩色の高純度魔石がごろごろと転がり、その奥には、糖度がバグっているとしか思えない芳醇な香りを放つイチゴやブドウ、さらには極上の肉のブロックが、最新の防腐魔法フィールドに包まれて巨大な塔を形成していた。


「あー……それか。ポイントが余りすぎてな」


俺は後頭部を掻きながら、溜息を漏らした。


先日の『森の主討伐(偽装)』イベントによって、俺のカルマポイントは一瞬にして一億三千万ポイントを突破した。

これほどの莫大なポイントがあると、システム側の『デイリー自動錬成機能』や『施設維持の副産物』として生成されるアイテムの量が桁違いになってしまうのだ。


カルマポイントの世界において、金や魔石は単なる「導電素材」や「エネルギー触媒」に過ぎない。地下帝国の施設を拡張すればするほど、余剰となった貴金属や最高級の食材が自動的に精製され、この倉庫に送られてくる仕組みになっていた。


「地下の自動化プラントは完璧だから、俺たちの食事や生活資材としては1%も消費できてないんだよ。地下では金なんてただの重い金属だし、食材も生成ラインが無限だからな……ぶっちゃけ、置く場所に困ってるんだ」


「きゅ〜ん」


首輪の力でポメラニアンサイズに縮んでいるシロが、足元で金塊の一つを骨代わりに噛もうとしていたが、硬すぎて歯が立たず、情けない声を上げて爪でカリカリと引っかいている。地上の人間が見たら卒倒するような宝の山が、ここでは犬の玩具以下のアトラクションと化していた。


「置く場所に困っている……? この国宝級の純金と、一個で城が買えるレベルの最高級魔石が……?」


クロエの眼鏡の奥の瞳が、ゆらゆらと揺れた。

彼女は膝から崩れ落ちそうになるのを必死で耐え、震える手で額を押さえた。


「アレン様、正気ですか……? 王国は現在、過酷な重税と長引く不作、さらには悪逆王の無謀な軍備拡張によって、深刻なハイパーインフレーションに陥っていますのよ。王都の貴族や大商人たちですら、質の高い食料や高純度の魔石を喉から手が出るほど欲しがっていますの……それを、放置しているなんて……!」


「いや、放置っていうか……近いうちに『物質破砕機』で粉砕して、微量のポイントに戻そうかと思ってたんだけど」


「粉砕ッ!?」


クロエの悲鳴のような叫びが、広大な倉庫にこだました。

彼女はガバッと顔を上げると、だるだるのジャージ姿のまま猛然と俺に詰め寄ってきた。


「破砕機で粉砕など、断じて許させませんわ!! そんなことをしたら経済の神様に天罰を下されます! いいですかアレン様、この余剰物資は……王国を内側から完全に掌握するための『最強の兵器』ですわ!!」


* * *


三十分後。

地下帝国のラウンジに場所を移した俺たちは、円卓を囲んでいた。


円卓の上が散らかっているのはいつものことだ。

クロエの前には、彼女が最近最も愛してやまない『ポテトチップス(サワークリームオニオン味)』の袋と、キンキンに冷えたコーラ。膝の上には、すっかりブラッシングされてフワフワになったシロが収まっている。


だが、今のクロエの眼光は、いつものポンコツなニート令嬢のそれとはまるで違っていた。

目元に光る黒縁メガネをくいと押し上げ、分厚い羊皮紙に素早い手つきでペンを走らせている。元・王国財務省の天才官僚としての頭脳が、過熱するほどに高速回転していた。


「いいですか、アレン様、リリアさん」

クロエはポテトチップスを一枚口に放り込み、パリッと軽快な音を立てて咀嚼しながら言った。


「王国の経済構造は今、限界を迎えています。悪逆王カルロスは民から絞り取れるだけ絞り取り、その資金を自分の贅沢と無意味な軍事力増強に注ぎ込んでいますわ。その結果、市場に出回る食料や資源は枯渇し、金貨の価値は暴落……富裕層すら『本当に価値のある物』を手に入れられず、飢えていますの」


「ふむふむ……つまり、みんなお腹を空かせてるってこと?」

リリアがクレープを一口かじりながら尋ねる。


「その通りですわ! そこで、我が地下帝国が誇るこの余剰物資の登場です。純度100%の金塊、腐ることのない至高の食材、そして規格外の高純度魔石……これらを『身元不明の闇商会』として、王都の裏市場(ブラックマーケット)に大量に流し込むのです!」


クロエは持っていたペンで、羊皮紙に描かれた王都のマップをビシッと叩いた。


「貴族や大商人たちは、喉の乾きを癒すように我々の物資に飛びつくでしょう。彼らは喜んで手持ちの現金や、王国法で制限されている『希少な権利・土地』を差し出します。一度我が商会の極上品を味わえば、もう二度と既存の貧相な市場には戻れませんわ」


「なるほどな……」

俺は腕を組みながら頷いた。

「要するに、王国の経済の脈動を、俺たちの物資でジャックするってわけか。でもクロエ、俺は別に『王国を崩壊させて、民を路頭に迷わせたい』わけじゃないぞ? 滅びた国の王になりたいわけでもないしな」


俺の言葉に、クロエは「ふっ」と不敵な笑みを浮かべた。

サワークリームオニオンのパウダーが少しついた唇を指で拭い、彼女は断言した。


「勘違いしないでくださいまし、アレン様。目的は『王国の破壊』などという、低俗で建設性のないものではありませんわ」


「じゃあ、なんのためにそんな面倒なことをするんだ?」


「決まっていますでしょう!」

クロエは身を乗り出し、眼鏡をキラリと光らせた。


「我々が王都の裏ルートから巨万の富(現物資産や王室の利権)をむしり取る真の目的……それは! 『地下帝国に最新の大型アーケードゲーム施設と、新作フレーバーのポテトチップス専用生産プラントを建設するための資金と原材料の確保』ですわ!!」


「……はい?」


あまりにも堂々とした宣言に、俺とリリアは思わず口をぽかんと開けた。


「いいですか!? カルマポイントで生成できる物には限界がありませんが、王国の法律や利権、あるいは地上でしか手に入らない珍しい骨董品やリアルな貨幣価値は、やはり地上で集めるのが一番効率が良いのです! それに、王国の腐敗した貴族どもから金を巻き上げ、その金で私たちが最新のゲームで遊び、特製スープのラーメンを食べる……これ以上の『復讐』と『快楽』がこの世にありますかしら!?」


「あ、それすっごく楽しそう!」

リリアがパッと表情を明るくし、手を叩いた。

「私、ボウリング場とカラオケボックスが欲しいな! アレンが前に見せてくれた写真、すごく楽しそうだったもん!」


「ワンッ!」

シロも「俺にも肉の缶詰をもっとくれ」と言わんばかりに、同意の声を上げる。


「……お前らなぁ」

俺は額を押さえて苦笑した。


国家の破滅だの、歴史の転換点だのといった大層な理由ではない。

ただ自分たちが「もっと地下で楽しく、美味しく、だらだらと暮らすため」に、王国の経済を裏から侵食する。

呆れるほど個人的で、身勝手で、そしてこれ以上なく魅力的な目的だった。


「いいだろう。採用だ」

俺はニヤリと笑い、システムウィンドウを展開した。


「身元不明の裏商会か。名前はどうする?」

「そうですね……『シャドウ・トラスト』。あるいは『影の天秤』とでも呼びましょうか」

クロエが不敵に微笑む。


「決まりだ。今日から俺たちは、表向きは『搾取に苦しむ最貧の村』……そして裏では、『王国の経済を弄ぶ影の商人』だ」


* * *


作戦が決まれば、行動は早かった。


まず、輸送と身元偽装の手段だ。

俺は溜まりに溜まったカルマポイントを惜しみなく投入した。


《『光学迷彩機能付き・ホバー輸送トレーラー(大容量型)』を購入。消費ポイント:500,000 pt》

《『身元偽装用・変身ペンダント(音声変化機能付き)』×10を購入。消費ポイント:100,000 pt》

《現在のカルマポイント残高:136,700,000 pt》


地下のドックに出現したのは、漆黒の流線型をした無音の輸送車だ。

周囲の風景をリアルタイムで投影し、完全に透明化して移動できる。王国のいかなる魔力探知陣も、この現代チートの光学迷彩を見抜くことはできない。


さらに、商会を動かす「実動部隊」として、村人たちを集めた。


その夜、地下の大ホールに集まった村人たちに計画を説明すると、反応は劇的だった。


「なにっ!? 王都のいばり散らしてる貴族どもに、ワシらの育てた(※実際は自動生成された)最高級の米や果物を高値で売りつけて、金を巻き上げるじゃと!?」

村長が目を丸くする。


「ええ。ですが、あなたたちが直接顔を出す必要はありません。この変身ペンダントを使えば、姿も声もまったく別の『怪しい闇商人』に変身できますからね」

クロエがペンダントを掲げてみせる。


「そして、稼いだ資金と利権を使って……この地下に、温水プールと、二十四時間営業の居酒屋エリアを建設します!」

俺が追撃の提案を投げかけると、村人たちのボルテージは最高潮に達した。


「「「やるぞぉぉぉぉぉっ!!」」」


「あの豚役人どもに一服盛る勢いで、身ぐるみ剥いでやるだ!!」

「ワシ、商人風の怪しい笑い方の練習ならもうできとるぞ! ヒヒヒ!」

「王都の貴族なんぞ、俺たちの鴨だ!!」


長年、王国の理不尽な搾取に虐げられてきた村人たちだ。

彼らの「反撃」へのモチベーションは異常なほど高かった。全員がノリノリで変身ペンダントを受け取り、闇商人としての演技指導をクロエから受け始めたのだ。


元・財務官僚クロエの指導は苛烈だった。

「ダメですわ村長! 貴族相手にそんな弱腰な接客をしてどうしますの! 『この極上の米が欲しくば、そちらの金貨を倍積み出しなさい』と、それくらいの高飛車な態度でいきなさい!」

「は、はいっ! クロエ先生!」


地上ではボロ布を着て泥をすする村人たちが、裏では王都の貴族を脅しつける最強の闇商人へと育成されていく。その光景は、控えめに言ってもカオスだった。


* * *


数日後の深夜。

静まり返った王都の裏路地。


闇市がひっそりと開かれるその場所に、一台の黒い馬車――に見せかけた、光学迷彩を解除したホバー輸送車が静かに滑り込んだ。


車内から降り立ったのは、黒いローブを深々と羽織り、不気味な仮面をつけた人物。

変身ペンダントで声を濁らせた、村長(仮の姿:闇商会『影の天秤』の幹部)だ。


「おい……なんだあいつらは? 見慣れない面だな……」

集まっていた裏社会の商人や、貴族のお使いの使者たちが、怪しんで距離を置く。


村長は何も言わず、輸送車の後部ハッチをゆっくりと開けた。


そこに並べられていたのは――

宝石のように輝く、熟しきった至高のイチゴ。

一口食べれば寿命が延びると錯覚するほどの芳醇な香りを放つ、純白の米。

そして、見る者が息を呑むほど澄み切った、巨大な純度100%の金塊。


「「「なっ……!?」」」


周囲の空気が、一瞬で引きつった。


「これらは……我が商会が独自ルートで仕入れた『至高の逸品』だ」

村長はクロエから叩き込まれた通りの、高飛車で胡散臭い声を響かせた。


「金貨での支払いも受け付けるが……王都の特定の土地の権利書、あるいは王室の特殊な許可証となら、より優先して取引に応じよう。……さあ、買い手はいるかな?」


その言葉が終わるか終わらないかのうちに。

群がる貴族の使者と大商人たちが、目を血走らせて金貨の袋を掲げ、押し寄せてきた。


「買いだ! その米を全部私に売れ! 金貨ならいくらでもある!」

「待て、その金塊は我が商会が買い取る! 王都の一般区の権利書を出すぞ!」

「私だ! 私のほうが先だった!!」


札束と金貨、そして貴重な利権が、まるで雪崩のように村長の手元へと転がり込んでくる。


遠く離れた地下帝国のモニタールームで、その光景をリアルタイムで観測していた俺たちは、コーラで乾杯を交わした。


「ふふふ……かかりましたわね、愚かな貴族どもが」

クロエが膝の上のシロを撫でながら、暗黒面に堕ちた悪役のような笑みを浮かべた。


「これで第一段階は完了です。彼らはもう、我が商会の極上物資なしでは生活できない身体になりますわ。そして集まった資金で……ふふ、ふふふふ……!」


「クロエ、よだれ出てるぞ」

「失礼、取り乱しましたわ。……アレン様、早速ですが、ゲーム機とポテチ生成プラントの発注に取り掛かりましょう!」


「よし、任せろ。ポイントは吐くほどあるからな」


地上では、相変わらず「搾取に苦しむ最貧の村」を完璧に演じ続けながら。

裏では、王都の富と利権を根こそぎ吸い上げ、地下の娯楽施設を底なしに拡張していく。


悪逆王カルロスが、自らの足元が完全に地下帝国によって買い占められていることに気づくのは――もう少し先の話である。


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